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七月八日(土) 午後一時半 図書館

 この地域についてを詳しく調べるなら一階にある民俗風習のコーナーが適している。地元の歴史や特産品なんかを解説してくれる本が多くて小学校の課外授業で、駅周辺の歴史的な建築物について調べたときもお世話になったっけ。資料も豊富でいて飽きない場所なんだけど、入り口から一番遠く、袋小路のような場所で扉もしまっていることが多いから、あまり人は寄りつかないみたい。扉で区切られてるだけなのにここまで不気味に感じるなんて面白いけどね。そこに駿英が地図を取りに行ってくれた。戻ってきたら一緒に見よう。ぼくは二人が去ったあと椅子に座り、暗号文が書かれた紙を机に広げて、もう一度じっくりと見てみる。山本先輩は裏山について調べるといいと言っていた。だけど、この暗号文はそれだけでは絶対に解けない。おそらく、この『たった一つの非対称な日』の意味を理解することが出来なければダメな気がする。


(非対称な『日』ってことは、日付を指定しているはずなんだ。カレンダーを見ればなにかわかるかな。でも……)


手帳を広げて七月のページを開く。七月はもう中旬に差し掛かっていて(小学生のときはずっとこの時間が続くから無限じゃん! なんて思ってたんだけどね)、残るイベントも期末テストのみだ。曜日ごとに割り振られている数字はむしろ、対称なものを探す方が難しい。となると。


(曜日なのか……でも月、火、水、木、金、土、日、木曜日から日曜日までは対称だけど、月から水は微妙だな…。曜日の最初の文字をひらがなにしてもカタカナにしても……うーん、どういうことなんだろう。)


しばらくの間机の上の紙とにらめっこをしていたがお手上げ状態だ。大きくのびをして固まった筋肉をほぐす。それにしても駿英は遅いな。地図を取りに行ってからもう結構経つけど……。もしかして迷ったのか?

場所は知ってるって言ってたけど、駿英にとって図書館はなじみのない場所だしそうなってもおかしくない。もしそうなら探しに行きたいんだけどここに誰もいなくなるのはまずい。みんなの荷物が置きっぱなしのままだ。万が一ということもあるので動けない。まだ他の部分について少し考えていようか? でもこれ以上考えても何も思いつかないだろうなー。ああ、どうしよう。……って、あぁーー!?


「おおツバキ、まったく何か困りごとかな?」


その声の主はそのまま机を挟んでぼくの正面の席に座った。見覚えのある人物だ。山本先輩だ!


「あの…えーっと、どうして山本先輩がここに?」


「いやーちょっと()()が図書館に用事があるらしくてな、俺は一人暇を持て余してたんだ。どうだ、何かわかったか」


さっきの駿英の話から察すると先輩と一緒にいる人は女の人だろう。もし、ここで先輩に暗号文の答えを教えてほしいと言ったら、答えを聞くことはできたのだろうか。


「まだなにも……でもこれは絶対ぼくらが解いてみせます」


弱音は吐かない。まあ、まだそこまで何かをやったわけじゃないけど。


「おお、その心意気だ。ぜひ頑張ってくれ。……ああそうだ、調べ物をするなら急いだほうがいいぜ。なんでもこの図書館、きょうは午後三時で閉まるらしいぞ」


「えっ!?」


な、なんだって! 突然告げられた衝撃の事実に言葉を失う。


「なんでも、とんでもないところの令嬢がこの図書館で探しものをしたいらしくてな」


「それはいったい誰なんですか?」


「いや……そこまでは俺も知らない。ツレが今日は予定が変わって忙しいって言ってたんだよ。……っておい!」


「すいません先輩、ちょっと、もどってくるまで荷物をお願いします!」


「おっ、おい!?」


なんてことだ。それなら図書館で調べられる時間がだいぶ減ったぞ。二人にも伝えて、急がないといけない。そんなわけで、申し訳ないけど、山本先輩に背を向けて一段飛ばしで階段を下りた。ごめんなさい、山本先輩!


 図書館は広い。外から見ていると普通の三階建ての建物なのだが一歩でも中に入るともう迷宮だ。天井部分が吹き抜けになってる箇所もあり、空間が広く見えるのも建物を大きく見せている要因の一つだね。土日には多くの利用者が訪れるはずだが今日の館内は少し寂しい。もうみんな閉館時間が変わったことを知っているのだろうか。従業員もそもそも少ないのでぼくの足音がタイルの床に反響して館内に響く。

それはこの図書館が公営の施設ではないこと大きく関係している。細かいことを語りだすときりがないので簡略化するけど、ここは『月牟呂神社』が管理している私営の図書館だ。図書館を運営しているのだからさぞ大きな神社なんだろうけど、ぼくはそんな神社聞いたことがない。きっとこの市内に存在しているんだろうけど、どこにあるんだろう。ぼくたちの町には図書館が二つあるんだけど、多くの人はもう片方の図書館に行っちゃうから人が少ないこともあり、館内はいつも独特の静寂(せいじゃく)がひろがっていた。もちろん、その空気感に居心地の悪さを感じたことはないし、むしろ好きだったりするのだけれど……今はそんなことはどうでも良くて。


とにかく地図を取りに行った駿英を探さないといけない。ぼくは、民俗風習のコーナーへと足を踏み入れた。ここに来るまでにトイレも確認したが、鍵がかかっている個室はなかった。いつのまにか、他の利用者たちはいなくなってるし人に聞くこともできない。久しぶりに開くこの扉の先はどんな部屋だったかな、そんなことをのんきに考えながらドアノブを回して扉を引く。


それと同時に、部屋の中でうつ伏せに倒れている駿英が目に飛び込んできた。


「駿英!?」


彼に駆け寄ると同時にぼくの視界もぼやけていく。体を動かそうとしても言うことが聞かない。近づいてくる地面に対してあまりにも無防備に倒れこむ。そのときだ、ドアの前にぼんやりと人影が見えた。だけど、もうそれが誰か判別できない。そのままぼくは気を失ってしまった。

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