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未来への一歩



 婚姻の意志を伝えれば、あっという間に婚約が調った。

 すべてが用意されていたかのように、書類も整っており、両家の顔合わせもすぐに日程が決まっていく。その速さに驚きながらも、追い立てられるようにして準備をする。


 フィオナは出産を控えてアンブローズの別邸へと移っていった。なんでも夫であるクラークが出産後会いに来るため借りたようだ。最後の日まで賑やかにして、生まれたら見に来てと言い残して去っていった。早めに出て行ったのはランドルフの部屋の準備もあるため、気を使ってくれたのだ。


 ランドルフが婿に入るため、彼の私室と夫婦の部屋の準備が行われていた。時々ランドルフが仕事帰りに立ち寄り、家具の配置や好みの色を聞き、部屋を整えていく。

 正直に言えば忙しすぎて、あまり考える時間がないぐらいだ。もっと結婚に対して不安や戸惑いがあると思っていたが、感傷的になる暇がない。


 ランドルフが仕事帰りに立ち寄ると約束した日、一緒に来た人を見て驚いた。


「エドマンド様」

「こんばんは。図々しくも一緒に寄らせてもらった」


 何とも言えない顔をしたランドルフとどこか楽し気なエドマンドを交互に見る。二人が親しい仲であるとは聞いたことがなかった。二人の関係がよくわからず、質問した。


「エドマンド様はランドルフ様とお知り合いでしたか?」

「つい先日、上司になったんだ」

「上司?」


 訳も分からず、ランドルフの方を見る。彼はとても嫌そうな顔をしていた。


「職場が異動になるとは聞いていましたが……」

「そうだな。なかなか仕事が早くて助かっている」


 驚きながらもレジーナは二人を応接室へと通した。エドマンドに座るよう勧め、その向かい側にレジーナが、隣にはランドルフが座る。


「こんな時間の訪問になって申し訳ない。今日は大公殿下からの伝言を伝えに来た」

「大公殿下の伝言ですか?」


 レジーナがアンブローズから伝言をもらう理由が思い浮かばない。しいて言えばフィオナのことぐらいだった。

 ランドルフも知らないのかわずかに不審そうに眉が寄る。


「ご両親について」


 レジーナは目を見開いた。まさかエドマンドから両親のことについて言われるとは想像していなかった。

 探るようにエドマンドを見る。エドマンドはレジーナの視線を真正面から受け取った。どうしようかと骨が白く浮くほど両手をぎゅっと握りしめれば、そっとランドルフが宥めるようにその手を包み込んだ。

 その手の温かさに固まった体から力を抜いた。


「知らなくていいと思っています」

「本当に?」


 レジーナは息を吐きながら、ゆっくりと自分の思いを告げた。


「ええ。わたしももう歩き出しました。都合よく考えようと思っています」


 姉の言う通り、もう9年も昔のことだ。真実など誰も気にしておらず、面白おかしい噂だけが広まっている。


「両親は愛し合っていた。あの女性は愛人だと噂されていますけど、事実は違うと思っています。だって、わたしたちは愛し愛された家族でしたから」

「そうか」


 エドマンドがふっと笑った。その後、これからの予定と雑談をしてエドマンドは席を立った。見送りにランドルフと二人で玄関まで向かう。


「レジーナ」

「何でしょう?」


 別れの挨拶をする前に、エドマンドがにやりと笑った。


「もしアクロイドに泣かされたらいくらでも手を貸そう」

「そんなことはあり得ませんから、気にしないでください」


 レジーナが何かを言う前にランドルフが断りを入れる。エドマンドは片眉を上げた。


「そうかな?」

「大丈夫です。僕はレジーナを誰よりも愛していますから」


 堂々と言い切られて、レジーナは真っ赤になった。


「ランドルフ様、恥ずかしいです」

「これぐらい言っておかないと、引き離されてしまう」

「彼のことは常に見ているから、安心していい」


 からかっているようにも見えるが、エドマンドなりの優しさだと思うことにした。ランドルフはエドマンドを見送ってから、レジーナの腕を引いた。


「ちょっと歩こうか」

「もう夜ですが……裏庭の方なら明かりを入れられます」


 レジーナは手近なところにいる使用人に明かりをつけるようにお願いした。

 二人は並んで庭園へ向かって歩いた。しばらく忙しくてこうして二人で時間を取ることはなかったが、改めて婚約者になった彼と歩くと少しくすぐったい。


「今更だとは思うけど……」


 ランドルフが足を止めたので、レジーナも止まった。言いたいことがわからずじっと彼を見つめる。

 ランドルフはいつも以上に真面目な顔をしてレジーナを見つめていた。その目はとても優しくて、それでいて何かを秘めているように熱い。


 逸らすことなく見つめられると、徐々に恥ずかしくなってきた。

 少しだけ視線を逸らしたレジーナの両手を優しく握りしめた。


「僕と結婚してくださいませんか。愛し愛される関係をレジーナと一生かけて築きたい」

「ランドルフ様」


 驚きに息を飲む。


「よろしくお願いします」


 レジーナは顔を真っ赤にしながらもしっかりと答えた。ランドルフはゆっくりとレジーナの手を引き寄せると、そっと唇にキスをした。


「ありがとう」


 そう囁かれながら、彼の胸に抱きしめられた。




Fin.



これで本編は完結です。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

残りは蛇足かもしれませんが、ダリアの話を投稿します。全3話、一度での投稿になります。


誤字脱字報告、ありがとうございました。注意してみているつもりですが、想像以上に多く報告をもらいました。本当にありがとうございます! とても助かりました。




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