表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/164

神が示した道筋


 どこまでも追いかけるつもりだったんだけど、それは向こうから襲い掛かって来てくれた。のこのこと洞窟に入ってしばらく進んだ私達に対し、殉教者が手にした剣で暗闇から襲い掛かって来たのだ。

 けど勿論私にはその行動がしっかりと見えている。触手で彼の腕を剣ごと食べ、更に彼の身体に触手を巻きつけて拘束してあげた。


「ぐ、あっ……!」


 殉教者が苦し気に呻く。本当はすぐに殺してあげたいんだけど、彼には聞かなければいけない事がある。なので、冷静に殺さずに捕らえておいた。


「……貴方はここで、何をしていたのですか?」


 捕らわれた殉教者に対し、カトレアが問いただす。

 ここまでくる間に、シェリアさんがランタンに火を灯して灯りを確保してくれていた。そのおかげで暗闇耐性を持っていない2人も、真っ暗なこの洞窟の中で周囲を見る事ができ、拘束された殉教者の姿を見る事が出来ている。


「ただの観光ですよ。険しい山に興味があって──がはっ!」


 ふざけた答えを口にしたので、触手できつく締め上げてあげた。すると彼は喋れなくなり、その顔が真っ赤に染まって行く。


「最後のチャンスを与えます。貴方はここで、何をしていたのですか?」


 カトレアは兜を取り外しながら、改めて尋ねた。

 カトレアの美しい金色の髪が曝け出され、その髪を軽く整える仕草が妙にキレイだ。


「クク……神の意思に従い、その時を待っていた」


 触手を緩めると、殉教者がカトレアを見て笑いながらそう呟いた。


「その時とは何の事ですか?」

「神罰が下る時」

「やはり……。この山に何か魔法を仕掛けたのですね。その時が来たら、魔法で山を崩してクルグージョアを壊滅させるという企みだったのでしょう?」

「クク……」


 カトレアの問いに、殉教者は笑った。その笑いは肯定ととれる。


「なんで……そんな事を……」


 その答えを聞いてショックを受けているのはシェリアさんだ。呆然としていて、殉教者の事を信じられないといった様子だ。


「カラカス王は神の意思に従う、敬虔で忠実な、畏き人間だ。クク……神はカラカス王に、神の意思に従わなければ神罰が下ると仰った。その神罰は、町全体を飲み込む程の強力な神罰だ。最初は信じていなかったが、小さな村を神罰によって消し去って見せたら途端におとなしくなり、神に与するようになったのだ」

「っ!もしや、あの村で起きた謎の爆発は……!いや、今はそれよりも、お父様を脅しているのか!?従わねば、クルグージョアを消滅させると!」

「脅す?違う。神は、従わねば神罰が下るかもしれぬと、助言をしてくださったのだ」

「ふざけるな!」


 シェリアさんがたまらなくなり、殉教者に掴みかかった。

 殉教者は腕がない。さすがに格上のシェリアさんなら、彼に負ける事もないだろう。そう思い、私は殉教者の拘束を解いて彼女に預ける事にした。


「お前がお父様を脅したせいで、ザイール諸王国はデサリットの信頼を失ったんだぞ!それどころか、今デサリットに攻め込んで大勢の命を奪う愚かな選択をとろうとしている!全部お前たちがお父様を脅してそうさせたのか!?何故そんな事をする!そんな事をして楽しいのか!?」

「かっ、神の意思である。神の意思に従えば、神罰はくだらない──……はずだった」

「はずだった!?どういう意味だ!」

「クク……」


 殉教者はシェリアさんに胸倉を強く締め付けられた上で壁に叩きつけられ、足が地面についていない。そんな状況で私の方を見て笑った。


「神は、デサリットの守護者に消えてもらいたいとお考えだ。少々回りくどいやり方だが、あの人間の言っていた通り、会議にカトレア様を招待したらのこのこと付いて来た。その上、神に命じられ山に待機していた我々にも気づき、こうして我々の下へもやって来た。全て、神が示した道筋だ。さすがは神」

「私を、おびきよせた……?」


 そうとしか考えられない発言だ。神様は私がここに来る事を予想していた。来ると分かっていて、待ち構えていたのだ。まるで抜け出せない底なし沼に足を踏み出してしまったような、そんな感覚に襲われる。

 いや、それよりもあの人間とは誰の事だ。一体誰がそんな助言をしたのだ。

 そう尋ねる間もなく、殉教者は話を続ける。


「クク。お喋りの時間はおしまいだ。神によって仕掛けられた素晴らしき魔法が、発動する時が来た。しかし死ぬ前にいい話が聞けて嬉しかっただろう?魔法の発動に必要な命のほとんどは、既に捧げられてある。あとはほんの一つの命が捧げられれば──」


