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異世界還りのおっさんは終末世界で無双する【漫画版5巻6/25発売!!】  作者: 羽々音色
三章

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九十七話 雪ノ下すみれ8


先輩がいなくなってそろそろ一ヶ月も経つ頃、デパート内は少々慌ただしい雰囲気に包まれていた。


織田さん含む警察官の人達が、出入り口としている立体駐車場の方へとぞろぞろ移動しているようで、また誰か池間親子のように新たな避難民の人でもきたのかなとまず考えた。

しかしどうやら事情はそれとは少し異なるようで、数人の警察官が戻ってきては何やら食料の類をキャリーカートに乗せて運んでいた。


それで用事は済んだのか警察官達が皆戻ってきたので、私はその中にいた織田さんに話しかけた。


「あのー、何かあったんですか?」


「あぁ、雪ノ下さん。避難民、と言えばいいのかな。いや、ちょっとガラの悪い連中が来てね。受け入れを断る代わりに物資を提供したんだよ。」


「そうなんですか?」


織田さんが受け入れを拒否するなんてと思ったが、どうやら彼の話によると、その数人のグループは持ってきていた武器を預けることを拒否したらしい。


この避難所は警察署にいた頃から武器の類は全て警察官の人たちが管理している。

そして銃器などの特に危険なものは基本的に避難民は持たせてもらえない。

持ったことがあるのは、物資調達で外へと出ていた先輩と池間さんくらいじゃないだろうか?

それでも外から帰ってきたらまたそれらは預けていた。


その管理は私からして見ても当然の話で、それを良しとしない人達が相手ならば受け入れを断るのもやむを得ない話だろう。


それに加えて、カエデちゃんを襲った男の仲間達がいるというあの話がまだ解決していないのもあると思う。

あの男の仲間なら、ガラの悪い連中、なんて呼称が似合う人達だろうし警戒もして当然だよね。


「食料を渡したら大人しく帰ってくれたから良かったけどね。まあ武器を渡したくない向こうの気持ちもわからないでもないし。こっちはかなり余裕があるから、受け入れはできなくても多少なりとも手助けできればそれでいいんじゃないかな。」


ガラは悪いが100%悪い人だと決まっているわけではない、織田さんはそう言いたいのだろう。


相変わらず人がいいと言うかなんと言うか。


でも、私はそんな織田さんの選択を間違っているとは思わない。

こんな世の中なんだもの、助け合う精神は大事だと思うし、余裕があるなら助けてあげるべきだとも思う。

そもそも織田さんのそれがなかったのなら、私はこうしてここにはいなかった訳だし。


物資の在庫管理を手伝っている私はどれだけの食料があるかもわかっているから、その決定に不満なんてなかった。

ただ、少しだけ胸騒ぎがするのは何故なんだろう。


+++++


「シュウ君ってばモテモテだねー!」


とある日の就寝前、隣で横になるシュウ君に向かってそう言うと、彼は口をへの字にしながらぷいと私から視線を外した。


「ユキさん、そんな、からかっちゃダメですよ。ね、シュウ君?」


「大丈夫……」


そんなシュウ君のさらに隣には、そう言いながら手を伸ばしてぽんぽんと頭を撫でるカエデちゃんの姿があった。


いわゆる、シュウ君を間に挟んでの川の字、というやつだ。


今日は池間さんが警察官の人と共に夜の見張り番をしていて、その都合でシュウ君を預かっていた。

これまでも何度か同じような機会があったが、その時も今と同様こうして川の字で眠っている。

まだまだ子供だから夜に起きたりしたらすぐ気づけたほうがいいからね。


シュウ君は腕を顔の前で交差しながらきっと照れて赤くなっている表情を隠して、カエデちゃんにされるがままだ。

もうLEDランタンの灯りも極限まで絞って、そんなの見えないのに、なんて思いながら微笑ましくその様子を眺める。


シュウ君は、強い子だ。


池間さんから聞いた話では、このパンデミックで母親を亡くしているらしい。

その詳しい話は池間さんの口からは語られなかった。

しかしだからこそ、きっと凄惨な出来事があったのだと思う。

目の前で襲われてしまったり、死んでしまったり、ともすれば池間さんが感染者になってしまった奥さんを殺した可能性すらある。


私の両親は、たとえすでに亡くなってしまっているのだとしても、今はただの安否不明で済んでるだけまだマシだと思う。

私だったら、目の前でそのような出来事が起きたのならば、耐えられるかわからない。


「……あ、シュウ君寝ちゃったみたいです。」


そんなことをぼんやりと内心考えながら小声で取り留めのない話をしていると、気付けばシュウ君はすやすやと小さな寝息を立てていた。

カエデちゃんはそれを見て頭を撫でるのをやめて、ずれたタオルケットをかけ直してあげていた。


「私たちも寝ましょうか、ユキさん。」


シュウ君を起こさないように小さな声でカエデちゃんがそう言って、傍にあったLEDランタンに手を伸ばした。

そんな彼女を制するかのように、私も同じく小さな声で呼びかける。


「……ねえ、カエデちゃん。」


思い返してみれば、カエデちゃんはホームセンターでさっき考えたのと同じような目に遭ってきていたという話だった。

カエデちゃんもとても強い子だと改めて思う。


しかし同時に、シュウ君のことでそう思いを巡らせていたせいか、目の前にいるカエデちゃんが何故だか、今にも潰されてしまいそうなただの幼い少女のようにも見えてしまっていた。


「えっと……無理しないで、いつでも私に甘えていいからね。」


その呼び掛けに疑問符を浮かべていそうなカエデちゃんの視線を受けて、なんだか自分でもよくわからない台詞を吐いてしまう。

唐突な私の発言にカエデちゃんは数回目を瞬きさせたのも束の間、今度はその顔に柔らかな笑みを浮かべた。


「……ユキさんには、甘えっぱなしですよ?」


「そ、そう?じゃあ、もっと、甘えていいからね?」


「ふふっ……はい、ありがとうございます。」


正直な話、私のその言葉の半分くらいは、自分のための言葉であったのかもしれない。

頼られることで自分ももう少しだけ頑張れるんじゃないかという、そんな裏のある言葉。

でもそんな私の言葉に彼女はそうお礼を言うと、ランタンの灯りを消した。

テナント内が暗闇に包まれて、その静寂さをより深いものにする。


「……ユキさん。」


「ん、なあに、カエデちゃん?」


「……いえ。あの、おやすみなさい。」


「うん。おやすみなさい、カエデちゃん。」


カエデちゃんは何かを言いかけたようだったが、それが語られることはなかった。


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