諸王国の王達
眼下に集まる、大勢の人々。一体何人いるんだろうか。この人数が歓声をあげると物凄い声量となり、空気が震える。
皆が歓声をあげながら見上げているのは、ザイール諸王国の王達だ。お城の出城となっている部分に各国の王が立ち、これから開催されようとしている会議の開会式のような物が行われている所である。
そこに、私達も立っている。出城の下に集まる群衆の、カトレアに向けられる声援は一際大きい気がする。けど耳を澄ませばデサリットへの悪口的な言葉も聞こえてくる。カトレアは、人気。デサリットは、不人気。両立しがたい現象がおきていて、ちょっと不思議。
ちなみに私は一歩下がっているので、群衆から姿は見えていないはず。さすがに魔物の私が姿を現わしたらパニックになりそうだからね。シェリアさんからもお願いされて、私の姿は隠す事にした。
ただ、各国の王様には伝わっている。王様の護衛の兵士達がこちらを睨みっぱなしで、私怖い。
冗談じゃないよ。王様の護衛を任されるような人達だからね。人間にしては実力差揃いで、本当にプレッシャーが凄いんだよ。ま、私と比べたらそりゃ弱いけど。
各国の王様は、なんだかデサリットやギギルスの王様がしょぼく見えてしまう人ばかりだった。皆、見た目の特徴というか、カリスマ性というか、何か違うんだよ。
「サンド王様ー!」
サンド王様と呼ばれたのは、厳つい顔の男の人だ。顔にシワは多いけど、髪に白髪はない。何歳くらいだろう。たぶん、40~50歳くらいだと思う。
背も大きくて、見た目だけでとても威厳のあるおじさんだ。
名前:リッジエッグ・サンド 種族:人間
Lv :88 状態:普通
でも彼は殉教者じゃない。
「こっちを見て、レオルース様!」
続いてレルオースと呼ばれた男の人。王と呼ばれるには、若すぎる気がする。たぶんまだ20代だよね。派手な金髪の前髪が長いので、それを手で払いながら群衆に手を振る姿はさながらアイドルだ。鬱陶しいなら切ればいいのに。
でもまぁ確かに……モテそうな顔をしてるよ。イケメンと呼ばれるに相応しい。だから女性からの黄色い歓声を集め、それに応える姿はなんか腹がたつけど絵になっている。
名前:レオルース・ソラステア・アルド 種族:人間
Lv :25 状態:普通
彼も殉教者ではない。
「見ろ、エルヘンド様が手を振ってくださっているぞ!」
男性陣の視線は、主にカトレアに。でもこのエルヘンドと呼ばれた女性の方にも集まっている。
彼女はカトレアとは別タイプの美人さんだ。顔にシワも目立っていているんだけど、不思議と美しく気高い女性。いわゆる、美熟女って感じ。背も高くて、スタイルもいい。熟女好きにはたまらないね。
そんな彼女を見上げる群衆の中に、1人の人間を見つけて私は目を留めた。のだけど、その人はすぐに歩き出して群衆に紛れてしまった。私の視線に気づいて、逃げた?
……いや、まさかね。もし万が一アレが殉教者だったとしても、民衆の1人がそうだった所で影響はない。はず。第一目標を目指すため、今は無理をして確認する必要もない。
「ゴレッド王だ!まだ生きてたんだ!」
なんか酷い事を言われているのがゴレッド王。
まぁでも、見たらわかる。ゴレッド王と呼ばれたのは、よぼよぼのおじいさんだ。顔はしわくちゃで、白髪は切っていないのか凄く長い。ヒゲも凄い。まるで仙人のような見た目である。
彼は自力で歩く事もままならないのか、付き人さんが車いすを引いていてそれが更に心配になってしまう。こんな人に王様を任せていていいのか、てね。
名前:エルヘンド・ハーベスト 種族:人間
Lv :20 状態:普通
名前:デル・ベオ・ヘル・ゴレッド 種族:人間
Lv :23 状態:普通
でもエルヘンドさんもゴレッド王様も、どちらも殉教者ではない。各国の護衛の兵士の中にも殉教者は見当たらない。
「皆、よくぞ集まってくれた!ザイール諸王国は、ザイール諸王国連合会議を経て更に力をつけ発展していくだろう!この国を訪れてくれた各国の王に、声援と感謝を!」
群衆に向かって大きな声で声掛けしているのは、ゴツイ鎧姿のおじさんだ。その鎧には肩に角のような物がついており、どこかシェリアさんの鎧と似ている。
「カラカス王万歳!」
「カラカス王、いつもありがとうー!」
群衆が叫んで彼に声援を送る。
そう。彼こそがカラカス王様で、シェリアさんのお父さんである。
彼の見た目は、正に私が想像するカッコイイ方の王様だ。大きな身体と、威厳たっぷりの顔。眉毛は太く立派で、とても長い。シェリアさんと同じく顔に傷があるんだけど、こちらはいくつもあり、シェリアさんよりもよく目立つ。その傷も含め、とにかくカッコイイ。サンド王様もカッコイイんだけど、このカッコよさがあるとあちらは霞んでしまうよ。
