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ヒーローフェイク  作者: 坂持広戸
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企業訪問

「また、ダメだった。でも面接の約束すっぽかして病院送りになる奴なんて誰も採用しないか」


人質事件の後、病院に一週間の入院していた花上昇は自分の将来について悩んでいた。

退院してまた面接をしてもらえることになったが、結果は望むものではなかった。


「こんなケガじゃ家から遠い会社にも向かえないし、これからどうしよう」


怪我の詳細は腹部の筋肉の軽い損傷と手首の軽い脱臼。

ワンルームの部屋の小さなベットに寝転がり体を伸ばす。


「痛っそういえば、この腕はどこで怪我したんだろう。あ、あの時」


そうあの時。

男の関節を砕いたあの時、砕いた側も大きな衝撃が響いていた。

普段、企業の資料集めや面接の繰り返しで体をまったく動かしていなかった。

動きなれていない体は、軽い衝撃でも怪我をすることがある。


「あーあ。やっぱりついてない」


「ピンポーン」


資料の紙で埋もれた部屋にインターフォンの音が響いく。

所々痛む体を起こし、包帯で固定された腕を持ち上げて玄関に向かう。


「郵便でーす。サインか印鑑お願いしまーす」


配達員の前で片腕が使えないまま印鑑を探す。

当然ながら固定された腕は動かせないのであった。


「すみません。ハンコ押してもらっていいですか?」


思わぬ所でケガを不便に思ったのだった。

郵便物を受け取りベットに腰を落とす。

送り元を見てみると見たこともない企業からの手紙だった。


「こんな会社の面接受けたかな?」


封筒にはTEYコーポレーションと会社の名前のほかには送り先である花上昇という名前のほかには部屋の住所しか書かれていなかった。

心当たりのない手紙を開けるのを戸惑いながら手紙を見回す。


「てぃーいーわいコーポレーション? 聞いたこともない会社だけど」


真っ白な封筒を見つめるうちに迷いは好奇心に変わり始める。


「とりあえず開けてみよう。おかしな誘いなら無視すればいいしな」


開けてみると中には手紙が一通。

手紙の初めは突然の手紙への謝罪とケガを心配する内容だった。


『私はTEYコーポレーション社長の星野聖真ほしのせいまと申します。突然のお手紙申し訳ございません。ケガの状態はいかがでしょうか?』


話は進んで行くにつれて思わぬ方向に向かい始める。


『この間の昇様のご活躍は非常に感動いたしました。身を挺して民間人を守る行動は心を打たれるものでした。

つきまして昇様には是非わが社で働いてほしいと思っています』


思ってもいない誘いに思わず体が前のめりになる。


「は? はたらく?!」


『詳しい仕事の内容は私の会社にてご説明させてもらいます。昇様にも聞きたいことがあるでしょうし、是非一度わが社にいらして下さい』


圧倒されえる提案に思わず体の力が抜ける。


『住所も手紙の最後に記入するので確認のほどをお願いします。時間は問いません。いつでもお待ちしております』


確かに住所が書かれていることを確認すると、そっと手紙を視界から外す。


「めちゃくちゃ胡散臭いな。でも会社の名前くらい調べてみるか」


企業研究のページまみれのパソコンを起動し会社の名前を検索を開始。

しかし、どこのサイトを探しても名前が出てくることはなかった。


「さらに怪しいな。なにかの詐欺かなのか?」


興奮していた気持ちは徐々に落ち着きはじめ、断る気持ちが固まり始める。

しかし、部屋を見回してみると積み上げられた資料や不採用通知の手紙であふれていた。

残された時間で成功する可能性はこの部屋の住人がよく分かっていた。


「やっぱり、話を聞くだけでも行ってみよう。何かのチャンスかもしれないし」


興奮する気持ちを抑えケガの直りを待っていた。


数日後。

骨が完治し包帯の取れた腕にスーツの袖を通す。

襟を整えネクタイを固く締めると勢いよく玄関を飛び出した。

手紙にあった住所に近づくと町の海辺にある工場地帯に入っていった。


「手紙をくれた会社は工業会社なのか? もう近くまで来てるはずなんだけど」


工場で働く人に聞きながら道を進み大きなビルにたどり着く。

工場地帯に似つかわしくない近代的なビルは海に囲まれた陸の孤島にそびえ立っていた。


「大きな建物だな。よし、気合入れていくぞ」


開きっぱなしの門を抜け入り口らしき大きなドアに向かって歩く。

