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先導した者


 この国に来てから、私の鼻が機能しない。神に支配された人かどうかの判断は、アナライズで鑑定すれば判断がつく。諸王国のお偉いさんの中に支配された人がいるのなら、だいぶ絞れているので判断はつくだろう。でも人数が分からない。鼻で嗅げばすぐに分かるのだけど、鼻が機能しない今全てをしっかりと確認する必要があるのだ。

 取りこぼす訳にはいかないからね。そして神の危険性を皆に認知してもらってから、取りこぼしなく私が不味くいただくと。そういう作戦だったはず。

 でも鼻がきかないとこの作戦は不利だ。


「……鼻が、きかないですか。それは予想外の事態です。困りました」


 困ったと言う割に、カトレアは私の肩に頭を預けてスリスリしている。全然困った風には見えない。


「ちなみになのですが……シェリーとアンヘル様はどうでしたか?」

「神に支配されているか、どうか?」

「はい。今思ったのですが、神に支配されている者は殉教者と呼ぶのはどうでしょう」


 確かに、神に支配されている人と呼ぶのは、若干格好がつかない。呼び方を統一するのは賛成だ。

 でも殉教者、か。けっこうパンチのきいた呼び方だ。生きているのに、殉教者。でも確かに支配された時点で死んだも同然の存在であり、相応しい呼び方かもしれない。


 殉教者の他にも神の使いがいるんだけど、それは従来通り神の使いでいいだろう。


「分かった。えっと……シェリアとアンへルは、違う。殉教者じゃない」

「……」


 カトレアは、安心したように息を吐いた。友達が殉教者ではないと聞き、本当に安心したようだ。

 でもなんだろう。どこかその表情が暗い。


「諸王国のどこかに、殉教者はいる。でも頼りのアリス様の鼻がきかない。となると一人一人を調べていく必要がありますね……。それ以外の者はどうしましょう。取りこぼしがあると、また誰かが殉教者にされてしまう可能性がある。どうにかして、全てを炙り出したうえで殉教者達を始末しなければいけません」

「何かいいアイディアはある?」

「……少し、考えてみます。ですが第一目標は、神の危険性を知らしめたうえで、諸王国の上の立場にいる殉教者を排除する事と定めておきましょう。他は可能な限り排除、という事で」

「分かった」


 とりあえず必要な事はする。これから忙しくなるだろう。

 でもまずは休憩だ。少ししてネルルちゃんが戻って来て、お茶を淹れてくれた。そのお茶をすすりながら、考える。


 神の危険性を知らしめるって、一体どうするの?


 その辺はカトレアに任せっきりで、私には分からない。聞いてもお楽しみと言われるだけなので、謎だ。カトレアって案外、サプライズ好きだよね。私が来る事もこの国の人に伝えていなかったみたいだし、そういう茶目っ気もまた彼女の魅力の一つなのかもしれない。


 その日は特に何事もなく過ぎた。皆で与えられた部屋でゆっくりと休憩して、ご飯も部屋に運んでもらって豪華なディナーとなったよ。勿論、フェイちゃんとネルルちゃんも一緒に食べた。2人は恐縮していたけど、2人もこの国にとってはお客さんである。だから当然、その施しを受ける資格がある。

 むしろ、私の方が問題だ。魔物である私を見て、給仕係の人がめっちゃビビってた。その反応はデサリットで暮らし始めたころのネルルちゃんのよう。だからもうその対応の仕方はなれていると言えばなれている。私はただ、黙って何も言わずに食べればそれでいい。


 次の日の朝、シェリアさんが私たちの部屋に訪れた。竜の兜を被った、ゴツイ格好でね。


「カトレアに言っておかないといけない事がある」

「美味しい。ネルル、このお茶とっても美味しいです。いつもとは違う茶葉ですよね?」

「は、はい。今日は初めてお出しするお茶です。リラックス効果があるみたいなんですけど、どうでしょうか」

「とっても落ち着く味ですわ。ありがとう」


 私はカトレアと同じソファ、隣に座り、正面のソファにはシェリアさんが座っている。カトレアはネルルちゃんが淹れてくれたお茶を飲んで感想を述べ、褒められたネルルちゃんはご満悦。

 その後ろで立っているフェイちゃんも、気を付けをしながら嬉しそうなネルルちゃんを見て笑顔を見せていると言うのほほん空間が出来上がっている。


 そんな空間とは場違いすぎる、ゴツイ鎧姿のシェリアさんが密かに話を切り出したのに、スルーされてちょっとかわいそう。


「それで、何か言いましたかシェリー」

「あ……うん。カトレアに、言っておかないといけない事があるんだ」

「はい」

「……実は、言い難いんだけどお父様はデサリットが諸王国を抜けると聞いて以来、デサリットを嫌ってる。諸王国よりも魔物を選んだデサリットを、恨んでいると言ってもいいくらい怒ってるんだ。会議に呼んだのも、皆でデサリットを糾弾するため。既に諸王国は魔族との繋がりも生まれたデサリットを、攻める方向で調整している」

