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マイナスから始まる高校生活  作者: 蒼井 あをゐ
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波乱の幕開け…みたいなもの

初めまして。この度初投稿をさせていただきました。蒼井 あをゐと申します。

少々駄文が続いたり、場面の展開が早かったりと、余韻など皆無となっておりますが、温かく見守ってくださると有難いです。

腐れ縁の仲の男友達が言っていた。

「ハーレムなんてもの、現実に求めるのは虚しいだけだろ」と。

確かにそうだ。一見ありえないことに思えるから。


でも、これはそんなありえないことが図らずも起きてしまった、今も続く情けない俺の話だ。




全国中学校ソフトテニス選手権大会 個人戦 三重県大会 決勝

暑い夏の昼下がり、ボールを打つ音だけが小気味よいリズムで加速していた。

人々の見守る中で点の取り合いが繰り返され、その結果に一喜一憂する。


観客が手に持っているトーナメント表の一番上には


藍央第一 対 峰ヶ曽根


と、走り書きでメモされていた。


静まりかえった中

ファイナルセット、幾度もデュースを繰り返して

「アドバンテージ、サーバー」と、峰ヶ曽根側に主審がコールする。

対して崖っぷちな藍央第一側のこの俺、我妻世一とペアの赤井は満身創痍の中、相手のサーブを待ち続けた。


プレーが始まり、ボールを打つたびに怖くなっていった。

 (これに勝ったら全国…!)

試合のスピードは加速する。

  (全国!全国!!)

意識せずとも、目先のことに先読みしようとしてしまう。

 (絶対に負けてたまるかよ…!)

狭いテニスコートの中で死闘が繰り返されている。

 (早く動け!早く動け!)


…決着がつこうとしたのは俺が先読みして逆サイドにいこうとした時だった。

確かに焦っていた。気づいた時には体の向きは完全に逆サイドに向いていた。

 「!!馬鹿!世一待て!!!」

コーチと赤井の声が聞こえたときには、遅かった。


一瞬、だった。


今までに積み上げたものが、自分とは反対側に向かって進んでいくボールに、崩されそうになっていた。

誰にも聞こえない無音の絶叫が、頭の中に響いた。


ボールがコートの中でポンと跳ね、通り過ぎていった。


終わった。

ただそれだけしか思い浮かばなかった。


 「あぁ…。」


溜息まじりに言葉を出した。相手のペアは抱き合っている。


「クソッ、クッソォ…!」


試合終了後、赤井を見ると泣いていた。俺のミスで。


 「赤井…。…ごめん…。」


苦し紛れに出た言葉は、自分でも驚くほどふざけていた。

こんな言葉で許されるわけがないのに。許してほしい訳ではなかったのに。


俺の謝罪とも言えない、言葉を聞いた赤井は、


「じゃあ…何でお前は泣いてないんだよっ…!」


赤井の言葉に、何も返すことが出来なかった。


『本日の試合は、3-2で峰ヶ曽根学園の勝利となり、峰ヶ曽根学園の全国大会出場が決定しました。』


球庭場中に試合の勝敗を伝えるアナウンスが流れた。


「全国大会出場は、長船選手にとっては通過点だと思いますが、中学2年生ながらもチームの主力であることに、全国への意気込みなどはありますか?」


「そうですね、全国でも今以上の力を培って、ペアで頑張っていきたいと思います。」


長船健司。中学2年生で強豪の峰ヶ曽根学園のレギュラーを手にした天才。当時は10年に1人の才能を持つスーパールーキーなんて言われていた。

そんな取材を受けている長船を横目に、重い足取りで自分たちのコーチの前に並んでいた。


 「お前たちはよくやった。悔しいがこれが今の藍央の実力だ。…お前たちのコーチを務めることが出来て本当に良かった。ありがとうな。」


 [[ありがとうございました。]]


コーチにそう言われて、終わりの言葉以外、何も言えないまま終わりを迎えた。

試合後のミーティングが、コーチから落胆されたような言葉のように聞こえた。


 「ごめん…。ごめん…。」


涙はどうしても出ないまま、そう言うしかなかった。


俺のせいで、俺のミスのせいで。そう思うしかなかった。


藍央第一中学は、身内からしたら「日本一のチーム」なんて言われるのだろうか。


嘘だ。「全国出場にあと一歩届かなかったペア」だ。


いつもなら皆で帰っていた道も、一人で帰っていた。


(あの時、落ち着いていれば。あの時、相手をよく見ていれば。あの時、もったいぶらずに一息入れていれば…。)


