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七月三日(月) 午前八時半 教室

 教室に入るとすでに大半の生徒がそれぞれの席に座っていた。いつもなら教室の後ろで、教科書を丸めて巻いたものと、セロハンテープで作った球で『かっとばせ! 漢たちの闘い』をしている運動部たちも今日は座っている。それもそのはず、運動部はテストで顧問の先生が決めた点以上を取らないと練習や、試合に参加できなくなるから必死なんだ。本当ならぼくの横にいるこいつもヤバいはずなんだけど……どうして、落ち着いているんだろ。

自分の席に向かう途中友達に挨拶をする。その後ろの席では野球部の横見(よこみ)がテスト範囲になるだろう場所をじっくり読んでいた。


「くそっ! どうして、許可書がすぐ曲がるんだよ!」


それは、お前が教科書をバット代わりにしてるからだぞ、って心の中でツッコミを入れる。バラエティに富んでいておもしろい奴らばかりだ。


 二度の席替えを経てぼくは今、窓側の一番後ろの席を勝ち取った。といっても席替えはくじ引きで行われるから完全に運だけど。みんなも経験したことがあるかもしれないけど後ろの席は意外と先生に見られやすい。だから、怖い先生の前で内職(ここでは授業の時間にその授業の科目以外の勉強をすること)なんてしてたら五分もたたずに気付かれて怒鳴られちゃう。この席の恩恵は授業中には発揮されない。教科書やノートを学校机の中にしまっていると内田先生(あだ名はウッチャン先生)が教室の前のドアから入ってきた。そして朝の会のはじまるを告げるチャイムが鳴った。


「みんなおはよう! 今日も一日頑張っていこうな。それと、俺の授業は昨日までの範囲がテストにでるぞ。マイナスが出てくる計算問題や文字式を作る問題、その辺りは小テストの結果を見ていても間違いが多い。重点的に勉強しておくように。よいしょ……先に前回の小テストを返却する、よく復習しておくように。えー、満点だったのは奈波(ななみ)と宮鳥、それと夏木の三人だ。……夏木はまだ来ていないのか」


 内田先生の発表の後にパラパラと拍手が続いた。入学してから三ヶ月が経ち、誰がなんの科目が得意なのかをみんな大まかに認識している。このメンツが満点を取ることに関してもう誰も驚きはないようだ。


「みんなも知っての通り、来週から期末テストが始まるな。中間テストは小学校の復習問題も確認として出ていたが、期末テストは全範囲が中学校で習ったものになるぞ。勉強する科目も増えるが、ここさえ乗り切ってしまえば夏休みまで目前だ。クラスみんなで頑張ろうな!」


内田先生は数学を教えている。数学を教えるときと同じように論理的な話し方が得意だ。それだけだと中学生から見れば、話が長い先生になってしまうのだが、ユーモアもあり話が面白いから学年の中では好かれている。そんな先生が担任でよかったと思う。


「先生からの話は終わるが、誰かほかに伝えたいことがある人はいるかな?」


すると一人の女子生徒が手を挙げた。


「先生。踊り場に変な文章が書かれた紙が貼ってたんですけど……」


そういうと少女は先生の方に向かっていき、一枚の紙を手渡した。それは先ほど、ぼくたちが一枚持っていったあの紙だった。先生は眉をしかめながら受け取った紙を見る。それからこっちを見回してこう言った。


「一応聞いておくが、みんなの中に貼ったやつはいないよな……そうか、安心したよ。ちょうどいい機会だからクラブの張り紙について説明しておこう。クラブ活動の募集を促す張り紙は、まず担任の先生に許可をもらわないといけないんだ。その後に先生が教頭先生と校長先生から許可をもらって初めて、学校内の指定された掲示板に貼ることが出来るんだ。これはおそらく許可が出ていないだろうな。すまないが小鳥遊(たかなし)、この紙は預からせてもらうぞ。職員室で聞いてくる」


「わかりました」


「ほかに連絡は…ないようだな。一時間目の数学の時間は自習にするからみんな集中して勉強しとくんだぞ。それじゃあ日直、号令をよろしく」


号令の合図とともに立ち上がり、礼をして先生が教室を去ったあとクラスの中はざわめきに包まれる。どうやらさっきの紙について気になっているようだ。一体だれが貼ったのか、どうして張ったのか、いつから貼られているのか、いつものオカルト研究会じゃないか、だれか『セロハンテープ球』もってないか、などなど先程のぼくたちと同じような会話が教室中から聞こえてきた。なんかおかしな会話も混じっていた気がするけど。ぼくたちもあつまってさっきの話をしたけどとくに進展するようなことはなかった。それと一時間目の自習の時間、内田先生は教室に来ることはなかった。きっと他の先生たちとあの紙について話し合っているのだろう。そんなことを考えていると教室の扉が開いた。入ってきたのは夏木さんだった。まだ開ききっていない目をこすりながら席についてそのまま――机に突っ伏して寝てしまった。

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