五話
市役所へいくにはやや遠回りとなるが、俺は郊外にあるホームセンターへと来ていた。
頑丈な武器、バールのようなものが欲しかったのもあるし、電気が使えない現状それに代わるものや、携帯コンロなども必要だと思ったのだ。
ホームセンターと言えばよくゾンビ映画なんかでは立て篭もりに使われていたりするので、もしかしたらと淡い期待を込めていたのだが、残念ながら外から見る限りではその期待に応えてはくれなそうだった。
店の壁はレイアウトのためかガラス張りが多く、その殆どが無残に破られていた。
店前の駐車場に溢れるゾンビ共を見て、俺はぐるりと回って店の裏手から侵入を試みる。
生憎と裏口が見当たらず、結局店の横を通ってほぼ正面から入る事になってしまった。
もっとも、広い駐車場のど真ん中を堂々歩いて無双するよりかはマシな入り方ではあるが。
電気の通っていない店内はやや暗かったが、僅かに陽の光が差して暗闇と言うほどでは無かった。
まあ暗闇でも気配は感じ取れるからゾンビ程度目を瞑っていても倒せるし、そもそもおそらく"暗視"のスキルも効いていそうで、意識すれば光源の少ない店内でもハッキリと見えた。
三階建ての一階フロア、広い店内にも呆れるほどのゾンビがいて、これを金属バットで全部倒すとなるとバットが先にオシャカになりそうであったが、幸運な事に店内に入って何かは分からないが頑丈そうな金属の棒が落ちているのを見つけたので事なきを得た。
素手で倒せないこともないのだが、いちいち触りたくないしなこいつら。
向こうの世界の武闘家はよくやってたと思う。
ゾンビを倒す音で、正面入り口近くの駐車場にいるゾンビが反応して店内に入り込んでくるのでその度に倒さなければならず面倒ではあったが、ある程度落ち着いたので店内を捜索する。
一階は携帯食料や飲料、キャンプ用品なんかが種類豊富に置いてあった。
陳列されていた水と携帯食料をアイテムボックスに放り込む。
俺のアイテムボックスは容量が1000kg程度しかなく、まだここには結構な量があるのに持てないのがもどかしい。
勇者パーティの他の三人ならごっそり持っていけただろうに。
キャンプ用品などの使いそうなものも見繕ってアイテムボックスに入れていき、次は二階だ。
非常階段の方は防火扉がしまっていたので、動いていないエスカレーターを昇る。
フロア案内地図によれば、二階には工具などが置いてあるはずだ。
防火扉が閉まっているということは、やはり誰かがここに立て籠もっていたりしたのだろうか?
しかし、一階を回っている時には二階に生存者の気配は感じられなかった。
二階のフロアは、一階と比べて随分とゾンビの数が少ない。
それを倒しながらまずは新品のバールを探すと、今使っている金属棒より長くて頑丈そうなものを見つけたので持ち変える。
数本予備もアイテムボックスに入れて置いた。
新しい武器も手に入れたことだし、まずは二階のゾンビを先に全部片付けるか、と思い移動し始めたその時だった。
三階にゾンビのものでは無い気配を感知。
だいぶ弱い反応だが、おそらくは生存者だ。
そしてその近くに一体のゾンビの気配も。
「ちっ」
進路に残るゾンビをおざなりに蹴散らして走り、上に続くエスカレーターを駆け上がる。
その先には、家具などであつらえたバリケード。
俺はそれを飛び越えて、三階フロアに足をついた。
このフロアは家具などの売り場のようだ。
三階フロアは他のフロアと違い、気配を感じた一体を除けばゾンビもおらずしんと静まり返っていた。
先程気配を感知した方向へと進めば、先には銀色のスイングドアがあった。
「バックヤードか……」
静かにそれを開けて中へ入ると、通路左手にはスタッフルームの文字の入ったドア、右手には更衣室のドアが二つ。
生存者の気配はスタッフルームから感じ取れ、ゾンビの気配は奥の更衣室から感じられる。
その更衣室の前にはバリケード代わりなのか、家具が積まれている。
生存者がゾンビに襲われているかと少し焦ったが、取り敢えずその危険は今の所ないようだ。
俺は生存者の気配を感じるスタッフルームのドアを、奥の部屋にいるゾンビに聞き取られない程度の音量で小さくノックし呼び掛ける。
「誰かいるか?」
返事はない。
そしてその気配が動いた様子もない。
「開けるぞ」
異世界で培ったステータスに物を言わせて力任せに開けようと思っていたが、予想に反して鍵はかかっておらず、キィ、と呆気なくドアは開いた。
中央には四人がけのオフィステーブルがあり、右手の壁沿いにはそこで事務作業でもするのであろう、デスクの上にパソコンなどの機械が置いてある。
そして部屋に入り左手に目をやると、ソファの上で毛布にくるまり眠る少女の姿があった。