四十四話
ガシャガシャと外のゾンビがシャッターを叩く音が耳に障る。
その音を背後に荷台に乗る面々は息をハアハアと荒げ、フラッシュライトで念入りに辺りを照らしては、まだ動くゾンビがいないか確認する。
荷台の中央に居れば、奴らの牙が届くことはないが、手が絶対に届かないということはない。
そして奴らを倒す際には端に寄らなければならないから、その際は掴まれるリスクも高まる。
フォローはしたが、何もなくてよかった。
気配感知に、建物内のゾンビの反応はもうない。
あとはバックヤードを通った店舗内にどれほどいるかだが、これはここからではさすがに範囲外でわからない。
「大丈夫そうだな……降りるぞ。」
織田さんの指示で車を降りる。
念のため奥の方もしっかりと調べ、搬入口内は完全にクリアなことを確認する。
シャッターが開いていたということは、俺たち以外の誰かがここにきたのは間違いないだろう。
そして開いていた高さからして車で出入りしたと考えるのが妥当だろう。
今ここに見知らぬ車の存在はないが。
作業の邪魔にならぬよう、前回同様まずはゾンビ共の死体を端の方へと寄せていく。
特に今は店舗内がどうなっているかわからない状態だ。
急に撤退を迫られた場合死体に躓いて、などなってはシャレにならない。
これをしておけば、死体だと思っていたものが実は生きてましたという下らない事態も回避出来るだろうから、その辺織田さんはやはり抜かりないなと思う。
その作業中、すでに元々あった死体だろうか、その脳天に銃痕を発見した。
「これは……織田さん。」
緊張が走る。
俺達は今ゾンビ共を倒す時、銃を使う事態にはならなかった。
前回ここにきた時もシャッターを閉めるときに中に侵入したゾンビは斧で倒した。
また死体もその時に寄せていたから、つまりはこの銃痕のある死体は、ほぼ間違いなく俺達以外の誰かが銃で殺したということだ。
ともすれば、その銃を持った何者かが、まだ建物内にいる可能性もゼロではない。
織田さんは、すぐに通路側を見張っていた二人に知らせた。
その作業はつつがなく終わり、次は店舗内の探索だ。
隊列を組んでバックヤードへと侵入する。
万が一、人相手の戦闘になったらということで、俺は隊列のやや後方へとまわされた。
それを巧く拒否することもできず提案を飲んだが、しかしこの距離ならば気配感知の範囲も先頭よりも先に十分届いているから、ゾンビ相手ならフォローも間に合うだろう。
もし本当に銃を持った何者かがまだ中にいて、いきなり撃たれるなどということがあればその限りではないが、状況からしておそらくはすでにそいつらは出て行った後である可能性の方が高いだろう。
織田さんもその判断で、物資調達の続行を決めたに違いない。
そもそもそいつらがここにまだ居たとしても、銃撃戦になると決まっているわけでもないしな。
バックヤード両サイドの部屋には何の気配も感じられない。
勿論織田さん達はそれぞれしっかりと部屋の中を確認していく。
皆スイングドアの先に警戒を向けるが、少なくとも側には人の反応もゾンビの反応もない。
シャッターを叩く音でこの通路にゾンビが集まってきていないのだから、そうだと思ってはいたが。
だが店舗内は広い、正面入り口側に入り込んでいればゾンビも音に反応しないだろう。
室内はかなり暗いし、最大限フォローしていかなければ。
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俺達は一度店舗内をぐるりと回ってから運搬作業を開始した。
結局、店舗内にゾンビの姿は確認出来ず、また銃を持っていると思われた生存者の姿も確認出来なかった。
織田さんは商品が相当数減っていると言っていた。
それは前に一度来たきりの俺ですら気付くほどの減少量で、もはやスカスカと言っていいくらいのものだった。
倉庫にあった在庫も合わせて、車へと運んでいく。
シャッターが開いていたことによるアクシデントで、その作業は前回よりも長く時間がかかった。
「しばらくは使えそうだと思ったんだけど、これだと新しい補給場所を探した方が良さそうだね。」
「……そうだな。」
まだ使える物資は多少残っていたが、おそらく運ばれている商品の量からして集団であろう、銃で武装した人達がここに来たということがわかっている現状、その選択は仕方のないことのように思う。
すでにこんな世の中になってしまっているのだ、彼らが危険な者達である可能性も否定はできない。
織田さんの立場からすれば、自分がそれで死んでしまえば、それはつまり避難民達の命をも同時に奪うことになってしまう。
下手をすれば人同士の殺し合いをする羽目になるかもしれない、そんなリスクを背負うのは得策ではないという想いが窺えた。
「早め早めに補給に出ていてよかったよ。これでまだしばらくは、持つ。その間に次の候補地を検討しよう。」
織田さんはそう言って、悲しそうに笑った。




