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外伝Ⅳ 北の魔物①

☆★☆★ 本日コミカライズ更新 ☆★☆★

ニコニコ漫画にて『劣等職の最強賢者』の最新話が更新されました。

貴族の息子として、畑にやってきた主人公。その畑が荒らされていて……。

というお話です。ニコニコ漫画で無料で読めますので、是非よろしくお願いします。

 ◆◇◆◇◆ 教官たち ◆◇◆◇◆



「なんだ、あのクソガキは!!」


 教官の1人が拳をテーブルに叩きつけた。

 灰皿には吸い殻が溜まっていて、灰が震動でこぼれ落ちる。

 教官の頭には、青筋が浮かび、興奮した闘牛のように紫煙を吐き出していた。


 部屋には3人の教官がいる。いずれも新人教育を任されていた。

 いずれも頭の固そうな老人で、前線から退いてもこうして新人教育という名目で軍隊から給金を絞り出す老害たちである。


 テーブルを叩いた教官以外の2人は、素っ気ない表情でカードに興じていた。

 うち1人がカードを置くと、同じく紫煙をくゆらせる。


「クソガキとはなんだ? オレたちからすれば、全員がクソガキだ」


「172番のことだ!!」


「ああ。あの少年兵か」


「教官を教官とも思っていないあの態度。問題がありすぎる」


「その問題児を放置している担任教官もどうかと思うがね」


「放置? オレがいつ放置した!? 子どもだと思って甘やかしてるようにみえるか? なら、今度オレのおっぱいでも吸わせてやろうか。少しは大人しくなるかもな」


 わざわざ教官は上半身をはだけると、自分の乳首を強調した。

 他の教官たちは見たくないとばかりに、野良犬でも追い出すみたいに手を振る。

 カードを続けると、もう1人の教官が言った。


「けれど、あの172番。すでに上層部の噂になってるみたいですぞ。新人教育を辞めて、今すぐ前線に出せと鼻息荒くして、進言した将校もいるようです」


「あの性格をどうにかしなければ、前線に送るなんてできるか! 連係を崩して、味方が総崩れになるのを目に見えるわ! 単騎で自爆特攻させる方がまだましと言える」


「ならば、単騎で自爆特攻させればいい」


 エースのカードを引きながら、ある教官は淡々と言った。


「なんだと?」


「実はな。軍司令部から連絡があった。西の山にBランク相当の魔物が棲みついたそうだ」


「Bランク相当?? おい。そんな話、初めて聞いたぞ。本隊の【魔導士(ウィザード)】が対応してくれるんだろうな」


「無理だ。魔族の侵攻が本格化してる。本隊はそれどころじゃない」


「じゃ、じゃあ、我々で対処しろっていうのか? ここにはオレたちのようなよぼよぼの老人と、ひよっこしかいないのだぞ!!」


「そうやってお前が遠話器越しに怒鳴るから、司令部から信用がないんだよ。あと、よぼよぼとか言うな。私たちだってやろうと思えばやれる。ただ億劫なだけだ」


「億劫だと? ふん。何もしないという意味では一緒ではないか!?」


「だからさ。やる気のあるヤツに任せればいいだろってことだ」


「まさか……。172番に任せるのか?」


 これまで憤っていた教官は、その作戦を聞いて息を飲む。

 対して立案した本人は薄く笑った。


「軍司令部一推しの人材なんだろう。こちらで評価を確かめておく必要がある」


「それで172番が死んだら……」


「はっ!? なんだ、情愛でもあるのか。お前、本当にその真っ黒な乳首で変なプレイでも強要していたのではないだろうな」


「馬鹿な! 172番死んだら、軍司令部の査察が入るかもしれんぞ」


「Bランクの魔物程度にやられるなら、魔族と戦っても同じこと。172番はその程度だったと報告してやればいいだけだ」


 カードを置く。その瞬間、1人は頭を抱え、1人はガッツポーズをして盛り上がった。


 その横で172番の担当教官は、顎に手を当て考えた。


「自爆特攻か……。なるほど。使えるな」



 ◆◇◆◇◆



 俺の朝は早い。

 まだ宿舎廊下の明かりすらついていない時間に出てロードワークを始める。

 最近は近くの山頂に登って、降りることを繰り返していた。

 でも、これはまだ準備体操ぐらいだ。


 軽く自重トレーニングをし、ゆっくり身体に負荷を与えていく。

 身体ができれば、この倍はしたいのだが、あまり鍛え過ぎると成長を止めてしまう恐れがある。

 そのため10歳のうちは、なるべく機器を使わない自然を使ったトレーニングに勤しんでいた。


 宿舎に帰ってきた頃には、ちょうど朝餉の準備ができている。

 やや栄養が足りないが、孤児院の食べ物よりはマシだ。

 足りない分は、山の木の実や時々獲物を仕留めて、補給している。


 食休みの後、訓練の予定だったが、急に非常召集がかかった。

 講堂ではなく、グラウンドに整列すると、俺の担当教官が鉄の演台の上に立って、怒鳴り散らす。


「今日の訓練は中止する。代わりにお前らには、魔獣討伐の命令が軍司令部より下った。ありがたく思え」


 なんでも新人宿舎から北方にある山で魔獣汚染が広がっているらしい。

 魔獣汚染というのは、魔獣による作物被害や、人的被害が出たことを指す。

 近くの住民の嘆願により、魔獣討伐を命じられたわけだ。


「近隣住民の皆様のためにも、日頃の訓練の成果を見せて欲しい」


 教官は挨拶を結ぶと、早速北方に向けて歩き出した。

 無論、新人といえども軍人である俺たちに拒否権などない。

