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恋愛モノに挑戦してみたくなりました
ストバイト大陸はアルカディア王国。この地はこの星に初めて出来た国でありその歴史は7000年にも及ぶ。その間一度も国名が変わらなかったというのがどれだけこの国が盤石であるかということを雄弁に語っていた。まだ空が白い早い朝のこと、王宮の片隅の騎士詰所に人影があった。それ自体は決して珍しいことではない、騎士の大半は王宮に住み込んでいるしそうでなくとも当直で城内に留まることがある。変わっている点といえばただ一点、騎士の制服を着ているのが女だということだ。女は扉の前で1つ息を吐き出すと少し低いがよく通る声で名乗りを上げた。
「ブリジット・スタンシア、入ります」
「あらリズ、おはよう」
「おはようございます、ハハシア隊長。今日も早いですね」
「生き甲斐ですもの」
女騎士──ブリジットが扉を開けると、部隊長であるハハシア・オベロンが優雅に手を振った。艶やかなハニーブロンドをきりりとまとめて服の上からでも分かる女性らしさを無愛想な制服に隠している。美女という形容がぴたりと当てはまる彼女は煌びやかなドレスを身に着けていた方が周りが喜びそうなものだが、本人は自分の見た目にろくに頓着せず騎士勤めが生き甲斐と公言して憚らない変わり者であった。
もっともブリジットが所属する部隊は特殊で変わっていない人間の方が少ない、ブリジットとて事情がある身だ。苦笑いをしそうな口元を懸命に抑えて紅茶を淹れようとしたがそれをハハシアの白い手が遮った。
「今日はナナリー様の護衛でしょう?年上に構ってないでいきなさい」
「…ありがとうございます」
それは柔らな微笑みであったが否を挟み込めない迫力があった、ブリジットは思わず恐々としながら一礼する。ここで食い下がるなど考えるだけでも身震いしてしまう、背中に一筋垂れた汗を誤魔化して自分の細剣を携えると詰所を出て本日の主人の元へ向かう事へした。
「今日はブリジットなのね」
「未熟者ですが一心に務めさせていただきます」
「そうでなくては困るわ」
ナナリー・トルス・アルカディア。アルカディア王国の王継承権第三位の第一王女だ。夜空を切り取ったような黒髪は見事な螺旋を描いてサイドで2つに纏められていて、つり上がった目はアメジストの輝きである。美しくはあるが10人に印象を聞けば10人がキツいと答えそうだ。
実際ナナリーは窓際に微笑む儚げな王女という感じではなく物言いも辛辣で態度も冷たい、どちらかといえば女帝の雰囲気だ。しかし彼女に情がないということには決してならない、王族として隙を作らないようにと振る舞っているだけでブリジットを見つめる眼差しには厳しさの中に信頼が見えていた。先ほどの言葉は言葉通りの意味しかなかったがそもそも実力を信じていなければ護衛などに選ばないのだ。
私室から出たナナリーの背後に立ち侍女と共に高級な絨毯の敷かれた城の廊下を歩く、中庭へ向かうだけだが王家とあらば一瞬とて気は抜けない、大国アルカディアに正面から喧嘩を売る者などまずありえないが何かが起こってからでは遅いのだ。王女の護衛はブリジットには初めてであった、大任ゆえに周囲につい過剰に気を配ってしまう自分が間抜けで思わず眉を顰めていた。
「髪はもう伸ばさないの?」
「社交界に出る余裕がありませんから」
「…近々お兄様の婚姻を祝って夜会が開かれるわ。分かっているでしょうね」
「一年先まで護衛の依頼を頂いています」
「言っておくけれど、百合の剣は都合のいい逃げ場ではないのよ」
「心得ております」
