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七月十五日(土) 午後九時 社務所

 「――二人のおかげで今日の祭りは無事に終わったよ。ありがとう」


そう言って神主さんがぼくたちの手を握ってブンブンと振る。


 駿英が蹴った石に直撃した男はそのまま気を失ったようですんなりと捉えることが出来た。手と足を神楽舞台の下に置いてあったビニールひもで縛り、二人で男を担いで社務所まで運んだ。彼は大人とは思えないほど軽かった。

社務所まで運ぶと受付のツインテールのお姉さんに声をかけ男を引き渡した。ぼくたちはお祭りに戻ることもできたけど、至宝を神主さんに返して順序よく進んでいた舞も終わりに近づいていたので、お姉さんと話をすることにした。

この人は服飾系の専門学校に通っている学生さんで、海瞳さんと雪瓜と歳が近いから妹のようにかわいがっているらしい。ぼくたちが男を連れてきたときも最初はビックリしていたけど、事情を話すと「えーっ!? めっちゃ頑張ったんだねっ!!」と言いぼくたちの頭をくしゃくしゃとしてくれた。

お祭りが終わりみんなが社務所に来た。海瞳さんと神主さんが意識を戻した男に問い詰めていたけど、結局彼がなんで盗んだのか、手紙をわざわざ出したのか、協力者がいるのかといったことは聞きだせなかった。ぼくはなんとなくだけど、この人が使()()()()なんじゃないかって思った。だって、あんな手紙を出した人がこんなあっけなく捕まるなんて思えない。それに……ぼくが図書館で見た人影にこの人は該当しない。きっとこの人を操っている誰かがいたんだろう。そのことを海瞳さんに伝えたら、彼女もぼくと同じ考えになったらしい。それがちょっと嬉しかった。続けて、


「まあ、明日も祭りはある。今日は忙しくてそれどころじゃなかっただろうから明日は楽しむといいよ。ワタシたちも明日は何も仕事がないからよければ一緒に回ろう。祭りの最後に打ち上げられる花火がよく見える場所があるんだ」


海瞳さんはワクワクした様子でそういった。……また、なにか企んでいるんじゃないだろうか。


お祭りに関わっているいろんな人からお礼を言われて、どうすればいいかわからなくなったときお姉さんが通報してくれた警察がやってきた。男は社務所の近くで引き渡されたけど結局、ぼくと駿英に見つかったとき以外で言葉を発することはなかった。祭りが終わったけど少なからず人もまだいる。一体何があったのか気になったようでぞろぞろとぼくらの周りに人だかりができる。その輪の中から抜け出そうとするけど人が多くてうまく身動きが出来ない。


――そのときだった。


ぼくの横を一人の少女が通る。黒い浴衣を着た少女だ。半面の狐のお面をつけているから口以外は見えなかったけど、その少女を見ると背筋がぞわっとした。それは、ここ最近抱いていた妙な胸騒ぎと似たものだった。


(あれ……あの男の人は、(しゃべ)らなかったんじゃなくて喋ることができなかったんじゃないか? 事件の全貌(ぜんぼう)を知らない実行犯……、それだったら納得できる。あんな用意周到に盗んだのに、ぼくたちに見つかった後は、強引に逃げようとした。……もしかして、事件の筋書きを書いたのは……いやいや。まさか、あの子は小学生くらいだぞ。この胸騒ぎもたまたまだ。きっと事件が終わって安心して――)


考えれば考えるほどさっきの少女が怪しくなってくる。ぼくはそんなわけがないと、首を横に振り、輪の外へ出て鳥居をくぐろうとする少女のうしろ姿をじっと眺めていた。人混みを何とかしてかき分けようとしていると彼女はこちらをふりかえりぼくを見て少し笑った――、そんな気がした。それは人の輪の中にいても、その喧噪が置き去りにされたかのように静かな瞬間だった。まるで彼女とぼくの二人しか世界にいない、そう感じるほどに孤独で暗いものだった。


「――おーい、つばきー……。おーーい!!」


駿英の言葉でハッと我に帰った。どうやらあのあと少しボーっとしていたらしい。

今は部室でぼくと駿英、花梨に雪瓜、それに山本先輩と海瞳さん、姉の合計七人で話をしている。参拝者に配っていたお菓子や飲み物、それに屋台で買ってきた焼きそばや唐揚げ、ポテトといった食べ物を囲んでわいわいしている。


「大丈夫かい? 今日は色々とあって疲れてると思うがもう少しだけ頑張ってくれ」


「大丈夫よ。アタシの弟なんだからこれくらいの疲れ寝たら回復するわよ」


あいかわらず姉は無茶苦茶なことを言う。するとコップをもった花梨が隣に座ってくる。


「お疲れ様! これ、お茶が入っているからよかったら飲んでね」


ああ、その優しさが身に染みる……。コップを受け取り少し飲んだところで異変に気付く。


「ヴォェ!? あっまっっ!!?」


周囲を見渡すと山本先輩と海瞳さんが手を叩いて大笑いしている。……この二人か!!


「いやー、さっきまで上の空だったけど大丈夫そうじゃん」


「言っただろう、『もう少しだけ頑張ってくれ』って」


「ごめんね……つばき君。どうしても二人が『そのすました顔をはぎ取ってやる』って言ってて……」


……やっぱりなんか似てるんだよなぁ山本先輩と海瞳さんって。申し訳なさそうに花梨が謝ってくる。駿英と姉も同じように笑ってるけど、この二人はお腹が減ってるのかさっきからいろんなものを食べている。その様子を見ている雪瓜は……うわぁ、ドン引きしている……。


「まぁまぁ……そうだ。お茶がもう少しでなくなってしまうね。椿クンと花梨クン、申し訳ないけど裏手にあるもう一つの建物から持ってきてくれないかい」


「わかりましたー」


「もう、ドッキリはないですよね?」


海瞳さんをジーッと見る。


「そ、そんなに警戒しないでくれよ……。急ぎじゃないからゆっくりでかまわないよ」


うろたえている海瞳さんはなにか珍しかった。

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