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七月三日(月) 午後四時半 書斎

父さんの書斎は玄関から二番目に近い扉を開けたところにある。内側開きのとびらは五十センチほど開いたところで進まなくなった。どうやら下に積まれている本の山がジャマをしているみたいだ。変に力を入れると本を傷つけちゃいそうだし……。


「これは…どうしようかな……」


書斎は掃除もされずに本の量だけ増えていってる。このままだといつか崩れる。そうなってからだと余計に片付けるの大変だよなー。


「じゃあさ、本を選んでもらうお礼としてこの部屋の片づけを手伝うよ! つばき君は本を見つけやすくなるし、わたしも本を選んでもらえるし、つばき君のお父さんは帰ってきたら部屋が片付いていることになるからwin(ウィン)-win(ウィン)-win(ウィン)だね!」


「ほんとにやってくれるの? だったらありがたくお願いするよ。足の踏み場もないからゆっくり本を探せないんだよね……」


「はーい、任されました!」


花梨がわずかに膨らんだ胸をポンと叩き笑顔を返してくれた。とびらの隙間に体をねじ込みなんとか書斎へと入ることが出来た。扉の周りの本を移動させて、内側から扉を開く。初めて入った花梨はその本の多さにおもわず首を自由に動かしきょろきょろしていた。部屋には、たくさんの本がぎっしりつまった棚が何台もあり、そこに収まりきらない大量の書籍は床に積み上げられていた。スペースがあるのは、窓の近くに置かれている机の一部分とわずかに見える床のみ。このまえ来たときより本の量は増えていて難解なタイトルの本が多い。ジャンルごとに分類するのもかなり時間がかかりそうだ。ぼくたちはそれぞれ本とにらめっこを始めた。


 「―――花梨、オカルト研究会の人たちからヒントになりそうなことってなかった?」


黙々(もくもく)と作業を進めていたぼくたちだけど数十分経って、さすがに集中力が切れかけてきたから、会話でもしようという雰囲気になった。本棚の本をにらみながら、床に散らばっている本を仕分けている花梨に尋ねる。

花梨は首を横に振りかけたが、何か思い出したのか首を少しかしげたまま止まってしまった。そして少し時間が経過したあと、小さくうなずいた。


「そういえば、オカルト研究会にあの人がいたの。えーっと……そう、山本先輩!」


「山本先輩ってだれ?」


その人の名前を聞いたところでまったく反応できない。かりんや姉の基準がおかしいだけだからっ!


「えー、つばき君知らないの? うちの学校で山本先輩って言ったら、一人しかいないよ! とってもかっこよくて三年生の先輩たちの間で噂になってるんだから」


「……そんな人でも、オカルト研究会に入るんだな」


「まあその先輩、少し変な趣味が多いっていうか。なんていえばいいのかなぁ……若くないのよ」


「あぁ……」


なるほど。かっこよくて趣味が今風じゃない人というわけか。それならオカルト研究会に所属しているのもうなずける。ぼくとは別の世界に住んでいる人かと思ったら、少しだけ親近感を覚えた。花梨は手を動かしながら、話を続ける。


「それで山本先輩は部室で本を読んでいたのよ。たしか『Closed(クローズド) Rooms(ルームズ)』って題名だったの。どんな本かなぁ、って思って先輩に聞いたら『友人から借りたからわからない』って言ってたの」


 それからもたわいもない会話を続けながら部屋の片づけをした。もう、あと数分もあれば片づけは終わるんじゃないだろうか。ここまで二人で話すことは今までなかったけど、とても楽しい。花梨は会話を弾ませることに長けていて、この力は人を引き付ける魅力につながるんだろうなーって思った。


「そういえば、ものすごく今更なんだけどテスト勉強をしに来たけど、そんなにしなかったね。テストの方は大丈夫?」


「うん、つばき君ほどじゃないけどわたしも毎日予習復習しているし。中間の時は負けちゃったけど今回は勝つからね!」


「勝負なら負けないよっ!」


掃除を始めてからすでに一時間半が経っていた。花梨は話しながらでも、手を休めずに頑張ってくれた。その甲斐もあって本はジャンルごとに部屋の隅に積まれていた。そうしてきれいになった書斎を眺めて一息つく。ぼくもおすすめの本を数冊選ぶことが出来た。父さんの部屋で探した本を机に並べ、好きな本を持っていていいよ、といった。彼女はじっくりと本を眺め、これにすると一冊の本を手に取った。ようやく、怪文について調べ始められるぞ。


「読み終わるのは期末テストの後になると思うけどいいかな?」


「全然平気だよ。父さんも本を読んでくれる子が増えると嬉しいって言っていたし。よかったらまた来てよ。ところで、花梨はどうして怪文の解読をしようと思ったの? 駿英が参加しているから?」


ぼくは気になっていたことを率直に聞いた。すると花梨は人差し指を(あご)付近に押し当て考え始めた。その顔はなんで解読しようとしているのかを悩んでいる、というよりは考えていることをそのまま言っていいのか悩んでいるように見えた。


「うーんと、まあ駿英は幼なじみだしそれもあるかもしれないけど…。えっと、この話は駿英には内緒にしておいてほしんだけどね。駿英、実はつばき君がサッカーをやめたことをずっと心配してたんだよね。なんか元気がないように見えるとか、少し考え方が大人になったとかそんな話を聞いてたの。その話になったときは毎回さいごに『またあいつと心の底から楽しめるような遊びをしたい』って言っててさ。だからあの張り紙を見た時の椿くんの楽しそうな表情を見たら……ね。私も付き合ってみたくなったの」


だいぶ言葉に気を付けて発言しているように思えた。でもそうだったのか。あいつなりにボクのことを気にかけていたんだ……。


「ねえ、椿くんはなんでサッカーをやめちゃったの? 駿英からとっても上手だったって聞いたんだけど……」


「それは…その――」


返答に困っていたそのとき、扉の向こうから大きな声が聞こえた。


「あれぇー? 誰かいるのー?」


いきなり聞こえてきた声にボクたちはドキリとした。続けてドアが開く音。ひょこっと顔を出したのは姉だった。

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