(俺の運命は変わっていたのかな…。)


考えても願っても解決しないことばかりが、思い浮かぶ。

馬鹿らしく思えてしまった。


「…タラレバを考えても仕方ないか…。」

そう、独り言ちた。

そう、独り言ちて…。


「…ぅう”あ”あ”ぁぁああっっっ!!」


ミスだったとしても。

我侭だったとしても。


「勝ちたかったぁ…。」


夕日が自転車を引いて歩く、俺の影を濃くしていた。


それからは、何も楽しくはないままだった。

それだけ、部活しかないやつだと知って悔しかった。


残りの学校生活は溶けるように流れていった。




春。

自然に出来た桜色の道を、新入生たちは歩いていた。

少し錆びついた匂い、小さなひびの入った渡り廊下。


県立の並み平均の学力の高校の正門をくぐり抜けた。


「一年二組の教室は向こうか…。」


高校で部活に入る勇気は無かった。怖かったから。弱かったから。


(もう…中学の時みたいにはいかないな…。)


静けさと賑やかさが局地的に散らばっているクラスだった。知り合いはいたが、話したい気になれなかった。賑やかさが自分を惨めにさせそうで怖かった。


うつ伏せて時がたつのを待っていると、


「ちょっと、あんたどうしたの?」と、声が聞こえた。聞きなじみのある声だった。


「…なんだよ。」


「なんだよ、じゃないでしょ。心配してあげてんのよ…。」


毎度毎度こいつはおせっかいを焼きやがる。

天根美奈。幼馴染だからってなんでここまで世話を焼くのかが理解できないでいた。


「だったら、心配しなくていいだろ…。構ってくれなくて結構だ…。」


「出来たら苦労しないわよ…。」


…うるさい。美奈はあの夏の試合を知ってる一人だ。だからあの試合後もよそよそしくして関わらないようにしてたのに。今更何なんだよ…。

言葉がのどに詰まりそうだったから、黙っていると担任らしき人物が入ってきた。


「おーい、席座ってくれー。早速始めるぞ。」


「…よそよそしくしても駄目だからね。」


そう言って美奈は去っていった。

余計な世話だ…。


「えーと、今後この一年二組の担任を受け持つ林原だ。まぁ上手くやっていけたらと思う。自己紹介は終わりだ。早速だが9時には、新入生へのオリエンテーションが予定されているから、それまでにやれることはやっていきたい。まずは…」


さっきまで賑やかさと静けさが半々だったクラスが静けさ一色になって、これからの予定が言い渡された。



一学年全員でのオリエンテーションが終わり、諸事情を言われて、今日の予定が全て終わった。

時間がたつ内に、人の数はまばらになっていき、賑やかさは段々と、静かになっていった。


(そろそろ帰るか…。)


美奈はもう帰っているから、やっと帰れると思い、荷物を持つと


「ゴトンッ」


と、少しだけ鈍い音がした。


(チャックが空いていたか…?)


そう思って落としたものを見つめた。


目線の先にあったのは、少し大きめのペンダントだった。

十年前、家族で旅行に行ったとき、迷子の、自分よりも小さいような子供を助けた時にお礼として受け取ったもの。あの子はまだ元気にしているだろうか…。

お守り替わりのペンダントを拾い、大事に閉まった。


(これのおかげで、試合の後もずっと頑張れてたな…。)


会えはしなくても、一言だけでもお礼が言いたかった。


(いつかは、会えるといいな…。)


そう思い教室から出た瞬間だった。


 「きゃっ!?」


 「うおぉっ!?」


自分からは見えない死角から、女子生徒が出てきてぶつかり、尻もちをついてしまった。


 「いつつ…。あ、ごめん。いきなりぶつかっちまって。大…丈夫…か?」


 「え、あぁ、ごめんなさい。こちらこそ。大丈夫です。」


ドクン。


え?あれ…?


目の前の女子生徒は初めてみたはずなのに、どこか見たことがあるような、既視感に似たような感じがしていた。


ドクン。ドクン。




(「ハーレムなんてもの、現実に求めるのなんて虚しいだけだろ」)

確かにそうだし、ありえないものだ。


むしろ、今の自分はマイナスからのスタートだ。


でも、もしもここから歩いて行けるのなら?

その先を見ることができるのなら?


春。高校一年生の成り立ての今。



俺の、マイナスから始まる高校生活が勢いよく始まったんだ。








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