「分かっていますよ。でも、どうして攻めるのですか?デサリットはアリス様の庇護下にあると公にしてあるはず。そしてアリス様の力は知っての通り。数万の神仰国の軍勢をたった一人で退けられるほどの実力者が守る国を、諸王国自ら攻撃を仕掛けようなど通常は考えもしないはず。一体誰が、攻撃を先導しておいでで?必ず誰かが強行して案を出し、皆を先導したはずです」

「誰かが強行しているというより、お父様が案を出して皆が賛同している感じかな。でも正直、あんまりまともな感じじゃないね。理性と合理性を感じない。だって、最初にデサリットを裏切ったのは諸王国なんだから……」


 そう呟いたシェリアさんを、黙るようにとカトレアが口の前で指をたてた。

 シェリアさんは、分かっている。でも他の諸王国の人たちは分かっていない。何故デサリットが諸王国を抜けると言う決断をしたのか、今一度考えるべきだ。

 でも例え合理性のない決断だとしても、その一員であるシェリアさんがそんな事を言ってしまえば立場が危うくなってしまう。だからカトレアは、彼女の身を案じてそれは言うなと警告をした。


「アリス様。シェリーには、私たちの敵について教えても良いでしょうか」

「敵?何の事?」

「……構わない」


 シェリアさんは殉教者じゃない。それに、話してもまともな感性を持っていそうだし、大丈夫だろう。

 カトレアは私の許可を得ると、神についてを語り出した。人の心を支配し、世界を手中に収めようとしている神。その神によってアスラ神仰国はデサリットに攻めるよう誘導され、大勢の人が殺された。今までのアスラ神仰国の残虐なやり方は、全て神による指示だった。

 そして神の侵攻を支援するため、ザイール諸王国はデサリットに援軍を出さなかったと考えられる。つまり、諸王国の誰かが殉教者か神の使者であり、その誰かがデサリットを攻めるように諸王国を導こうとしている。


「……神、か。にわかには信じがたい話だけど……違和感はあった。何でデサリットに援軍を送らなかったのかという理由と、何でそこまでして諸王国がデサリットに攻め込もうとするのかという二つの理由に、神とやらの意思が関与していたというなら説明がつく。でも、その……本当なの?神様が人の心を支配して残虐な事をさせるとか、ちょっと信じられないよ」

「本当です。その神と対立し、神の魔の手から救おうとしているのが魔王レヴ様だったのです。だから私達は同じく神に対抗する事を目的とする魔族と手を組むことにした、という訳です。魔王レヴ様は、人格者ですよ。とても強く、神の支配から人々を守ろうとしてくれているお方……彼女は人間の脅威にはなりえません」

「……お前の人を見る目は知っている。お前が信頼すると言うなら、信頼できる人なんだろう。けど、さすがに信じられないよ。魔族も、神も、急にそんな事を言われて混乱してる」

「そうですよね。普通は、混乱します。でも貴女には気を付けて欲しいから話したのです。神という存在にはくれぐれもお気を付けください。もし貴女が神に支配され、殉教者となるような事があれば……私は貴女を殺します。また、貴女と近しい者が殉教者となっても殺すと言う事を宣言しておきます。私に貴女を殺させないでくださいね。シェリー」

「……」


 ニコやかにカトレアに警告されると、シェリアさんは勢いよくソファを立ち上がった。

 その表情は兜に隠れているので見る事は出来ない。


「失礼する。……今の話は、胸の中に留めておくよ。私も……意識はしてみる。けど、気を付けるのはカトレアの方だ。カトレアの手腕次第で、諸王国とデサリットは戦争をする事になってしまうんだから……頑張ってよ」


 そう言い残し、シェリアさんは部屋を去って行った。

 彼女が簡単に信じてくれなかった理由は、なんとなく分かるよ。神様が諸王国に紛れ込んでいるなら、一番可能性が高いのは今の所シェリアさんのお父さんと言う事なるからね。

 もし本当にシェリアさんのお父さんが殉教者だったら、私は彼女のお父さんを食べなくてはいけなくなる。まぁ、本当にそうかどうかは今の所分からない。けど今の話を頭の中にいれておき、そうなる覚悟をしておいてほしい。

 だからカトレアは、彼女に話したのだ。それと、彼女自身にも殉教者になってほしくなくてね。


 私も、美味しそうな彼女には殉教者になってもらいたくない。そのまま、美味しそうなままでいてほしいと思う。


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