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十話 不二楓3

 

「はぁ……はぁ……」


 バリケードを組み終えた父は、今度は閉めてきた非常階段の防火扉の方にさらに家具を移動して入ってこれないよう補強をすると、息を荒げてその場にヘタリ込みました。


 私と母も微力ながらにその一連の作業に加わっていましたが、殆どは父が一人でやってしまいました。

 重い家具も信じられないほどの力で持ち上げるさまをみて、これ程までに父の事を頼もしく思ったことはありませんでした。


「はは、火事場の馬鹿力でも出たか……」


 父はそう言って疲れた笑いを浮かべると、立ち上がりました。

 小さく、階下で防火扉を叩く音が聞こえて来ます。

 エスカレーターの方へは誰も来ていません。


「やはり普通じゃない……普通なら、エスカレーターの方に回り込んで来るだろう」


 そう言って父はバリケードの様子を今一度確認すると、こっちだ、と私たちをバックヤードの方に案内しました。


 父はポケットからキーケースを取り出すと、スタッフルームと書かれたドアに鍵を差し込み中に入り部屋の電気をつけます。

 荷物を下ろすと棚に置いてあった救急箱を取り出して早速母の容体を見ていました。


 先ほどまでは暗くてよく見えませんでしたが、コートを脱いだ母の腕の状態は酷く、見てわかるほどはっきりと肉が抉られていました。


「ひどい……」


 無意識に私は言葉を発していました。

 その言葉に母は額に脂汗を浮かべながら、大丈夫よ、と苦笑を浮かべました。


 父は母の治療をしながらスマホで警察や消防に電話をしましたが、どうやら電話回線がパンクしているのか、繋がらないようでした。

 途中で母がその電話をかける作業を空いた手で受け継ぎますが、母も、頭を振るだけでした。


「くそっ、繋がらないか……楓、そこのテレビをつけてくれ。音量を小さくしてね」


 父の言葉に従ってテレビをつけると、丁度、パニックの現場へと中継に出ている映像が映りました。


 騒動の中心地からは離れているとリポーターは言っていましたが、ここまで逃げ込んできた私にはそれが何の意味もない言葉だとしか思えません。

 案の定と言えばいいのか、リポーターはまるで特殊メイクを施したかのような、血塗れの姿をした目の虚ろな集団に襲われ、カメラも地面に落ちたようでした。


 すぐに映像はスタジオに切り替わり、呆気にとられていたキャスターが取り繕うように、只今映像に乱れが、などと無理な謝罪をします。


 私も、父も、母も、動きを止めて、それを食い入るように見つめています。


 そして今度はそのスタジオ内に、ふらりふらりと警備員の格好をした男が乱入してきます。

 首の部分が赤く染まっており、そこから服にシミができていました。

 慌ててスタッフが止めに入ると、警備員はそのスタッフの首筋に噛みつきました。


 ぴゅう、と赤い血が出て倒れるスタッフにそのまま覆い被さり、歯を今度は顔面にめり込ませる警備員。

 その様子を見てスタジオ内は、カメラの映像はそのままに逃げ惑う人々でパニックになりました。

 やがて先程倒れたはずのスタッフがゆっくりと起き上がった所で、カメラが倒れたのか、コードが抜けたのか、映像が映らなくなりました。


 まるで、映画かなにかでも見ているかのような光景でした。


 嫌な予感がざわざわとして、私はゆっくりと母の方を向きました。

 母は、テレビの方をじっと、どこか冷めた目で見ていました。


「ねえ、あなた」


「あ、あぁ、すまない。取り敢えずこれで終わりだ。でもすぐに病院に行かないと」


 母の呼びかけに、手を止めていたことを言われたと思ったのか、父は包帯を巻き終えると、包帯止めでそれを止めました。


「ありがとう。でも、違うの」


「違うって……巻き方変だったか?すまん……」


 母は首を振り、応急治療の終えた腕を見て、その腕を軽くさすります。

 一度目を瞑り、私の方を見て、父の方を見て。

 そして、震えた声で言いました。


「そうじゃないわ、あなた。ねぇ、私、これからどうなってしまうのかしら」


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黒井さんは、腹黒い?

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