そんな気配を知ってかナナリーは世間話を切り出した、ブリジットは躊躇うように自分の前髪に触れて苦笑する。彼女のアッシュグレイの髪は肩に届かないほど短かった、はっきり言って異常である。何せ貴族の令嬢はもちろん町娘から奴隷に至るまで女の髪は長いものなのだ。女の髪は美しさの1つのステータスとも言われる大切なものなの。この姿こそがブリジットがあの部隊に身を置く理由だ。
百合の剣、それは女性専用の護衛部隊の名称である。
貴族や王族など尊い身分であれば護衛を置くのは当たり前で大抵が屈強な男を従える。しかし四六時中男を伴うというのは意外に気になるものであり、かといって侍女だけではあまりに頼りない。そんな事情から作られた部隊だった。隊員としては騎士学校や魔道士養成施設での上位成績者かつ出自が貴族階級である事を求められる。
ここだけを聞くといかにもエリート軍団のように思えるが基本的に令嬢たちは武術や魔法の腕を磨かず刺繍やら社交に気を払うもので、志願者数も隊員数も少ない。女が自ら危険な場に踏み込むなど考えもしないしそれが普通だ、なので設立された当初は何を馬鹿な事をと大勢が思ったのだが案外需要はあったようで中々の高給取りに収まった。中には騎士姿の麗人に守られるということに陶酔する奇特な令嬢もいるらしいがあえて他人の趣味には踏み込むまい。
ブリジットの生家、スタンシア伯爵家は800年続く由緒正しい家柄であったがもうその歴史くらいしか誇れるもののない家だった。大きな屋敷を維持するだけの金はなく使用人とて最小限しか雇えていない。家財も金になるものは売り払ってしまって応接室、客室、ロビーだけがかつての華やかさを保っていた。ブリジットのデビュタントでは親族に頭を下げてドレスを貸してもらったという体たらく、没落寸前というかもはや平民落ちの気配さえあった。
なのでブリジットはその夜会の後に腰の下まであった長い髪を切り金貨に変えてしまったのだった、どうせもういらないだろうと気軽にやってしまったことなのだがその姿を見た父親と母親は気を失い3日は魘された。
珍しい髪色と貴族らしく手入れされた髪ということでいい収入にはなったのだがそれ以来鋏を持たせてもらえなくなったのである。しかし不思議なことに短くなった髪はブリジットのあるべき姿のように似合っていた、やや男性的な細い黒目は両親の悩みの種であったのだが今はどこか中性的な魅力を湛えている。しかし、そんな後先を考えない暴挙は令嬢としてあまりに致命的であった、これはこれで魅力的だが男の様に髪の短い女など趣味の悪い変態にしか受け入れてもらえないだろう。
そんな折、百合の剣の事と、ブリジットが金銭の問題から平民でも入れる騎士学校の出で上位成績者だった思い出した父親は最後の手段にと入隊させたのが数年前だ。髪は魔獣に襲われたとか尤もらしい理由を付けて誤魔化したが、困窮したスタンシアの事を考えれば真実に辿り着く人間も少なくはないだろう。そんな自棄で決まった仕事だったが高給であったこと、制服の支給がされること、護衛任務中であれば騎士の姿のままでの社交が認められることなどなどブリジットにとっては喜ばしい職場であったのだ、ナナリーに釘を刺されてしまうくらいには。
中庭へと向かう道すがらバタバタと忙しい足音が聞こえてきた。この音を吸うような絨毯の上でここまで煩くできる者がいるのかと一瞬呆れたがブリジットは音の聞こえる後方へ向き直りナナリーを庇うようにして細剣に手を伸ばす。
果たして廊下の先から見えてきたのは軍服を着こなした見目麗しい青年であった、しかし炎のような赤毛は乱れて汗で張り付き喘鳴で厚い胸板は何度も上下している。薄いアイスブルーの瞳は苦しそうに細められている。長距離をずっと走ってきたのだろうか、いや、それにしてもこの赤毛は、ブリジットが息を飲むのと同時にナナリーの足が一歩男に近付いた。
「お前、下がりなさい」
「…失礼いたしました」
「……は、いや、す、すまん…いや、申し訳、ございません、ナナリー様…ゲホッ、ゲホッ!」
