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四話

 

「……よお、さっきぶりだな」


 部屋のドアを勢いよく開けて張り付いていたゾンビを吹き飛ばし、ゆっくりと起き上がるそれに向かって俺は軽口を叩いた。

 ぐらりと一歩目を踏み出したゾンビの口から声にならない吐息にも似たうめき声が発せられる。


 俺は手に持った金属バットに魔力を込めると、ぐっと柄を握りしめた。


 どうやら武器に魔力を通すことも、向こうと同じく出来るようだな。


 俺の異世界でのクラス、異世界転移者のユニーククラスであるサムライは、剣技を使用する近接物理攻撃に特化したクラスだ。

 内包する魔力は少なく、魔力を空間に放つことができない、即ち魔法を使うことが出来ないが、代わりに魔力を非常に効率よく身体能力の強化に使うことが出来る。

 またその魔力での強化は手を触れてさえいればその物に対しても行使出来、その効率の良さは身体強化と同様だ。


 両手を突き出し迫るゾンビの頭に俺は魔力で強化した金属バットを振る。

 ぐしゃりと鈍く骨の砕ける音がして、脳漿が飛び散った。


「……」


 そのままどさりと倒れるゾンビを見やり、不可解な手応えに頭を悩ませる。


 本当は、"斬る"つもりだったのだが。


 軽い金属バットでここまで頭を潰せたのだから魔力を通せたのは間違いないはずなのだが、魔力の浸透と言えばいいのか、それが悪いのだろうか。

 見れば、表面には先程まではなかった新たな凹みもある。


「色々と試してみるしかないか」


 ただ単に、異世界とこちらの世界での物質は同じようなものでも、実は少しだけ性質が違うのかもしれない。


 取り敢えずは自分の身体が向こうと同じように動けば問題はあるまい。


 その確認の意味も込めて、俺はまずは一つのスキルの調整をする。


 "常在戦場"


 危機、危険、気配、敵意感知等が統合されたスキル。

 統合されたことにより単体のスキルより優れた所は、各々の感知程度や種別等も細かく調節出来る所だ。


 俺は魔王戦を前にこの調節を、かなり"鈍く"設定した。

 鈍く、と言うのは、この攻撃を食らったら結構なダメージを食らう、近くにかなり強い敵がいる、といったものでなければ反応しないと言うことだ。


 そうしておくことで、殆どダメージのないフェイントの類には全くかからないし、捨て置くような雑魚に気をとられることもない。


 目の前の魔王に集中して、多少のダメージはイーリスやロベリアの回復を信じて全力を出さねば倒せないと思っての事だった。

 その甲斐あって魔王と1対1で切り結ぶ事があった時は互角で足止めができたし、その選択は間違ってなかったと今でも確信できる。


 ともあれ、その設定のままだったから異世界からこっちに戻ってきた時には、外のゾンビに気付けなかった。

 もっとも、スキルで気づいていたとしても何かの間違いかと思っていたような気もするが。


 俺はそのスキルの反応を調整し直してみて、まずは自分の住んでいるマンションの捜索にあたった。


 魔力を拡散させての感知ではないから勇者リンドウのようにやたらと広い感知範囲ではないが、取り敢えずスキルの反応を戻したことで、ゾンビの弱小な気配も感じ取れるようになっている。


 俺はそのまま5階建てのマンションを一通り回ってみたが、他の部屋の中に気配を感じてもゾンビのもので、結局生きている者は一人としていなかった。


 しかし、取り敢えず"常在戦場"のスキルはちゃんと機能していることを確認出来た。


 +++++


 大通りを避け裏道を使いながら建物の陰に隠れるようにし、なるべくゾンビと遭遇しないよう市役所へと向かう。


 別にこんなことをしなくとも、大量のゾンビを倒しながら大通りを移動する事は可能なのだが、一つ気になることがあったのだ。


 それは、そうして多数のゾンビ相手に苦もなく戦う俺をもし生存者が見たらどう思うのか、だ。


 おそらくだが、今この世界、少なくとも日本は滅びかけているように見える。


 それがこうして移動してみて思った率直な感想だった。


 生きている者を全く見かけない。

 そして街行く亡者の群れは、転移前に知る人通りよりも多いのだ。


 道路にはパトカーが放置されているし、警官制服姿のゾンビもいる。


 政府は機能しているのだろうか?

 正直、頭を潰すと言う基本的な対処法さえ分かっていれば銃器を持つ自衛隊がゾンビ程度に後れをとるとも思えないから、お偉いさん方がどこかに自衛隊とともに避難していて生き残っていれば少しは希望があるのかもしれない。


 ともあれその場合、すぐに以前のようにとはいかないだろうが、徐々に国としての機能を取り戻す可能性もある。

 ゾンビと俺だけの世界なんてのはごめんだし、もちろん俺もそれを望んではいるが。


 しかしそうなると、今度は今の俺の力を知られた場合に非常に面倒な事になるだろう事は明らかだった。

 故に今こうして気を配りながら移動しているのだ。


 数メートル先、ゆらゆらと揺れる学生服を着たゾンビと目が合う。


 俺はすでに歪に曲がりボコボコになってしまっている金属バットを軽く振り抜いてゾンビの首から上に赤い花を咲かせた。


「そろそろこいつも使い物にならんな」


 魔力を通しているとは言え、やはりそもそも魔力の通りが悪いのか、元々大して頑丈ではないのも手伝って劣化が激しい。


 市役所への道中にホームセンターがあったはずだ。

 そこに一度寄ってバールか何か、もっと頑丈なものを持って行くとしよう。


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