百七十二話
2/5 1回目の更新です。
「お待ちしておりました」
軍用機から降りるなり、勲章を付けた自衛官がそう言って俺を迎えた。
周囲には敬礼の姿勢をとった複数の自衛官がおり、少々物々しい雰囲気が感じられる。
その敬礼は間違いなく俺に向けられたものであり、また迷彩柄の服装に囲まれる中、自分一人が普段着を着ていることから、余計に気恥ずかしい気持ちになる。
「あなたが柳木さん、ですね」
「あぁ」
握手を求められそれに応えると、その手から僅かな震えが感じられた。
「……そんなに畏まらなくていい。むしろ俺の方が無礼が染み付いてしまっていてな、すまん」
「いえ、そんな」
ぽりぽりと頭をかいてそう言えば、彼は少しだけ目を伏せる。
周囲の自衛官からも緊張感のある視線が向けられ居心地の悪さを感じて、俺は隣に立つ青年に声をかけた。
「……那須川さん。取り敢えず、本部に案内して貰うことにしよう。これからの作戦を話し合いたい」
「そうですね……お願いできますか?」
那須川さんがそう言えば、先程の自衛官はこくりと頷いて他の自衛官に目配せをすると、後ろを振り向く。
自衛官たちに囲まれ、"元々いた駐屯地とは違う"景色を眺めながら、俺たちは移動を開始した。
結局、俺は他の駐屯地の手助けをすることに決めた。
その理由としてはやはり、純粋に俺のいた駐屯地にいる自衛隊員に対する尊敬の念が大きい。
その仲間である他の自衛隊が全滅などしては、やはりどうにも寝覚めが悪いだろうと考えてのことだ。
勿論、あの駐屯地ではそれ相応の準備はしてきた。
区画内が安全になったことによって、基本的には壁の外に注視すればよいだけとなり、防衛線も以前より広くなっている。
たとえゾンビ共に人間を感知する能力があったとして、群れで押し寄せてきたとしても、頑強な壁を境に戦えば自衛隊員たちだけで十分に守り切れるだろう。
食料については言わずもがな、ありったけの物資を区画の外から運んでおいたから、足りなくなるということもない。
また駐屯地の今後の計画についても、向こうにいる萩さんや織田さんが本部とうまく話し合ってやってくれるはずだ。
カエデに芽生えた魔力については、身体に馴染ませることだけを練習しろと言ってあるし、絶対に無理もするなと釘を刺してある。
思いの外早く馴染んで何かしたくなったら、じいさんにでも頼んで身体操作でも教えて貰えとも言ってあるしな。
もっとも、それだけ入念な準備をしてなお、あまり長い間留守にするつもりもなく、定期的に戻ろうかとは思っているが。
「……こちらになります」
「あぁ」
案内のまま建物内に入り、会議室に通される。
そこで待っていた面々は、ここまで共に移動してきた自衛官たち同様、俺という未知の力を持つ存在に対し警戒の視線を投げかけてきた。
そしてその誰もが、これもまた同様に、酷く疲れ果てたような顔つきをしていた。
「……話には聞いていると思うが。柳木薊だ、よろしく頼む」
俺はそんな彼らを前にして、内心、好感と、また僅かながらの罪悪感を抱きながら、そう言って一歩前に踏み出した。
+++++
数台の自動車を積んだその頂点で腰を下ろして、眼下に群がる生ける屍に視線を向ける。
グールはまだ、現れてはいないか。
一度その場から飛び降りて、得物を振るってはすぐに次の作業に取り掛かる。
「……」
この地域は萩さんの報告にあった、先日グールの現れた場所だ。
俺は各地の駐屯地を回ろうと思っているが、まずは優先的にグールがすでに現れたことのある場所の防備を固めようと考えた。
元いた場所のように海上コンテナを使っての壁作りは、その輸送に時間がかかってしまうので、こうして付近に放置されてある自動車を積み重ねてそれを壁の代わりにする算段だ。
コンテナと比べれば心許ないのだが、それでもある程度の強度は期待出来るし、地続きに作ることができれば役目は十分に果たせるはずだ。
元々自衛隊が壁代わりに設置していたものもあるから、それに補強をする形で作業をすればそれほど時間もかかるまい。
完成したらそれを足掛かりに、各々その地域の自衛隊がさらに防備を強化すればいいだろう。
「……車が足りなくなってきた。少し離れた場所から取ってくるから、何かあったら遠慮なく言ってくれ」
『了解しました!お気をつけて!』
とはいえ、そう都合よく付近に大量の自動車が放置されているわけもなく。
腰についた無線機で、後方で警戒を続ける自衛隊に連絡をすると、そう振り絞ったような声色の返事が聞こえてきた。
それに一度苦笑してから、俺は目につくゾンビ共を蹴散らしながらその場を離れた。
あけましておめでとうございます!(遅
今年もよろしくお願いいたします!
更新遅くなり申し訳ございませんorz