「ユーリ、王宮は鍛錬場ではないと何度言わせるのです?」
「あ、…き…肝に、命じます」
「何度目かしらね」
ユーリと呼ばれた青年は笑う膝を懸命に押さえつけて取り繕ったように礼をした。王族を前にしては信じられない行動だったが、この青年はそれが許されるだけの立場にあった。
ユーリ・ノーラッド、その赤毛から赤獅子という渾名で呼ばれるアルカディア騎士団の副団長だ。まだ27という若さで巧みな剣の腕を持ち、もう10年すれば騎士団長の位もとまことしやかに語られる有名人、何よりその精悍な顔立ちが女性に大人気だ、ブリジットも何回か護衛対象の令嬢に延々と話をされた覚えがある。ブリジットが背後へ回るとその大人気の美丈夫をナナリーは睥睨していた。
「どうせまた逃げ出してきたのでしょう。アルカディアの兵とあろうものが嘆かわしいこと」
「う……」
アルカディアは遥か昔、魔王と呼ばれる災厄の存在を討ち倒した勇者が興した国と言われている。故に国父たる勇者に恥じぬ強さを持たねばならないというのがこの国の信条であった、それに反する行いをした自覚はあるようでユーリは低く呻く。赤獅子がここまで必死に逃走する理由など思いつかなかずブリジットは小さく首を傾げた、ユーリはそんなブリジットの存在に今気がついた様に目を丸くして数歩後退りする。
「え、オルガは?」
「……」
「オ、オルガはご一緒ではないのですね!」
「えぇ。他のガードの練度を見るのも務めのうちです」
ナナリーは百合の剣の隊員を数ヶ月単位で交代させその腕を見ているのだ、昨日まではユーリが言ったオルガというのが王女護衛の任務に就いていた。ブリジットの同僚に当たるのだが彼女も彼女で中々の変わり者である、何せコルセットを付けるのが嫌という子供染みた理由だけで入隊したのだから。
ナナリーの促す視線に気が付いたブリジットはぴっと指先まで気を巡らせるとユーリに向かって騎士の礼をした。
「ブリジット・スタンシアと申します」
「…あぁ、マニス殿の。お初にお目にかかる。ユーリ・ノーラッドだ」
マニスというのはブリジットの父親の名だ。国政に関わる権力さえもはやないのにしっかり覚えているとは、と思わず関心する。これも歴史の力であろうか、自分であれば関係のある家名は覚えたくないものだと貴族らしからぬ思いを抱いていると、何か不思議そうな顔でユーリはブリジットを見つめていた。どこか礼儀がなっていなかっただろうか、いや、そのようなことがあればナナリーからの叱責が先であろう、その顔の理由に思い当たりのないブリジットは僅かに眉を寄せた。
「…何か?」
「い、いや、何でもない。ではナナリー様、失礼します」
「えぇ。歩いて、帰ることです」
歩いて、の部分を強調したナナリーにユーリはぎくっと肩を揺らし滑稽なほど丁寧に足を進めた。その様を睨むナナリーの目は相変わらず厳しかったが根底には親愛にも似た呆れが潜んでいるように見える。恐らくはユーリとナナリーは自分の想像以上に親しい間柄なのだろうと1人納得しブリジットはその背中が廊下の端に消えるまで見送った。ユーリの姿が見えなくなるのと同時にナナリーは少し柔らかい声色でポツリと呟いたのだ。
「…珍しいこともあるものね」
「ユーリ様ですか?たしかに息を切らせていましたね、赤獅子とも言われるお方には珍しいのでしょうか」
「そこは平時通りです、ブリジット、彼の噂は知らないかしら」
「…不勉強で申し訳ありません」
「形だけ恥じられても迷惑よ」
耳の遅いものは騎士としては素人だ、貴人を守る役目を負うものが各所にアンテナを張っていないということの証明に過ぎない。腕だけを過信するなと鋭い眼差しはブリジットを貫いた、他者への関心のなさは自覚する欠点であった為に唇を噛んで目を伏せる。