 新人たちは割と楽観的だ。

 教官の言葉通り、日頃の成果を出そうと息巻いている人間もいる。

 やれやれ……。真面目で単純なヤツらだ。


 とはいえ、俺も楽しみではある。

 魔獣がどれほど強いのかわからないが、この辺りの魔獣は大方殲滅してしまった。

 そろそろ遠出をしたいところだったのだが、あまり遠くへ行くと脱走兵だと思われてしまうかもしれない。一応これでも遠慮していたのだ。


 今はこの身体が充実するのを待たなければならない。

 そのために軍の環境を存分に利用させてもらう。

 まずい飯でも、未成熟な身体にはどうしても必要だ。


「到着だ」


 行軍をして、3時間。

 やっと件の山に着いた。

 標高はそれなり。麓から山頂付近まで緑に覆われている。

 なるほど。魔獣の餌となるものが多そうだ。


 新人たちは5、6人で組み分けをされ、山の中に入っていく。

 だが、気付いた時には俺1人になっていた。


「教官、俺は?」


「172番。お前は1人だ。十分だろ。お前は強いしな」


「え? いいのか?」


 俺はぶるりと肩を震わせた。

 すると、教官は黄ばんだ歯を見せて笑う。


「なんだ。嫌なのか? それとも怖いのか? オレはお前ならいけると――」


「いえ! そんなことはありません」


 顔を上げる。

 怖い? そんなわけないだろ。嬉しくてたまらない。

 ワクワクしてる心臓の音を聞かせてやりたいぐらいだ。


 1人ってことは、スキルポイントを独り占めできるってことじゃないか!


「な、なんだ、172番? その目は」


「勘違いしていた」


「は??」


「教官殿は俺のことを嫌いだと思っていた。だが、こんなボーナスを与えてくれるとはな」


「ボーナス? お前、何を言っているんだ」


「心配するな。……ここの魔獣は全部俺のものだ」


 俺は職業魔法を使う。

 足先に風の渦を作ると、その勢いを利用して、飛び出した。

 一直線に山を上っていく。


「よーし! 狩るぞ!!」





 グレーダホーン(Dランク) ×5。

 ロストハンド(Eランク) ×15。

 ブルーブル(Dランク) ×4。

 コールドフライ(Eランク) ×20。

 フールドッグ(Dランク) ×9。


「極めつけはお前だ……」


 ガシャン!


 猛々しい音を立てて、俺の前に立ちはだかったのは、シールドアントだった。


 巨大な鉄の盾のような前肢を持ち、その間からスピア上になった牙を飛ばす。

 動きは速く、反応も悪くない。

 何より防御力の高さは、Bランクの魔物を超える。


 そしてシールドアント自身のランクはCランク。


 しかも、こいつらはだいたい群体となって行動する。

 結果的に俺の前には、Cランクのシールドアントが20匹以上群がっていた。


 よりどりみどりとはこの事だ。


 教官が訓練代わりに受けた命令だと思って、あまり期待していなかったが、なかなか良い感じに魔獣の巣窟になっているではないか。


 魔族の領地から離れたこの辺りは、かなり魔素が少ない。

 故に魔獣の強さもさほどではないのだが、この辺は魔素が溜まりやすい魔力溜まりでもあるのだろう。


 まあ、理由などどうでもいい。

 今、俺はCランクの魔物を前にしているのだからな。

 こんな好機はもう2度とないだろう。


「俺が強くなるために、お前たちにはスキルポイントになってもらうぞ」


 俺は手を掲げた。

 現れたのは、炎の塊だ。


 くらえ!!



【豪炎球】



 最近ようやく習得した中級魔法だ。

 普通の中級魔法ではない。俺の魔力は高まっている。

 一般的な【魔導士(ウィザード)】が放つものより、ワンランク上だ。


 つまり、それはもう上級の威力に近い。


 バァァァァァアアアアアンンンン!!


 派手な音を立てて、魔法が炸裂する。

 一瞬にして視界は紅蓮に染まった。

 その光景を見て、思わず笑みを浮かべる。


 楽しい!


 久しぶりだ。こんなに目一杯自分の力を解放したのは。

 やはり己の技術を限界まで引き出す時こそ成長を実感できる。


「なあ……。シールドアント」


 黒い煙の中から現れたのは、シールドアントたちだった。

 あの業火をまともに受けて、生きていたのだ。

 ピンピンしてるというわけではない。

 まともに受けたシールドアントのシールドは弾け飛んでいた。


【凍槍】


 俺は間髪容れずに、氷の槍を生成して解き放った。

 見事、シールドが壊れたシールドアントの頭を貫き、消滅する。


「ふう……。中級魔法を使って、やっと1体か。残り19。さてさて、これは骨が折れそうだな。だが、全部倒せてもらうぞ。全員きっちり俺のスキルポイントになってもらうからな」


 ククク……。


 思わず声を出して笑ってしまう。

 俺は歓喜を隠せず、再びシールドアントの群れへとツッコむのだった。


☆★☆★ 新作投下 ☆★☆★

新作『前世で虐げられたので、今世は自由に生きようと思います~処刑された大聖女は、聖女であることを隠したい~』という作品を書きました。

前世でひどいめにあった大聖女が、今世では非常に愛された存在になるというお話です。

無双あり、ハートフルな話あり、ざまぁありと盛りだくさんなので、

是非読んで下さい。よろしくお願いします。


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