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七月八日(土) 午前八時五十分 図書館

 土曜日の朝、朝食を食べて、カバンに必要なものを詰め込んで家を出る。隅っこの方には輪ゴムや折れ曲がったプリントなんかも入っていたけど、いざってときに使えるかもしれないからそのままにしている。このかばんの惨状を学校で通りすがりに先生に見られて怒られたことがある。整理するのはニガテだけど、それだけで不真面目だなんて決めつけないでほしい。居眠りして人の話を聞いてない国会議員なんかよりは真面目だと思うんだけどな。


 図書館までは三人の中でぼくの家が一番遠いため、少し早く歩く。学校の裏山に目をやると爽やかな青い木々が山肌を覆れており、清涼感のあるその姿は、いじけた心を落ち着かせてくれる。あんな自然に囲まれた場所で生活できたらなぁ、なんてことを考えながら歩いているうちに図書館へと着いた。まだ開館前のようで、ぽつぽつと図書館の入り口である自動ドアを待っている人たちがいる。お年寄りからぼくの胸部までしか背がない小学生まで十人くらいだろうか。みんなこんなに朝早くからなにを読みに来るんだろう?


「おーい、こっちに気づけ~」


「わぁ! びっくりした……」


急に右肩に手を置かれて思わず声が出てしまった。開館を待っている人たちからもどうしたんだ?

みたいな顔で見られて少し恥ずかしい。


「オレはその声にびっくりしたぞ」


「ごめんね! 驚かすつもりはなかっ……いや、少しはあったかも。とりあえずごめん!」


苦笑いをする駿英をよそに、あわてた花梨が謝ってきた。


「気にしないでいいよ。ぼーっとしてたこっちも悪いしね」


それから3人で期末テストがいよいよ近づいてきたことや、部活の練習とかを話していると自動ドアの奥のカーテンが開いた。【閉館中】と書かれた看板も職員の人によって奥の方へと運ばれていった。どうやら開館時間の九時になったらしい。子どもやお年寄りに続いて中へと入っていく。


「うわ~、あいかわらず本が多いなー」


「そりゃ、ここは図書館だからね。本が少なかったらダメでしょ」


図書館は1階は大人向けの本が多く、2階には児童文庫や絵本、童話などが置かれている。またここには他の図書館にはない特徴がある。それは階段の多さと広い屋外エリアだ。建物の四方から上下の移動が出来るのでわざわざ階段を探す必要がないんだ。でもエレベーターは職員用のものしかない。お年寄りやベビーカーを押している人とかなら図書館の人に頼んだら乗せてくれると思う。この前二階で本を探していた時に職員と一緒に杖をついたおじいさんが出てきたところを見たからだ。


「とりあえず屋外エリアに行こう。あそこなら静かに勉強ができるしね」


今日の目的は期末テストの勉強だけじゃない。勉強が終わったら、怪文を読み解くために必要な本を探すことになっている。


「よし! じゃあ、サッカーの本置いてあるところ行ってくるわ!」


「待ちなさい! 今日の目的はそれじゃないでしょ?」


「…ちぇっ、わかってるよ。期末テストの勉強だろ?」


「そうそう。今度こそ赤点取らないようにしないとだからね」


駆け足でその場から動こうとする駿英のリュックを捕まえ花梨が釘を刺す。この駿英(サッカーバカ)は最初の中間テストで赤点を取るような問題児。


「大丈夫だぜ。あんときは部活の新人戦があって練習に熱が入ってただけさ。このまえつばきから渡された紙に書かれてあった量の勉強だってなんとかこなしたぜ。それに、今日はお前たちがいるからわからないところが聞けるし安心さ」


確かに今週は勉強を頑張っていたけど、気を抜くとすぐに元通りになる。ぼくたちで駿英の勉強を見ることが一番の目的だ。



「質問になら答えられると思うけど、わたしだって間違えることはあるし、最初に自分の勉強をしなくっちゃ。勉強のために早く屋外のテラスに移動しましょ。つばき君、今回は負けないからね」


「ぼくも負けないように頑張るよ」


前回は最初のテストだったから小学校時代のアドバンテージがいきたけど、本格的に中学の内容が含まれる今回の期末テストはどうなるだろう。とりあえず、自分のペースで頑張ろう。


「――うぐぐがぁ……」


「どんな声だよ」


 勉強を始めて二時間が経ち、ぼくと花梨は持ち寄った問題集を解き終わった。それから、ぼくは持ってきた怪文とにらめっこ、花梨は先日貸したマンガを読んでいる。しかし、駿英だけは未だに提出が必要な課題とにらめっこしていた。


「なんで、テストもあるのに課題もあるんだよ! しかもかなり量があるし……」


課題が出た教科は数学だ。内田先生は生徒にやさしくて授業もわかりやすいけど、それはそれとして課題はしっかりと出す先生だ。内容は連立方程式に関する問題で、駿英なら一問解くだけでもかなりの時間がかかるだろう。それなのにさらに問題集を解くとなると……。うん、無理だな。でも、前回の中間テストのときも同じぐらいの量、課題が出ていた気がするんだけどなぁ。


「ああ、中間のときの課題? 隣の席が新田だったから、ちょっとしたお願いを聞く代わりに見せてもらったんだ」


笑顔でこんなことを言える駿英が恐ろしい…。隣の席だからって簡単に話しかけられるなんて……。


「ほら! 駿英、集中すればすぐに終わるよ。分からないところがあれば教えてあげるからね」


「おう、ありがとうな!」


駿英に発破をかける花梨。もう少しで終わりそうだ、と自分を奮い立たせ駿英は再び問題集と向かい合う。本当にいいコンビネーションだなと見ていて思う。


「終わったー!」


「終わったねー」


駿英がペンを離し両手をあげて大きく伸びをする。花梨はホッとした様子で周りに迷惑にならない程度の音で手をぱちぱちとたたく。どうやら課題が終わったようだ。はじめてから二時間以上が経っていて時刻は十一時半を過ぎていた。でも午前中に終わるとは思ってなかった。知識を吸い取るのが早いのかな。

ぼくはというと、怪文中の単語から連想できそうなものを考えていたけど、結局何も思い浮かばなかった。


「花梨、ハラ減らない?」


「ね、お腹空いた~」


花梨が返事をしたタイミングで駿英のお腹が鳴り響く。どうやらお腹が空いていたのはぼくだけじゃなかったみたいだ。


「ねぇ、ふたりとも。どこで食べる?」


館内では飲食が禁止のため、いったん外にでてご飯を食べないといけない。


「つばきはどこに行きたい?」


「ぼくはどこでもいいよ。花梨は?」


「わたしもどこでもいいかな。んー、どうしよう」


悩んでいる花梨を横目に、ふとテラスから周囲を眺めると図書館の前にある公園が目に入った。


「よし、じゃああそこでお弁当を食べようか」


「いいね! そうしよう」


花梨の同意を得られたところで公園に移動することにした。えっ、駿英? 彼ならぼくらが荷物を運ぶのを待つことなく公園へと向かったよ。

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