ナナリーの厳しさは決して理不尽なものでないだけに身に染みる。ブリジットの様子にナナリーが小さく溜息を漏らす、出来の悪い生徒に呆れた様な冷たく、それでいて暖かな溜息だった。
「ユーリはね──」
夕暮れに染まる詰所の前でナナリーの護衛を終えたブリジットは固まっていた、そこには腰を折り曲げるように頭を垂れるユーリの姿があったからだ。一体いつから待ち構えていたのだろう、多忙な身の上であるはずなのにこんなところで、しかも自分より格下の相手に頭を下げていいわけがない。だというのにユーリはその姿勢を崩す気配さえ見せなかった。
「無礼を承知でお願いするっ!」
「ユ、ユーリ様、お顔をあげてください!」
「いや、これから君に言うことを考えたら申し訳なさすぎて顔なんてあげられない!」
「…………あ、あの一体どのようなご用件で?」
発せられた声にバサバサと烏が飛び去っていく。詰所は城にそこそこ近い位置にあるのだから勘弁してほしいとブリジットは切実に思った。そしてどうやら要件とやらを言わせないことには姿勢を変えてくれないと思い至り、渋々ながらもそのまま先を促す。遠目にこちらを見る騎士団員の視線がとても痛かった、ブリジットがそんな思いをしてることなど知らないであろうユーリは僅かに顔を上げた。まるで断頭台に登る罪人のように青ざめ唇は戦慄いている、一体何を言うつもりなのかとブリジットの方も手に汗を握ってしまった。数秒間をおいてユーリはゆっくりと口を開いた。
「私の、恋人のフリを、してくれないだろうか」
静寂が訪れた、なるほど確かに失礼だとブリジットは軽く頷く。しかし彼女自体が色恋や自分に頓着しない性格であったことと先程のナナリーの話もあって怒りは湧いてこなかった、むしろ疑問が心を支配していた。
「失礼ながらユーリ様は、女性恐怖症だと伺いましたが」
「は、はは、噂は広まっているらしいな…それは、間違いなく事実だ」
「では、何故私に?」
漸く顔を上げて普通にしたユーリにブリジットは安堵の息を漏らした。そう、ナナリーからはユーリが極度の女性恐怖症であると教えられたのだ、獅子が女性に好意を示されて半狂乱になって逃げ去るというのは想像ができない。
渾名を付けた人物は趣味が悪いかよく知らないかのどちらかなのだろう。令嬢からはクールな感じが素敵!と評判であったのだが単に怖くて目が合わせられなかっただけなのではないだろうかとやや遠い目になりながら考えた。ユーリは窶れた笑みを浮かべるとそっと引き締まった腕で自らの身体を抱いた
「私は女性を見ると寒気を感じる体質でな、美しい女性であれ……その、多少残念な方であれそこは変わらない。指先が触れれば鳥肌が立つし、声を聞くだけで背筋が凍る気持ちだ」
「…ナナリー様の前ではそのようには見えませんでしたが?」
「あの方との付き合いは長いからな、私がこうなる前に交流があったからそういう反応は起こらない」
生来のものではないということか、出会った時に後ずさったのは女の姿に慄いたからなのかもしれないとブリジットは頭の片隅で納得する。中性的な見た目とはいえ胸も一応並みにあるし誤魔化せないのだ。
「君が、初めてなんだ、こういう体質になって初めて寒気を感じなかった女性だ。君とならば私は普通に接することが出来ると思う」
「理解いたしました。それでフリ、というのは?」
「それは…ここからが本当に申し訳ない話なのだが、身を固めろと身内から総攻撃を食らってだな」
「あぁ…」
要するに婚約関係になってほしいということである、何とも思わない女に断れない立場を伴って自分の為に婚約をしろと言うのは侮辱に近い。しかし初対面の時の様子を回顧して、それが切実な願いから来ていることを知っていたブリジットはただ言葉を紡ぐ度罪悪感に揺れる瞳を静かに見つめていた。ユーリはそれでも目を逸らすことはせずブリジットにはっきりと向かい合う。
