外伝 Ⅸ 勇者救出
☆★☆★ 昨日コミックス第4巻発売 ☆★☆★
村からの自立。冒険者学校の試験。生徒自治会。
そして新たなヒロインたち! 内容満載です。
ピッコマ様にて9位いただきました。お買い上げありがとうございます。
◆◇◆◇◆ デグナン&レン ◆◇◆◇◆
ラセルが勇者ゼナレストと邂逅する一方、陽動役を言い渡されたデグナンは魔王軍本陣の西にある森に潜伏していた。
東の方――つまりラセルとゼナレストの戦いは始まっている。しかし本陣に変わった様子はない。どうやら陣の再編成に時間がかかっているらしい。
魔族軍はすでに多くの人類軍をこの戦場で飲み込んできた。血気に逸った魔族が隊列から出て、逃げた人間を追いかける。そんなことが魔族軍のあちこちで起こっているため、兵を連れ戻すのに時間がかかっていたのである。裏を返せば、ラセルたちにとっては好機でもあった。
魔族軍の様子を窺いながら、陽動のタイミングを計っていたデグナンは横にいるレンに声をかけた。
「なあ、レン……。オレたちだけでも今から逃げないか?」
「え? 今さら? ボク、こうと決めたらもう絶対にやり通す人間だと思っていたんだけど」
「オレだって人間だ。心変わりぐらいするさ。そもそもあれを見ろよ!」
デグナンは草葉の陰に隠れつつ、異形の大集団を見据える。人間でもなく、魔物でもない。知性と野生を兼ね備えた悪鬼たちが血の臭いを漂わせながら、次の戦場を追い求めていた。
「オレたち新人だぞ! その戦場でいきなり魔族と相対するってどう考えてもおかしいだろ」
「今、それに気づくの? 遅くない? せめて作戦会議の時に気づいてよ」
「仕方ねぇだろ。……あのガキはあのガキで怖いし。あの場面で断るのは、その……男が廃るっていうかよ」
「むしろこの状況で逃げようって相談してる時点で、男としてはダサいけどね」
「じゃあ、お前残れよ」
「ボクは逃げるよ。そもそもこの作戦には反対だったんだから」
「よし。じゃあ、そぉっと……」
抜き足差し足、忍び足という風に、デグナンとレンはゆっくりと後ろに下がっていく。
すると、その後ろから声が聞こえた。
「お前たち!」
「「ひぃっ!」」
思わず悲鳴を上げる。恐る恐る振り返ると、眼光鋭い眼差しで女性の隊員がデグナンとレンを睨んでいた。
「な、ななな、なんでしょうか? オレたちは別ににげ――――」
「逃げろ」
思いも寄らぬ言葉に、デグナンとレンは固まる。女性隊員は厳しい表情の中、言葉を続けた。
「この作戦の成功率は低い。成功したとしても、私たちが生き残る可能性は低い」
「そ、そうですね」
「正直に言って、新人に任せていい役目じゃない。ただ勘違いしないでくれ。お前たちの実力を侮っているわけじゃない。むしろ逆だ。お前たちの力を後世の人類軍に残すべきだと我々は考えた」
「オレたちを、後世に残す?」
「だから、あとのことは任せて。お前たちは後退してくれ。ここまでご苦労だったな」
女性隊員はポンとデグナンの肩を叩く。デグナンはただただ呆然としていた。
固まったデグナンの頭の中は――――。
(か、かっけえええええええ!!)
――――だった。
(な、なにあれ? 新人のオレたちを生かすため……。後世に残す? かっけえええええ! 1度でいいからそんな台詞を言ってみてぇ!! あと、あと……今、こういうのもなんだが、お姉さんの胸、何気に大きくなかった? ラシュアよりも!! ともかく! あんなかっこいいこと言われて、はいそうですかと転進できるかよ!)
それこそ漢がすたるってもんだろ!!
「嫌です! オレは帰りません!!」
「お、おい。デグナン?」
レンは止めたが、デグナンは完全にスイッチが入っていた。
すでに目には炎が入り、頭からシューシューと音を立てて、やる気を漲らせている。
「帰らない? いいのか? 死ぬかもしれないんだぞ」
「オレは確かに新人です! でも! その前に漢なんです。立派な男の子なんですよ! 女を残して、戦場をさっちゃ。それこそ後世で笑いものにされるってもんですよ!!」
魔族に聞こえるのではないかというほど、声を張りあげる。事実、幾人かの魔族は気づいたのだが、森の中からデグナンが姿を現したことで、すべて水泡に帰してしまった。
「うおおおおおおおおおおお!!」
にわかに騒がしくなる本陣に向けて、デグナンはダッシュで向かって行く。
魔法を使って己の得物を伸ばし、さらに巨大化する。さらに空中でコマのように回ると、遠心力と巨大金鎚の重さを周囲にいる魔族に叩きつけた。
轟音と、砂柱が上がる。
突然始まったラセルとゼナレストの決闘を静観していた魔族たちも、西の方を向いた。
さらにデグナンの声が戦場いっぱいに響き渡る。
「おら! こいや! 魔族! このデグナン・フェルブレスがまとめて相手してやるぜぇぇええええええ!!」
瞬間、ついに戦場のすべての気配が、デグナンの方に向く。本陣に固まりつつあった魔族が徐々に西の方に流れ始めた。
一方、その様子を呆気に取られた表情で、レンと他の女性隊員が見ていた。レンはいつも通りぼうっとして締まりのない顔だったが、横に立った女性隊員は顔を引きつらせている。
「あちゃー。ちょっと効き過ぎたかしら」
「もしかしてわざとですか?」
「へへへ……。まさか1人で飛び出していくとは思わなかったわ。すごいわね、あなたの友達」
「友達じゃありませんよ」
単なる戦友です……。
「え?」
「馬鹿ですけどね。さ、行きましょ。もうこれでボクたちは戦って生き残る以外の選択肢しかなくなりました」
すると、レンもまた飛び出していく。
魔族の攻撃をすり抜けながら、デグナンと合流した。その回避技術に、歴戦の女隊員たちも舌を巻く。
「やる気があるのか、ないんだか……。本当におかしな新人たちね」
遅れて女性隊員たちも戦線に加わる。
静かだった戦場は少しずつ騒がしく鳴り始めていた。