名前:ザランド・カラカス・クルグージョア 種族:人間
Lv :158 状態:普通
そして彼もまた殉教者ではない。各国の王の中に、殉教者はいない事がここに確定した。
「……アリス様」
カトレアが、群衆に手を振りながら私の方を見て来た。心配そうに、真剣に向けられた目で、彼女が言いたい事を悟った。
今日初めて見る、各国の王達。カトレアとの挨拶を、カトレアの予想通り拒んだ心の小さな王様達のステータスを今見て、彼らが殉教者だったり神の使いかどうかを私は確認した。そしてその答えを彼女は聞いている。
「……」
私は一応首を横を振って、カトレアに答えた。
どこにも、殉教者はいない。それは良いんだけど、先ほど民衆の中に見つけた人が気になる。いずれにせよ、殉教者は絶対にどこかにいるはずだ。
だっていてくれないと、デサリットへの援軍を拒んだ理由に対する答えが分からなくなってしまうから。
群衆への挨拶が終わると、場所を移動する事になった。
向かった場所は、お城の中枢部分に位置する会議室。特殊な作りの場所で、異様な雰囲気の場所だ。
円形で縦長に大きく開いた空間。薄暗いんだけど、壇が下にあり、そこにスポットライトが照らされているかのように灯りが向けられている。その壇を見下ろし囲うように張り出た、手すり付きの足場が6つある。各国の王は、それぞれの張り出た部分に立っている。
その後ろには1人のみの付き添いが許されていて、カトレアには私が付いている。
フェイちゃんとネルルちゃんと別れるのはちょっと心配だけど……あちらには兵士と、シェリアさんも付いてくれる事になった。だからまぁ、少しの間なら大丈夫だと思う。そこは信じよう。
それにしても……なんか凄い雰囲気である。空気が重すぎて、その空気をぶち壊すために無駄に叫びたい衝動にかられる。あるいは、この場所をぶち壊したりするのもいい。物理的にね。
「改めまして、皆さんお集まりいただきありがとうございます。これより、ザイール諸王国連合会議を開催いたします」
会議の司会を務め、眼下の壇上でそう宣言したのはアンヘルさんだ。その声はマイクもなしによく響き、皆の注目が彼へと注がれる事になる。
「前置きはなしにして、さっくそ本題へ入ろう。今日皆に集まってもらったのは、デサリットへの対応を協議するためだ」
カラカス王がそういって、本当に前置きもなく本題が始まった。
「デサリットは魔族と手を組み、その力を増大している。次攻められるとしたら我が国だ。皆には我が国及びザイール諸王国を守るため、攻められる前にデサリットを先制攻撃し、滅ぼす力を貸していただきたい」
そう訴えかけたのは、サンド王様。サンド王国と呼ばれる国は、ザイール諸王国でデサリットと一番近い国である。確かに攻められるとしたら、その国と言う事になるだろう。
「無論、援軍は送るつもりだよ。サンドが攻め滅ぼされでもしたら、次に攻められるのはクラップランド王国だからね」
続いたのはレオルースさん。イケメンの人だ。
彼の国はクラップランドという国で、ザイール諸王国の中でも小国で、その力は小さい。だから、どうしてもサンド王国で攻撃を止めておきたいと言う魂胆が見える。
「ほほ。我が国も足並みを揃えよう。だがデサリットはちと遠くてな。遅刻するやもしれん」
「援軍が間に合わなければ、次はお前のゴレッド王国を攻め滅ぼすぞ、クソジイイ!」
「ほほ。やれるものならやってみよ。返り討ちにしてくれるわ」
突然、サンド王様とゴレッド王様が喧嘩を始めた。ゴレッド王国は、確かデサリットと一番離れているんだっけかね。ザイール諸王国の真ん中にある、このカラカス王国の山を越えた向こうにある事になる。
めっちゃ遠い。それじゃあ遅刻しても仕方がない気がする。
それより、どうよ。私だって勉強しているんだよ。ま、皆知ってる事だから自慢するのもどうかと思うけど。
「皆さん、少し足早に事を進めすぎですよ。ここにデサリットの代表がいる事をお忘れですか?まずは彼女の口から、ザイール諸王国を裏切り抜けた経緯と、魔族と手を組むことになった経緯を聞くべきではないでしょうか」
「……」
エルヘンドさんが、落ち着いた声で皆にそう訴えかけてくれた。
この中で一番まともなのは、エルヘンドさんなのかもしれない。後の連中はもう既にデサリットを攻める気満々で、話にならない状態だったから。そこに入り込んで発言する余地もない。
「エルヘンド様の言う通りです。デサリットへの攻撃の前に、まずはデサリットの──カトレア様の言い分を聞きましょう」
アンヘルさんもそう続いて、皆の注目がカトレアへと注がれた。エルヘンドさんとアンヘルさんのおかげで、発言する機会を得られたね。さぁ、ここからカトレアの反撃が始まる。ビシッと言ってやってくださいよ、カトレアさん。