三話
カーテンの隙間から外を覗く。
道路に不規則に止まる車やバイクが見え、中には歩道に突っ込んでいるものもある。
その下敷きになってなお、蠢き続けている人影も。
窓越しに見える通りは、やはりゾンビで溢れていた。
俺はモバイルバッテリーに繋げていたスマホの電源をつけてみる。
十分とは言えないが、なんとか充電はできたようで、カーテンを閉め切った部屋にぼうっとスマホの画面の明かりが灯った。
電話、メール、チャットツールの通知が山ほど来ているが、その確認は一旦後回しにして、まずは電話が繋がるかを確認する。
スマホの表記は圏外となっているが淡い期待を込めて110番へとかけるがやはり繋がらなかった。
次はメールやチャットツールの確認。
俺が週末に異世界転移して明けての月曜からは上司や同僚からの連絡がたびたび来ていた、もちろん着信も。
教育係を担当した後輩からは、「先輩サボりですか?それよりこの動画ヤバくないですか?」なんてアドレス付きの呑気なメールが来ている。
その連絡の内容が変わり始めたのは転移してから五日後の水曜。
無断欠勤からいつまでも連絡がつかないから内容が変わったのではない。
その内容からわかるのは、きっとこの世界がその日を境に変わり始めたということだ。
「やっぱりあの動画は本物だったんですよ!先輩は無事ですか!?」という後輩のメールをはじめとして、何処何処で暴漢だ、テロだ、外に出るときは気をつけろ、そんな内容の連絡が色んな人から来ている。
俺は全てに目を通したが、結局この異変の原因はなんなのかを知ることはできなかった。
分かったのは、おそらくそれから数日もしないうちに、日本での通信機能が使えなくなっているという事だ。
最後の連絡は、後輩からの避難所へ行ってみようと思います、という内容のメールだった。
「市役所か……」
そのメールに記されていた避難所の場所は、ここからふたつ隣駅にある。
後輩は確か最寄りがその駅のはずで、メールの内容から察するに、自宅に立てこもっていたが食料に困り選択を迫られたのだろう。
「まずはそこから行ってみるか」
異世界から戻ってみればこんな事になっていて、俺はこれからどうすればいいのか分からなくなっていた。
生き残りがいるかもしれない。
俺はリュックに荷物を詰め込み、部屋にある使いそうなものもアイテムボックスに入れた。
ガンガンガン、と、部屋のドアを叩く音が聞こえる。
さっきからずっと鳴っている、ゾンビがドアを叩く音だ。
「あーわかった、今出るよ」
玄関で靴を履くと、立てかけておいた金属バットを手に取る。
「だがこんな世界になったと知ったからには、もう遠慮はしないからな」
俺は言葉を知らぬ亡者のノックに、そう返事をして玄関の扉を開けた。