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異世界還りのおっさんは終末世界で無双する【漫画版5巻6/25発売!!】  作者: 羽々音色
三章

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八十二話


「そうか、タケ坊の両親もか。辛かったろう……だが、二人とも無事でよかったな。」


畳張りの部屋の中央にあるちゃぶ台を囲み、タケルとモモはじいさんにこれまでの経緯を話していた。

俺は土壁に背をつけて座り、それを少し離れたところから見ている。

部屋の中には数人の門下生もおり、そんな俺に対して若干だが警戒の視線を向けていた。


じいさんにとっては、モモの母親はつまりは自分の娘にあたる。

二人は両親と避難所でのパンデミック発生時にはぐれたというが、状況からすれば生存は殆ど絶望的といっても良いだろう。

内心は相当のショックを受けているだろうが、じいさんはそれを表には出さずタケルとモモを慰めていた。


「柳木さんには、凄く助けて貰ったんです。きっと、俺達だけじゃここまで来れなかった。」


「そうか……柳木君、本当にありがとうな。」


タケルが俺の方を見てそう言うと、じいさんもこちらに向きなおり、深く頭を下げた。


「あー、じいさん、頭をあげてくれ。たまたま助けただけだ。」


織田さん達のコミュニティを抜けてからあの街に着く間、俺は生存者の視線を感じてもそれに関わろうとはしてこなかった。

タケルとモモについては、本当にたまたま助けてしまっただけなのだ。


そんな気持ちを抱いていることで、このやりとりになんとなくやりづらさを感じてしまい、俺はそっぽを向きながら頭をかいた。


「最初は避難所を探そうかと思ったが、タケル達がここがいいと言うもんでな。いや、俺としてはとにかくここが無事なようで良かった。」


「本当、手間を掛けた。感謝してもしきれんよ。」


「別に大した手間じゃない。」


俺の言葉に、なおもじいさんは頭を下げてくる。

その反応にどうすればいいものかと頭を抱えながら困り顔でちらりとタケルを見れば、俺の気持ちを汲んだのかどうかわからないが、タケルが口を開く。


「鈴掛先生、柳木さん凄いんですよ。感染者を物ともしないんです。」


「ほほう。」


その言葉に興味を引いたのか、じいさんが顔を上げてタケルを見やる。

タケルは俺がゾンビに恐怖も感じずに淡々と処理をする様子を、嬉々としてじいさんに語っていた。


「そう言えば、この町にあった頭が綺麗に斬られた死体は、じいさんがやったのか?」


「やつらをやったのは勿論わし以外にもおるが……まあ、綺麗に斬られたものならば、わしのかもな。」


俺の質問に、じいさんはそう言ってからからと笑う。


「数日に一度、町の皆で入り込んだ感染者の掃除をしとるのよ。」


「ほう。この家にはそんなに人がいるような感じはしないが……他の場所にもいるということか。」


道中に感じた、学校からの視線を思い出しながら俺は言った。


じいさんの話によれば、町民はここの他にも学校や他の大きな施設に分散して避難しているらしい。


タケルが言った通り、パンデミック発生時ここは大きな被害は出なかったのだそうだ。

やはり人口密度が低いことが幸いしたのだろう。

何人か被害は出たものの、町の皆で力を合わせて事態の収拾に努めたのだそうだ。


とある日に死ぬとゾンビ化するという事実も知ることとなり、その時にも多少の被害が出たようだが、それからは一箇所に集まるのはまずいということで今の形になったらしい。


「老人の多い町だ、いつ誰が突然死ぬかなどわかりゃせんからな。」


「まあ……じいさんは、まだまだ長生きしそうで何よりだ。」


「はっは!勿論そのつもりだ。」


俺が思っていた以上に、この町は上手くやっていけているようだ。

そうなると、こういった田舎町やもっと人里離れた場所では生存者がまだ沢山いるのかもしれない。

都市部からゾンビ共が一斉に流れてくるとかなりまずいことになりそうだが、しかしそういう意味ではここ数日俺がしていたことはそう無駄なことではなかったのかもしれないな。


「柳木君、そろそろ夕食にしよう、庭の畑で採れたものを出すから楽しみにしといてくれ。」


「ほう、それはいいな。」


異世界から戻って以降、生鮮食品は一度も食べていなかったからな。

久し振りのまともな日本食が食べられそうだと、じいさんの言葉に俺は胸を躍らせた。


+++++


夕食が終わり、俺はあてがわれた部屋の中で一人物思いに(ふけ)っていた。


タケルは昨夜、俺のことを信頼出来ると言っていた。

俺がしたことについて詳しくは話していないが、それでも、人を殺しているという俺のことを。

必要だと思うから殺して、そこに何の感情も抱かないことを、むしろ凄いとさえ言ってのけた。


人を殺した経験があるからこその反応なのだろうか。

もしかしたら、単に同じように人を殺してしまった自分を正当化したいだけなのかもしれない。


そのタケルの反応は、少しだけ俺の胸のつかえを取り除いてくれた。

同じような行為、告白をして、織田さんに突き放されてしまった胸のつかえを。


織田さん達はこんな世の中になっても、元の世界の価値観なだけなのだ。

それが絶対的に悪いとは俺には言えない。

俺だって、異世界から戻って外の様子がわかってからも、最初はそういう風にしていこうと思っていた。

だがあの半グレグループと出会ったことにより、その価値観は変わった。


きっと、俺という存在がなければあのグループと織田さん達は対立し、近いうちにいざこざが起こっていたのだろう。

それを何の被害もなく未然に防げたのは悪いことではなかったと思う。

だがそれは同時に、織田さん達がこの変わってしまった世界で得たであろう、くそったれな経験を奪ったということでもある。

それは果たして、よかったと言えるのだろうか。


答えの出ない思考が頭の中にぐちゃぐちゃに浮かんでは消えて、それを放棄しようとしたとき、気配感知の範囲内にモモが来たのがわかった。


「えーっと、入っていい、ですか?」


「モモか。構わないが、どうした?」


遠慮がちに掛けられた声に返事をすると、静かに障子が開かれた。

薄く照らされていた夕暮れの日が障子の隙間から部屋に差し込み、モモの影を作る。


汚れていた制服から、古ぼけたシャツとスラックスに着替えていたモモが、部屋の中に入ってきた。


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黒井さんは、腹黒い?

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