 殉教者はそういうと、大きく口を開いた。そこから白い光の塊が出て来て、その塊は何かにかじられるかのようにして体積を減らし、すぐに姿を消してしまった。


「えっ!?」


 すると、殉教者が死んだ。シェリアさんに胸倉をつかまれた状態で、突然力がなくなって垂れ下がり、シェリアさんが驚いている。

 でも驚いている場合ではない。殉教者が死ぬのと同時に、洞窟の奥から強烈な魔力が放たれた。そしてその強烈な光がこちらへとやってくる。魔法が発動させられたのだ。私はその魔法を、知っている。


 ──消滅魔法。


 かつて私はその魔法を食べて、リーリアちゃんを庇う事に成功したものの身体を失いかけた。でも即死防御のおかげでどうにか生き延びる事が出来たんだよね。

 今回発動したこの魔法も、間違いなくそれだ。私はその魔法の気配を察知し、過去に身体を失いかけたその魔法に対して無意識に恐怖していたのだ。

 ただ、今回のこの魔法は過去に私がくらった物と比べて規模が大きい。規模が違うのは、魔法自体が強力なのと、加えて多くの命が捧げられたからだと思う。

 洞窟内の、腐敗臭。これは間違いなく、人間が腐った臭いだ。嗅いだことがあるので私には分かる。数十……いや、もしかしたら百名もの死体がこの洞窟内にはあると思う。それらは皆、この消滅魔法を発動させるために捧げられた命の抜け殻だ。

 発動のトリガーになったのは、私たちの目の前で死んだ男の人の命。失敗したなぁ。話を聞く必要なんてないので、やはり間髪入れずに殺しておくべきだった。


 この規模の消滅魔法を食べるなんて、不可能だ。しかし逃げる事も難しそう。魔法が発動した影響で洞窟内が大きく揺れ、洞窟内が崩れ出しているからね。

 私だけなら、最悪何もしなくとも生きていられる。だけどここにいるカトレアとシェリアさんは違う。何もしなければ、彼女達は魔法に巻き込まれて死んでしまうだろう。

 だから私は彼女達2人を咄嗟に抱き寄せ、触手と自らの身体で覆って消滅魔法の光から庇った。全身が、光に包まれる。光は私を覆い、私を消滅させんばかりの勢いでHPを削る。けど私もただやられている訳ではない。レデンウォールで壁を作り出してちゃんと防御している。けど、ほぼ意味がなかった。この魔法は触れた物を消滅させる魔法だ。壁は一瞬にして消しとび、留まる事をしらない魔法は周囲も飲み込んで消滅させていく。


「っ……!」


 でも、この2人だけは消滅させない。何がなんでも守ってみせる。私は2人を強く抱きしめ、魔法から必死に庇った。


 しばらくすると、魔法の発動が終わって光が収まって行く。気づけば暗いはずだった洞窟内に日の光が差し込み、その光に私達は照らせていた。それから周囲を見ると、周囲は丸い形で山が削り取られている。


「二人とも、大丈夫……?」


 触手の防御を解くと、その中に2人がいた。シェリアさんと、兜を外したカトレア。2人も、ちゃんと無事だ。


「あ、アリス様!身体が……!」


 カトレアは周囲の状況も何も関係なく、まず私の身体を見て心配してくれた。

 私は平気だよ。即死防御も発動していないし、HPもまぁまぁある。けっこう削られたけど、前より強力な消滅魔法をくらってこれだけ余裕があるんだから、自分の成長を感じるよ。でも背中側が酷い事になっている。服が破れ、フードも消え去って真っ赤に染まった背中が丸見えだ。触手もダメージを受けており、黒い血を流している。

 どうでもいいけど、本体は赤い血なのに、触手は黒い血なんだね。面白い。


「すぐに治療をしないと!」

「二人とも、落ち着いて。私は大丈夫。それよりも心配すべき事がある」


 私達が今いるこの山が揺れ動きだした。消滅魔法は、山の中腹までも消滅させてそのバランスを崩させた。バランスを崩された山が傾き、その形を崩そうとしている。


「山が崩れる……!」


 シェリアさんが気づいた時、天井にあいた穴からワイバーンがやってきて、私たちの下へと降り立った。あの魔法を避けた上で、私達を迎えに来てくれたのだ。偉い。偉すぎる。

 私達はすぐにワイバーンに乗り込んだ。そしてその場を後にすると、その瞬間山が崩れ出す。崩れ出した山は、クルグージョアへ向かって流れ込んでいく。


 私を殺すために発動された魔法のせいで、今大勢が死のうとしている。それをただ見ているだけという訳にはいかないよね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