無職の俺が国を統べる~ステータスチートが現実世界でも適用されてる件について~
無職のおっさんには現実で出会ったことないです。
5年前、俺はニートだった。ハローワークに行かない俺を親はよく思っていなかったようだが、それは関係のないことだ。
ある日親に呼び出された俺はリビングへと向かう。その途中に階段がぬけ、真黒な地下へと引きずり込まれた。
「ステータスオープン」
落下の最中、俺はおもわずそう叫んだ。俺は知っている。こういう出来事は異世界転移の前兆なのだ。そして、俺は自身の能力を確かめたいという衝動を抑えられなかった。だが、能力を確認することはできなかった。実は暗闇に引き込まれたのではなく、階段から落ちて頭を打ち、死んだだけだった。
そう、俺は5年前に、階段から落ちて死んだのだった。目が覚めると俺は25歳、エリートビジネスマンに転身していた。
この世界では上から順番に、クズ、ザコ、フツー、いい感じ、エリートの格付けがなされている。俺が高校時代ゴミだと思っていたイキリヤンキーは俺の上司になってしまっていた。
「おい佐藤、今日もコンビニの駐車場でアンパンの匂いがするいいモン吸おうぜ」
今日も上司からシンナーのお誘いがきた。わずか3年で俺の歯は溶けてなくなってしまった。
「ステータスオープン」
歯がなくなってしまった俺は、その代償で得られる自身のステータスを確認しようとした。だが、そこにはステータスはなかった。俺は、歯がないエリート、つまり最下層も最下層に成り下がってしまったのだ。
「いいや、俺にはまだ希望がある。この髪さえあれば、まだ人の上には立てる。」
そう意気込む男の頭では、強い光が乱反射を繰り返していた。その日の仕事の帰り道、俺はスカウトされた。この世界では容姿も逆転、街中のポスターには魑魅魍魎のごときブス達がはびこっている。
「テレビの中もブサイクしかいねえ」
俺はこの世界では所謂B専になってしまった。そして、俺の今の姿はこの世界でのイケメンに近い。この世界でならば、俺はハーレムを築き上げることができるかもしれない。そう思った矢先、視界が暗転した。
気づけば俺はニートだった自分、死んだあの日に戻ってしまっていた。
『人は死ぬぞ』
その言葉を信じていた俺は階段から落ちて死ぬことによって二-トだった自分と決別できたと思っていた。だができなかった。45歳のニートに逆戻りしてしまった。
「ステータスオープン」
だが、なんとそこにはステータスが表示されていた。想定外の事態に、俺の両親がうろたえている。それもおかしなことではない。なぜなら、俺が手にした究極のスキルを見てしまったからだ。
その名もーーーー
――――――――――――――――――ステータスオープン
ステータスオープンとはあたかも自分に様々な能力があるといったことを、まことしやかに書き連ねることで、読み手に対し異常なまでの嫌悪感と羞恥心をもたらす。また、作家にとってはそれを書くだけでページのかさましをすることができる。
カタカタカタッ
キーボードを打つ音がこだまする。そして、我が物顔で掲示板に書き込む。
『彼のステータスは誹謗中傷と他人の粗探し』
…なんて意味のないことをしているのだろうか。自分のことながら嫌になる。気分を転換するために、最近できたショッピングモールでムシキングをすることにした。
「いけー! ヘラクレスオオカブト!!」
ムシキングをプレイする小学生を眺めながら、その列に割り込む。
「お前、まだヘラクレスオオカブトなんて使ってるのか。時代はヘラクレスリッキーブルーだぞ。俺のスーパーハヤテが火を噴くぜ」
スーパーハヤテは火を噴き、燃え尽きた。それを見て小学生たちは馬鹿にする。
「本当に火を噴いたあ! 小学生が全盛期だったお前みたいに燃え尽きた!」
小学生の大群におされた俺は、そのままつまずき、階段から落ちた。視界が暗転し、俺は感じた。今度こそ、俺は死んだのだ。
目が覚めるとそこは銃声がこだまするバトルチック・エポック・オンラインの世界だった。そんな世界で俺が生き残れるはずもなく、俺は即殺された。また視界が暗転する。だが目を開けると俺はまだバトルチック・エポック・オンラインの中にいた。多くの死を越えたことによってどうやら俺は死に戻りの力を得たらしい。
次の瞬間、頭に衝撃がはしった。どうやら俺は、ヘッドショットされて死んだらしい。視界が真っ暗になった俺は、そこで叫んだ。
「ステータスオープン」
目が覚めると、そこは16世紀の世界だった。俺は海賊船のクルーとして今まさに東インド貿易会社の船に襲い掛かろうとしていた。船から大量のオリーブオイルぼ強奪に成功した頭は、とても上機嫌だ。そこで、俺は果たさなければならない使命を思い出した。
「私はやはり愛している人のところへ帰らねばならない。」
脳裏を迸る熱いパトス。だが俺には愛している人などいなかった。だがふとニート時代に気になっていたある人物を思い出した。彼はいつあってもマスクをつけていて、少し勝気な性格で『お前どうせ自作自演だろう』が口癖だった。
彼に再び会いたくなった俺は、ちょうど東インド会社の船の砲撃で死に、再びあのニートの世界にリスポーンを果たした。この時の俺は、彼に会えるという事実だけで、そのあとの人生が全てうまくいくように感じていた。だが、彼にはもうすでに彼氏がいた。
「コイツがいるからいけないんだ」
その彼氏を殺そうと、俺はホームセンターに向かった。
「すいません、人を殺せるナイフはありませんか?」
「今の若者は簡単にナイフで人を殺せると勘違いしておる。わしが中国4000年の歴史を誇る近衛流剣術を伝授してやろう。」
こうして俺はホームセンターの店員の弟子となった。そして俺は思い人の彼氏にナイフを突きつけた。しかし、彼は言い放った。
「俺を殺そうなんて、ただの願望の垂れ流し。これはひどい…」
そのまま返り討ちをくらい、俺がナイフで刺し殺された。俺は、死んだ。俺が死に際に放った一言は、人々をこの小説業界に駆り立てた。
「俺への疑いか、疑いたければ疑うがいいさ。探せ!お前の時間をそこへ置いてきた」
ハッピーバースデー!