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異世界還りのおっさんは終末世界で無双する【漫画版5巻6/25発売!!】  作者: 羽々音色
二章

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五十九話


「お前は一体、何者なんだよ……」


部屋はむせ返るような血の匂いで満ちていて、そう言葉を発したロン毛の男の傍には熱を帯びたショットガンが落ちていた。


どうやらこの男が、この集団のリーダーらしい。


つい先程まで残っていた三人の部下を俺がこの部屋で頭から斬り殺して、もうこの建物内にいる生存者は、俺と奴だけだ。

奴はその床に落ちているショットガンで俺に応戦したが、そんなもの、子供のおもちゃと同じようなものだ。


「……ただの通りすがりだ。喧嘩を売った相手が悪かったようだな。」


そう言って一歩前へと踏み出せば、奴は腰を抜かしたのか床へとへたり込んだ。

手と足を器用に動かしながら、そのままずりずりと後ずさって行く。


この建物に入ってから、俺は恐怖を呼び起こす"威圧"のスキルは一度も使っていない。


使う必要がなかったのは勿論あるが、しかし戦う前に相手の敵意を削ぐような真似をしたくなかった、というぬるい理由が少しだけあった。

それは、こうしてまさに蹂躙というに相応しい行為に多少の正当性を持たせたいという甘い考え。


こちらに攻撃する前に俺に畏怖し、敵意の消え失せた相手を容赦なく殺すという行為が、やはりどうにも"この世界らしくない"と感じてしまったのだ。


だから俺は、殆ど全て先にこいつらに攻撃させてきた。

それで本当に正当性が保たれたのかははなはだ疑問だが、元々がクズの集まりなんだ、これ以上は気にしてやる必要はない。

何より、俺自身がそんなことなどもう気にしない方がいいだろう。


「少し聞きたいことがある。」


「は、はいぃ……」


こいつも、半グレをまとめ上げてリーダーをやっているくらいだ。

それなりに修羅場をくぐってきているはずだろう。

なのに、今俺の前で半泣きになりながら小さくなっている。


それだけ俺が、怖いか。


俺の質問に、やつはなんでもすぐに答えた。

今仲間はあの見張りの二人以外は外に出ておらず、一番の懸念であったあの食糧調達に使っていたスーパーも、やはりこいつらの仕業だったということだった。

念の為他に近くに武装勢力などないかとも聞いて見たが、知る限りはないらしい。


「そうか。それならもう、心配はないな。」


「は、はい!だ、だから、助けっ……」


男の口が、その先を言うことはなかった。

怯えた瞳をそのままに、男の首が宙を舞う。


ごろりと地面にそれが落ちた瞬間、頭だけのアンデッドがそこに生まれた。


「……首だけでもそうなるか。」


ぐしゃりとそれを踏み潰す。


これで、織田さん達に敵対していた武装集団は壊滅した。


食糧調達にも安心して出られる。

もっとも、この事実も彼らには言えないから、結局は多少警戒を敷きながらという話になり、前ほど人数を割くこともできないだろうが。

しかしそれならそれで、俺がその中に入れば、逆に人数が少ない分守りやすいとも言える。


心配事が一つ減ったことに安堵し、俺は時計を見る。


まだ時間はあるか。

それならば多少の作業をしてからここを出るとしよう。


全ての作業は出来なかったが、やれるだけはやり終えて、俺は半グレ集団のアジトをあとにした。

心の中に、少しだけしこりを残して。


+++++


見張りの最後の一人も始末して、アイテムボックス内の水で血塗れの体を多少清めてから、俺は警察署へと戻った。


自室で一人考える。

考えることはたくさんあった。


まずはゾンビのことだ。

結局、あの坊主頭の言っていたことは全て事実で、アジトにいた他の奴らも全て、頭を潰さずに殺した場合ゾンビ化していた。

噛まれるとゾンビ化するという話は皆言っていたが、この話は誰の口からも聞いたことはなかった。


織田さん達は知っているのだろうか?

何より、自衛隊の人達はこれを知っていたのだろうか?


織田さんは自分の部下や自分を頼り避難してきた者がゾンビ化し、それを殺してきたことについて苦悩していた。

だが無傷の者を殺したという話は聞いていない。

それと同じように、普通に考えてそこらの無傷の生きている人間を、自衛隊も殺したりはしなかっただろう。

だから織田さんや自衛隊は、この事実をきっと知らない。


逆に、何故それをやつらが知っていたかといえば、パンデミックが始まってから以降、それだけ今まで人を殺してきたからだ。


それを考えれば、駐屯地のあの惨状も、理解出来なくもない。


隊舎には、少数のゾンビがいた。

体育館内には、たくさんのゾンビがいた。


つまり隊舎には、すでに傷を負っていた避難民をそれぞれの部屋に入れていて、無傷の避難民はまとめて体育館へと避難させていたのではないだろうか。


そして、体育館内で誰かが死んだ。

持病や、唐突に死ぬクモ膜下出血などなんでもいいが、それが夜中にでも発症して死んだのだ。

暗闇で静かに死にゾンビ化し、隣に眠る同じ避難民に襲いかかりそれがまたゾンビ化。


避難民達はすぐにパニックになっただろう。

しかし視界が悪く密集している中、ゾンビは一気にその数を増やす。


体育館内にいただろう自衛官も、その場で銃を撃つわけにはいかない。

誰が生きている避難民で、誰がゾンビなのかわからず、また撃ち損なえば生存者に当たるかもしれない。


そのまま体育館の外へと逃げ出したたくさんの生存者と、ゾンビ。

駐屯地内は気付けば誰が味方で誰が敵か、わけのわからぬ状態へと陥っただろう。

落ちていた空薬莢から、銃を使用したのは間違いないだろうが、それがまた新たなゾンビを生み出すきっかけにもなっていたかもしれない。


そうなれば、あとはもうあの駐屯地を一旦捨てるという判断になるのは当然の流れだと言える。

それで、自衛官達は安全な海へと移動したのだ。


全て憶測の話になるが、あながち間違っていないのではないだろうか。


明日織田さんには、この話をしたほうがいいかもしれない。

この避難所も、ユキとカエデのように、同じ部屋で過ごしている人達がいる。


ネットで見たのを思い出したとでも言って、それぞれ一人部屋にさせたほうがいいだろう。

カエデが襲われるなどということがあって、一人部屋にさせるなどなんともな話だ。

少なくとも、突然死するような可能性のある持病の人は一人部屋、か?

その辺りは皆で相談させよう。


問題が一つ解決したかと思えば、また新たに面倒なことを考えねばならないとは皮肉なものだと、俺はため息をついた。

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黒井さんは、腹黒い?

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