百八十話
10/29、2回目の更新です。
ぴちゃん、と天井から水滴が落ちる音が聞こえたのとほぼ同時。
暗闇の中で蠢くゾンビの頭に、魔力を込めたバールの一撃を見舞う。
まるで豆腐でも切るかのような感触と共に、切先はするりとゾンビの頭蓋を通過して、その身体はどさりと地面へ倒れ伏した。
ここが細長い空間だからか、遠い闇の奥で小さく聞こえるゾンビ共の呻き声も同様に、それらの音は反響してひどく不快だ。
"暗視スキル"によって光一つない場所でも何不自由なく見ることのできる俺は、先に続く線路を眺めながら、一つ息を吐く。
ここは、国会議事堂と皇居を繋ぐ、地下通路。
本来であれば秘匿とされている場所だが、今回個人的な理由により、自衛隊から話を聞き訪れている。
以前、那須川さんから、パンデミックが始まりすぐに政府の要人たちがいなくなった、という話を聞いた。
本当に何処かにとんずらしただけという可能性もあるが、この話にはどうにもきな臭さを感じて、俺は少し調べてみようと思ったのだった。
ひいては、それがこのゾンビパンデミックという訳のわからぬものの原因を見つける鍵になるかもしれない、とも考えている。
自衛隊としても、政府の安否等が気になるから、こうして国の秘密を話してくれたのだろう。
俺にとっては、政府自体はどうでもいい、いやむしろなくなっていてくれた方がいいまであるんだがな。
今回のことは那須川さんに話を聞いて以来ずっと気になっていたことではあるのだが、なかなか調査に踏み出す暇がなかった。
しかしすでに今は、日本各地の避難民のいる駐屯地の防備はかなり強化したし、またほぼ放置されていた原子力発電所の安全確保も済ませた。
取り敢えずこのゾンビパンデミックからの脅威はある程度なくなった状況と言える。
まあ一箇所、先方が必要ないとのことで、訪れていない駐屯地もある訳だが。
ともあれそういう訳で、こうして各地の要人避難場所候補を巡っているという訳だ。
「しかし議事堂の地下がこんなふうになっていたとはな」
そう一人ごちて、またすれ違いざまゾンビの頭を切り落とす。
織田さんたちとデパートで再合流して、自衛隊を探しにいくついでに議事堂に寄った時には思いもよらなかったことだ。
この場所にゾンビがいくつかいるということは、少なくともパンデミック開始の時期にはここを使ったということ。
もしくは、都内の一般人が地下に逃げ込みここに辿り着き、命を落としたか。
蜘蛛の巣のように張り巡らされた、光の差さない地下通路を走りながら、ふと異世界でのことが頭に浮かぶ。
……異世界でも、こんな感じのダンジョンを踏破したものだ。
もっとも、そこにいるのはゾンビなどとは比にもならないような強さのモンスターばかりだったがな。
今の俺にとっては、せいぜい遊園地のアトラクション程度にしか感じない都会の迷宮を進みながら、やがて目的地へと辿り着く。
議事堂と皇居を結ぶ地点にある、要人用の秘密裏の核シェルター。
パンデミックが起きてから、自衛隊は可能な範囲の要人避難場所は見て回っており、そこには何もなかったことを確認している。
しかし、地上部分はゾンビ共がひしめき自衛隊もおいそれとは近寄れない、このような場所にならば何かあるのではないかと俺は考えたのだった。
先のまえがきにも書きましたが、漫画版3巻が発売されておりますー!
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