「失礼なのは百も承知だ!だが、君を縛るような真似はしないし、心に決めた相手がいるというのならばこの話は無かったことにする!」
「ユーリ様、1つお伺いしてよろしいですか」
びくりと肩を震わす様に勇壮たる副団長の影はない、下手にフォローをしても恐縮させるだけであろうと考えたブリジットはあくまで事務的に言葉を選ぶ。
「私の益は何処にあるのでしょう」
「…スタンシア伯爵家は、随分危ない体勢らしいな。支援をしよう、交際相手へのプレゼントとなれば何も不都合はあるまい」
思ってもみなかった提案に目を丸くする、ユーリが美貌を鼻にかけ褒美などないと一蹴するタイプには思わなかったがまさかそう来るとは。スタンシアの傾きは調べればすぐにわかる事だが先程出会ってすぐにこの考えに至るというのは中々計算高い人物だと関心する。その顔にユーリは申し訳なさそうに目を伏せる、あまりの失礼さにモノが言えなくなったと思ったのだ。
「…すまん、これでは君を金で買っているのと同然だ。腹が立っているなら悪し様に罵ってくれても…」
「何年ですか?」
「え?」
「期間の話です」
「…受けてくれるのか?」
「願ってもいない話ですから」
「感謝する!!」
「顔をあげてください」
勢いよく頭を下げたユーリにブリジット今度はいくらか冷えた声で突っ込んでしまった。自分に関心もなく髪を切ってしまえるブリジットであったが、反対に言えば髪を捨てるのも惜しいと思わないくらい家の、家族の事は大切だった。頼りないが優しい父、心配性で少し口煩い母、大きな給与も出せないのにまだ家にいてくれる使用人が身一つで助けられるのならばとブリジットは思ったのだ。
「そ、その、好意に甘える形になるのだが現状はずっとということになる…」
「それは、その…下手をすると婚姻までということになりませんか?」
「やはり、心に決めた相手がいるか」
「いえ、全く。問題はユーリ様です、我が伯爵家と縁を結ぶ理由などないでしょう、ノーラッド伯爵も何とおっしゃることか」
「そこは問題ない、君の家は歴史のある名家だし、父は私が伴侶を見つければ何でも構わないそうだ」
「…はぁ」
もじもじと指と指を合わせるユーリを見てそこまで切羽詰まっているのかとブリジットは頬を引きつらせそうになった。それにしても相手を選ばないというのはノーラッド伯爵の器が大きいのか、なりふり構っていられないのか判断に困る。
ユーリは27歳、男の結婚は遅いものであるのでそこまで慌てる時期ではないが体質がこれ以上悪化にしないようにということなのだろうか。そして婚姻まで持っていくというなら避けられない問題が出てくる。
「では、お世継ぎの問題はどうなさるおつもりですか」
「養子を取る。私の体に問題があると言えば問題あるまい」
「そんな…恐れ多いこと…!」
「何を言う、無茶を押し付けているのはこちらなのだから名誉などどんどん傷付けてくれ」
養子を引き取るというのは夫婦のどちらかが子供を作れない身体であるか、男児が産まれず後継に悩んだ時だけだ。親類を引き取ることもあるがそれは不幸な事故があった時だけ。この事情であれば普通はブリジットを石女だと吹聴するべきだ、爵位こそ同格だが権威はノーラッド伯爵家の方が遥かに上なのだから。
それをユーリに押し付けるのは不敬に過ぎるのだがそれを良いという目はどこまでも真剣だった。ここまでしてもいいほどにユーリは女性に怯えているのだろう、断ってもいいとはいうがそれをすれば見合いやら舞踏会で骸になる様子は想像に難くなかった。
それにブリジットももう18だ、自分の為にもそういうことを考えた方がいいのだろう、これも縁だと頷いて受け入れる。年は随分離れているが貴族の間ではそこまでおかしい話でもない。
「かしこまりました、ユーリ様」
久方振りに淑女の礼というものをしてみた、摘む裾はなかったけれど。