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八話 不二楓1

 

 始まりは、ネットに上がった一つの動画でした。

 有名動画サイトにアップされたその動画はすぐに削除されましたが、他のアカウントやSNSなどで転載、また削除を繰り返されながら拡散され、世界中の人々が知る事となりました。


 その動画の内容。


 白い部屋の中に檻があり、その内側にはそれぞれ拘束された男性と女性。

 そこに、厳重な防護服に身を包んだ人が近づき、女性の方に注射器を刺しその場を離れます。


 刺された女性は暴れますがもちろん拘束は外れず、次第にぐったりと大人しくなりました。

 しかしすぐに、今度は拘束された手足がどうなろうと意に介さないかのように暴れ出しました。

 言葉にならないうめき声をあげ、もう片方の拘束された男性に視線を向けています。


 そこで二人の拘束が外されました。


 すぐさま暴れていた女性は虚ろな目をしながらゆっくりと、しかし真っ直ぐに男性の方へと歩み出しました。

 男性はしきりに声をかけますがそれへの返答はあいも変わらずうめき声だけ。


 女性はそのまま男性に摑みかかると、躊躇なく首筋へと噛み付きました。

 抉れる首筋、頸動脈から勢いよく血が飛び出して、そのまま男性はビクビクと痙攣をして倒れてしまいます。

 しかしそれでもなお女性は噛み付くのをやめず、今度は腕、腹、そこかしこに噛み付き、その肉を咀嚼しているんです。


 白い部屋は血で赤く染まり、そしてその血で口の周りを赤くした女性がカメラの方を向いて立ち上がった時、その後ろで先ほどまで"喰われていた"男性も、立ち上がる。


 というものでした。


 その動画はカットシーンなど無く同じ視点で続けて撮られていたものでしたので、とてもじゃないですがフェイクの類とは思えませんでした。


 そしてまた一つの話がネットにあがります。


 当初、動画が削除されるのは規約に違反したグロテスク動画のためと思われていましたが、どうやらそういう事情でもないらしく、話では動画はハッカーが某国の研究所からハッキングによって入手したものであり、そこが圧力を掛けてという理由だったみたいです。


 その話が本当かどうかなどわかりませんが、しかしそれによって、よりその動画が本物なのではないかと皆が感じていたと思います。


 その話が出る頃には、動画が初めてアップされた時から数日は経っていて、皆、得も言われぬ不安を抱えながら過ごしていました。


 +++++


「ねえ、お父さん、あの動画、結局なんなんだろう?」


「あのゾンビの動画か?」


 私は母と仕事を終え帰宅していた父と三人で、BGM代わりにつけているテレビから流れるニュースを横目に見ながら、他愛のない話をしながら食卓を囲んでいました。


「二人とも、食事中にそんな話はやめなさいよ」


 母は、はぁ、とため息をつきながら私たち二人を叱りつけます。


「あなた、ビールは飲む?」


「いや、今日はいいや。明日は早いからね」


 食事を終えて、私はテーブルでスマホを弄っていて、父はソファでテレビを見ながらくつろいでいました。


「楓もそろそろお風呂入っちゃいなさいよ」


「はーい」


 洗い物をしている母からそう言われて、私が立ち上がろうとしたその時でした。


『ただいま速報が入りました。渋谷で多数の怪我人が出たとの事です。暴動やテロの恐れがあり、付近の住民や帰宅途中の方は……』


 テレビからそんな不吉なニュースが聞こえて来ました。

 上空からヘリで映された映像は人混みの中暴れている人が多数いて、そこから逃げる人、逃すまいと掴みかかる人、転んでそのまま起き上がれないでいたりと、とにかくパニックになっていました。


「おいおい、なんだか凄いことになってるな……」


 父がソファから身を乗り出してテレビの映像を食い入るように見つめています。


「おかあさん!大変だよ、見て!」


 私もそれから目を離せなくて台所にいる母を呼びます。

 洗い物の水の音でテレビからの声が聞こえていなかったのか、やれやれとでも言うように少し面倒そうにパタパタとスリッパを鳴らして母がリビングに到着した時、テレビではまた新たに他の場所で同じような事が起こったと報道されていました。


「ねえ、お父さん、これって……」


 ごくり、と私が喉を鳴らして次の言葉を言おうとしたら、スマホから大音量の音が流れて来て心臓が止まりそうになりました。

 最近長いこと聞いていなかった、緊急地震警報と同様のものでした。


 付近の指定避難所へ移動する事との通知でした。


「ここから三つ隣の駅前でも同じようなことが起きてるみたいだ。すぐ準備しなさい」


「動きやすい格好に着替えてきなさい。厚着でね、下にタイツも履いておきなさい」


 父と母の言葉に私は胸にぞわぞわとしたものを感じながら、着替えと荷物を取りに二階の部屋に行きます。


 ジーパンにパーカーとラフな格好の上にジャケットを着て必要そうな荷物を小さなバッグに入れて急いで階段を降りると、両親はもう準備を終えているようで、父は外でガレージを開けて車の準備をしていました。


「防災セットも一応持って行くから、楓、荷物これに入れちゃいなさい」


 母に言われ大きな二つのリュックの片方に私の荷物を入れて家を出て、私達は父の車に乗り込みました。


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