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異世界還りのおっさんは終末世界で無双する【漫画版5巻6/25発売!!】  作者: 羽々音色
四章

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百三十話


織田さんから聞いた話では、日本には治安出動、というものがあるらしい。

それは、日本の治安を維持するのに警察だけの手には負えない場合に発令されるもので、その際は警察と自衛隊が協力して事態の鎮圧を図るものらしかった。


過去この日本でも様々な規模の大きい騒動が起こったことはあったが、この治安出動が発令された例は、パンデミック前には一度たりともなかったそうだ。


しかし今回、それは初めて発令された。

全国各地からの知事の要請があったのでは、国会もそうせざるを得なかったのだろう。

いやそもそも、こんな異常事態にあっては、自衛隊が出動するのは当然のことだとも思うが。


そう、パンデミックの始まりの日、俺は自衛隊が出動したことを知っている。

だがだからこそ、浮かぶ疑問があった。


生きている人間が殆どいないような今の状況になってしまってはどうしようもないかもしれないが、初期の段階であれば、自衛隊はパンデミックの拡大をどうにか出来たのではないだろうか。

ゾンビなど、銃で頭を撃つだけで殺せるのだ。


「……あの日、果たしてどこで最初にパンデミックが起きたのかは、分かりませんが」


そんな俺の疑問に答えるように、那須川さんはゆっくりと口を開いた。


当初、各地で起こったパニックは、一様に暴動やテロの類として扱われていて、警察が出動する事態となっていた。

あの夜、そう時間も経たないうちに、治安出動は発令された。


これは織田さんからも聞いていた話だったが、しかしあの周辺には自衛隊は来なかったという話も聞いていた。


「とにかく、人手が足りませんでした。何処かで事件が起きたと向かえば、またすぐに別の場所から要請が来るのです」


単純にそれは人手の問題だったのだろう。

あの警察署から駐屯地まではかなり離れている。

自衛隊は取り敢えずは近くの場所、かつ事件の規模の大きな場所へと向かっていたのだそうだ。


そして、彼等自衛隊が現地に着いてから抱く違和感。

明らかに一般人であろう人達が起こしているそれらは、少なくともテロの類ではないという判断が下された。


人が人を襲い、噛み付き、殺し、それらから逃げ惑う人々。

しかし暴動としてそれらに対応する彼らは、発煙弾、催涙剤、放水銃などを使用し事態の鎮圧を図った。


そう、彼らには、発砲許可が降りてはいなかったのだ。


「自衛隊は、基本的に個人の判断で銃を撃つことが許されてはいないんです。あの夜、沢山の自衛官が亡くなりました」


状態異常の効かないアンデッド相手に非致死性武器を使用していたのでは、当然の結果と言えるだろう。


「那須川さんは……よく生きていたな」


「えぇ。運が良かった、と言えばいいのか……自分の上官が、発砲許可と撤退命令を出したんです。本当に、勝手に、責任は俺が取るとか言って。当時は、何をバカなと思いましたよ」


だがそのおかげで、彼を含む部隊は生き延びた。


その上官は、きっと本来であればクビでは済まないだろう。

しかしそんな話を聞いて、俺は織田さんのことが頭に浮かんだ。


彼もあの夜自分だけの判断で、警察署を封鎖した。

勿論彼等のその行いを非難する人もいるかもしれない。

だがその判断は間違いなく正しかっただろうと俺は思う。


「……ともかく、そうやって基地へと戻った自分達は、一度態勢を立て直し再び出動することになりました。この時もまだ、実際には国からの発砲許可は降りてはいなかったんです」


「……なんだと?」


「笑っちゃいますよね。感染者は正気を失った国民であるという話だったんです。腹から内臓をぶら下げて動いているようなやつらを、そんな風に扱うなんて」


馬鹿げてる。

どれだけ平和ボケをかませばいいのか。

しかしそんなことを言うお偉いさんの姿もまた、いとも容易く想像出来た。


「そんな状態でインフラ施設の防衛に出動した部隊もいました。勿論そんな状況で守り切れるわけもありません……感染者を殺してもよいとなったのは、あの夜から丸一日経ってからでした」


那須川さんの話を聞いて、俺は大きくため息をついた。


このような状況になっているのは、そういう理由があったのか。

自衛隊が負けるはずがないと思っていたが、むしろ自ら食われに行っていたとはな。


そして各地の駐屯地が落ちている原因も同時に理解した。


最初に見た駐屯地のように、内部からのパンデミックが起こったのならばある程度仕方のない部分もあるとは思うが、中が無事な状態で自衛隊が駐屯地を捨てるという結論に至るというのは、少々違和感が残っていた。

だがそもそもが、残った自衛隊員の数がかなり少なくなっていたということなのだろう。


守り切れるほどの人数がいない。

だから無事な駐屯地も捨てて、何処かへと合流するという判断に至った。


那須川さんが合流を目指している理由もそこにあるのだろう。

自衛隊本来の力があれば、このパンデミックを乗り越えられると信じているのだ。


「色々と合点がいった。そういうことだったんだな……で、その呑気な決め事をしたくそったれな連中はどこへ行ったんだ?」


「自衛隊の上層部と共に、安全圏へと避難しているはず、です」


「……はず、とは?」


続けての俺の質問に、歯切れの悪い返答をした那須川さんが大きく息を吸った。

口元を抑え、少し考え込むようにすると、こちらを向く。


「あの夜のうちに、国の上層部は自衛隊と共に安全圏へと皆避難しているはずなんです。実際に、各指令もそこから出されていました……ですが、パンデミックが始まって一週間もしないうちに、完全に国からの連絡が途絶えたのです」


自分達だけトンズラするのは分かりきっていたことだし、ある程度必要なことでもあるから仕方ないとして。

しかしそうなると避難先でパンデミックでも起こったか?


いや、少なくとも一週間程は連絡が取れていたのだから、その線は薄いだろう。

安全で要人しかいない、そんな場所で時間が経ってからそれが起こるというのは少々考え難い。

たとえ誰かが突然死んでゾンビ化したところで、以前見た駐屯地のように、多くの人が密集して生活しているわけではないだろうからな。


「何日も連絡が取れずさすがにおかしいと判断し様子を見に行ったようですが、そこはもぬけの殻だったと報告が来ています」


「国の極秘の場所など、他にもあるだろう?そこは洗ったのか?」


「えぇ。空から行ける場所は全て調べたようです。あとはシェルターの類ですが、こちらの方は地上部の感染者の数が多く手が出せなかったようです。何にせよ、そこからの連絡も来ていませんしね」


「……」


思わぬところで、きな臭い話を聞くこととなった。


普通に考えれば、何かしらの理由で拠点を移したとするのが自然だろう。

だがそうだとして、何の連絡もせずいなくなると言うことはあり得るのだろうか。

考えたところで答えの出ないものだが、少々気にかかる。


「ともあれ、そういう理由があって、自分達自衛隊は現在、各駐屯地の最高責任者の判断で動いている状況なのです。自分達の駐屯地では、それで付近の救助活動を始めました」


「……なるほど、な」


それで、ナノハを見つけるに至ったというわけか。


自衛隊がいるのにゾンビが蔓延した理由。

自衛隊が駐屯地を守りきれなかった理由。

そして那須川さんがこうして合流を望む理由。


それら全ての謎は解けたが、また新たな謎が湧いて出てきたことに、小さくため息をついた。





ここでひとつご報告をば!


なんとなんと、コミカライズが決定いたしました!

活動報告の方でもご報告させていただいております!


これからも、応援よろしくお願いいたします!orz

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黒井さんは、腹黒い?

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