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プロローグ


「本当に、行ってしまうのですか?」


 目の前には、淡く輝く光の門があった。


「アザミさん、せめて、一度王国に帰ってからでも……」


 腰まで届く長い金色の髪、その色と同じ双眸をわずかに揺らしながら、ハーフエルフの聖女イーリスは胸に手を当てて震えた声で俺に言った。


 ここは聖都アンセムにあるトラルの丘。


 側には乱雑に切り揃えた赤い髪の少女、勇者リンドウがもの言いたげに拳を握り佇み、銀色に輝く長い髪を指でくるくると玩びながらちらりちらりとこちらを見るダークエルフの大賢者ロベリアがいる。


 俺、柳木薊(ヤナギアザミ)がこの地に異世界召喚されてから三年、俺たち勇者パーティー一行は長い旅の末魔王を倒した。

 魔王をこの世界から消滅させれば、異世界への帰還の門を再び開くことが出来る。

 どんな仕組みかは知らないが、その条件を満たし俺は今元いた世界に帰ろうとしていた。


「王族やら貴族やらの相手が面倒臭くてな、このまま帰らせて貰うさ」


「そんな……」


 イーリスの言葉にぶっきらぼうに答える。


「俺はもともとこの世界の住人じゃないしな。向こうも褒賞の相手が一人減って嬉しいだろうよ」


 それに……この世界に来てから、俺は人の悪意に触れすぎた。

 魔王討伐という共通の想いがあるにも関わらず、旅の道中同じ人種族の妨害やら何やら、そりゃ七面倒くさい出来事が山ほどあった。


「なあ、イーリス、それにリンドウもロベリアも。予め言っておくが、俺はお前らの事を気に入っている。だけどな、俺はもうこの世界にはうんざりなんだよ」


「アザミさん……」


 リンドウが一歩前に踏み出し、悲しげな瞳を俺に向けてくる。


「魔王は確かに倒した。王国に帰ったら盛大な宴でも開かれるだろうな。しばらくは平和が訪れる。だがそこでめでたしめでたしとは行かないと俺は思うんだよ。その後何が起きると思う?」


「荒れた各地の復興活動なんかを……」


「……戦争ね」


 イーリスの呑気な答えを遮って、ロベリアは前に垂れて来た長い銀色の髪を一度かき上げ言った。


「魔王は討たれた。今度は、人種族同士での争いが始まるでしょうね」


 その返答に俺は不敵な笑みを浮かべる。


「大賢者のロベリア様がそう思うなら、俺の独りよがりな想像でもないって事なんだろうな」


「何よ、様って」


 ふん、と鼻を鳴らし腕を組むロベリア。


「戦争が始まれば、俺たちの力はさぞ頼りにされるだろう。魔を討つために振るった力を今度は同族を屠るために使わなければならない」


「ボクはそんな事に手を貸したりはしない!」


「わたくしもです!」


「リンドウ。イーリス。お前がそう思っても事はそんなに簡単じゃあない。じゃあそれを拒否すればどうなるか」


「勇者が王国に戦争のための力を貸さない。けれど王国にとってみれば、帝国や他の国に力を貸さない保証は無いわよね」


 二人の反論にロベリアは冷静に答える。


「そうだ。王国にとって、また他の国にとっても俺たちは色んな意味で放っては置けない存在になる」


「……」


「まあ、これが単なる悪い妄想で、現実は単なるハッピーエンドの可能性も無くはないさ。だが、みんなくれぐれも気をつけてくれ。ロベリア、二人を頼むな」


 ついには押し黙る二人を見て苦笑しながら、三人の中では一番頭の回るロベリアに後を頼む。


「なんだかそれだとわたしは心配されてないみたいなんですけど?」


「そんなことないさ。俺にとっちゃみんなガキみたいなもんだ」


 軽口を叩いて異界の門を見る。


 こちらでは三年過ごしたが、時間の流れが違うため戻っても殆ど時間は経っていない、らしい。


「アザミさん……剣技では結局一度もあなたに勝てなかった。あなたがいなければ魔王は絶対に倒せなかったと思います」


「剣しか取り柄のないクラスの俺が剣技で負けてたら立つ瀬がないだろう、勘弁してくれ。魔王も、意外となんとかなったかもしれないぞ」


「そんな事……それに、色々ボクの甘い所をフォローしてくれたのはいつもあなただった。本当にありがとうございます」


「甘ちゃんなところが絶対に悪いってことも無いさ、だが、命のかかるところでだけは油断するな」


「はい!」


 リンドウ。

 勇者の血を引き、王国で英才教育を受けた人間族の勇者。


「本当にこれでお別れなのですね」


「生きてりゃまたいつか会えるかもしれないし、お互い死んだらあの世で会えるかもな」


「もう……でも、そうですね、また会えたらわたくしも嬉しいです。本当はこの地に残って欲しい、ですけど……」


「やめろよ、行きづらくなるだろう。イーリスはこんなおっさんにも相変わらず優しいことだな」


「そんな、おっさんなんて!」


「優しいのはいいことだ、そのままでいてくれ。だが悪い男には引っかかるなよ」


「引っかかりません!だって……うぅ」


 イーリス。

 生まれながらに強大な癒しの力をその身に秘め、王国の最大宗派の聖女を務めるハーフエルフの聖女。


「アンタなら大丈夫だろうけど、あっちでも元気にやりなよ」


「ロベリアも元気でな。色々世話になった」


「お互い様よ。にしても、薄々気付いてはいたけど、やっぱり私までガキ扱いしてたのね。アンタの何倍年上だと思ってるのよ」


「それだけ大事に思ってるってこった」


「バッ……アンタねえ、そう思うなら……いや、まあいいわ」


 ロベリア。

 大森林の奥深くにひとりで居を構えて魔術の研究をしていたダークエルフの大賢者。


 みんな、大事な仲間だ。

 だが、そう思いながらもこのまま元の世界に帰るのは自分勝手が過ぎるだろうか?


「……リンドウ」


 その罪悪感に似た感情を押しつぶすかのように、俺は腰にぶら下げた刀をリンドウに投げ渡した。


「アザミさん、これは?」


「使う時が来ないとも限らないだろう。餞別がわりに受け取ってくれ。生憎と俺の帰る世界はそんなものを使うような事のない平和な世界なんでな」


「……ありがとうございます、大事にします」


 日本に持ち帰っても万が一何かの拍子に警察に見つかったら洒落にならないしな。


 気持ちをかみ殺すように刀を握るリンドウの隣には、期待の眼差しでこちらを見るイーリス。


「イーリスも何か欲しいってさ。ついでに私にも何かよこしなさいよ。あ、アンタが向こうの世界から持ってきたものがいいかな」


「何かって言われてもな……」


 イーリスの意を汲んだロベリアの言葉に、結局イーリスには安物の腕時計と、ロベリアにはネクタイとネクタイピンを渡した。


「こんなもんでいいのか?」


「はい!嬉しいです!一生大事にします!」


「ええ、十分だわ」


「それならいいんだが……さて、俺はそろそろ行くとするか」


 一歩、門へと足を踏み出す。

 ここを通ればこの世界、そしてこの三人ともお別れだ。


「アザミさん……」


「ふぅっ……ぐすっ……」


「また、会えたら会いましょう」


 三者三様の声に、俺は背を向けたまま手を軽くあげて応えた。


「みんな、達者でな」


 顔を見たら、名残惜しくなってしまいそうで。


 そのまま歩みを進めて、俺は淡い光に包まれるのだった。

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黒井さんは、腹黒い?

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