しかし、働く人は疎か訪問者も見当たらなかった。


「今日は休みか? それに呼ばれたのは俺一人なのかな」


普段は車などが止まっているのか大きなスペースが会社の前に広がっている。

開けた先に海が見えて、遠くで聞こえる波の音が心を落ち着かせる。

入り口の前に立つと海を見つめていた目線は上を向き体は先を見ようとそり返る。


「近くで見ると本当に大きいな。ここからじゃ屋上が見えない」


倒れそうになり足を一歩前に出す。

すると自動ドアが開くと上を向いていた体が前に戻る。

ビルの内装が視界に広がると緊張が一気に高まり体が固まってしまう。

カクカクとした動きで進んでいくと会社の中にまで人が確認できなかったのである。


「こんなに広いのに誰もいない。ドアは開いたし誰かはいるのか?」


周りを見渡すと受付も待合スペースもなく、ロビーと言える物なのかもわからなかった。

見えるものは大きな水槽に観葉植物、薄暗い空間は不気味にすら感じることができる。

ここで誰かが来るのを待つか、さらに奥に進むか悩みだす。

すると、


「お待ちしておりました。花上昇様」


突然まうしろから聞こえた女の声に女のような悲鳴で返す。


「うひぁ! な、なんだなんだ、いきなり!」


振り返ると未来人のような姿をした少女が姿を現せた。


「驚かせてしまって申し訳ありません。僕はここの案内役を任されております。花上昇ですね?」


小さくもハキハキした声は作られたようで生気を感じられなかった。


「は、はい、そうです。今日は休みなら出直しますけど」


「ご安心ください。いつも変わらず平常運転です。ご案内しますので、こちらへ」


不思議な少女に連れたらカクカクしながら暗い廊下の奥に進んだ。

社内。

長い廊下を進むとき、複雑な思いだった。

見知らねば所で見知らね少女について行っている。

けして、受け入れやすい状況とは言えなかった。


「本当について行って大丈夫なのか? それに知らない女の子と一緒って、気まずい」


慣れない環境を苦手としていた成人したばかりの男は、年下の人と話す経験は今までなかったはず。


「ケガの具合は大丈夫ですか?」


突然の少女からの質問にひどく驚いた。


「は、はい。もう日常生活に問題ないです。安静にとは言われてますけど」


「そうですか。エントランスでおかしな動きをしていたので、まだ治っていないのかと思いました」


見られていた恥ずかしさと自分の動きの驚きでひどく赤面した。

思わぬところで恥ずかしめを受け、思わず手で顔を覆う。

曖昧な返事しか出来づ、なぜか話を切り替えることにした。


「この会社暗いですけど、仕事と関係があるんですか?」


「いえ。節電中ですので、いつもはもっと明るいです」


あまりにたわいない返事に拍子抜けしてしまう。

しかし冷静になったことで、当たり前なことに気づいた。


「いつもここにいるんですか? 働く年齢には見えないですけど」


面接ではないにしろ、普通なら考えられたない失礼な質問をしてしまった。


「僕はここで作られた案内プログラムなので年も名前もありません」


これまで話していたことから飛び抜けたような非現実的な内容に加えて失礼な反応。


「は?」


冗談なのか、少女の背中を見つめていると。


「到着しました。この部屋で社長がお待ちです」


反応する前に扉が開かれ中に通される。


「お待ちしておりました。花上昇殿」


中には真っ白いスーツにスキンヘットの男が立っている。

頭が追い付かず豆鉄砲を受けた顔を長々とさらしていた。

気持ちを落ちつかせたころ頃、いつの間にか来客用のいすに座っていた。


「本日は我が社へお越しいただき、ありがとうございます」


「あっいえ。それよりさっきの女の子は?」


あまりの疑問に質問せずにはいられなかった。


「あれは我が社が開発した人工知能が組み込まれている案内役です」


たった今、話をしている少女が部屋の隅でお茶の準備をしている。


「見た目は人間と変わらず、会話も問題ありません」


目の前で動いているのがロボットとは信じがたかった。


「そしてあなたには現在開発中の新システムのテスト兼、実戦をお願いしたくあります」


いかにロボットに気を取られていても社長の言葉は聞き逃せなかった。


「じっせん?」


目の前にいた優しそうな男は雰囲気が変わる。


「あなたには、世界を守っていただきたい」

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