外伝 Ⅷ 勇者暴走⑧
☆★☆★ 本日発売日 ☆★☆★
本日、コミックス3巻が無事発売日を迎えました。
今後の話では書籍1巻以降の展開も入ってくる予定もございます。
つきまして原点となる少年編、青年編をチェックいただき、新たなキャラ、舞台をお楽しみいただければ幸いです。
コミックス3巻もお買い上げください。
「貴様!!」
殺気立ったのは第三師団の生き残りたちだった。
それぞれの得物を俺に向ける。
さらに眉間に銃を突きつけたのは、第三師団の副官レナである。
「レナ、落ち着け!」
シェリムが声をかけるが、レナという副官は俺から魔法銃を下ろそうとはしなかった。
益々眼光鋭く睨むと、口を開く。
「若い兵士だと思って、大言を許していたが、看過できぬ。ハイ・サキュバスを倒すだと? サキュバスとはいえ、相手は高クラスの魔族だぞ!」
「だから、勝ち目があるんだろ?」
「何?」
「お前が言ったとおりだ。ハイ・サキュバスは高クラスの魔族だが、その中でも倒しやすい相手だ。魅了以外の能力は怖くはない。お前たちでも十分戦えるのではないか?」
「それはそうだが……、しかしハイ・サキュバスの近くには――――」
「【勇者】がいるだろう。だから、それは俺がなんとかしてやる」
「お前が……? くくく……」
レナは弾かれたように笑う。
周りの隊士も、俺の方を見てせせら笑った。
「子どもの兵士が何を言う。貴様は新人だろう。それも先ほど聞けば、今回が初陣……。そのお前が【勇者】を抑えるだと」
「ああ。あるいは倒してしまうかもな」
「ふざけるな!!」
レナの指が魔法銃のトリガーにかかる。
その殺気は本物だ。
よっぽどゼナレストという【勇者】を信奉しているらしい。
「お前のような威勢のいい新人は過去に何度もいた。だが、1つ言っておく。その度にゼナレスト様はねじ伏せてきた。圧倒的な実力差でだ」
「あまり大声を出すな。ここをどこだと思っている」
「黙れ、小僧!! その憎たらしい口を撃ち抜いてやろうか!!」
「馬鹿か、お前は?」
「はあ……?」
「喧嘩を売るというなら、しょうがなく買ってやるし。こっちも命あっての物種だから、殺すというならこっちも命のやり取りをするつもりで戦うつもりだ。しかし、今は人類危急の時という奴だろう。なのに、人類同士で争っている場合か? お前の弾丸は、愛しい【勇者】様を寝取った魔族に向けられるものじゃないのか?」
「貴様!!」
レナの指に力が入る。
【暴風泡】
風が渦を巻き、さらに圧縮される。
大気が泡のような形になった瞬間、それは弾けた。
「ぐっ!」
吹き飛ばされたのはレナだった。
突然巻き起こった【魔導士】の魔法に、レナは対処が遅れる。
「副長!」
「レナさん!!」
残りの隊士が打ち据えられたレナを介抱する。
一方、俺の前で魔法を放ったのは、ラシュアだった。
見たこともないほど、険しい表情でレナを睨んでいる。
「たとえ、偉い人でもやり過ぎです! ラセルくんは子どもに見えるかもしれないけど、わたしと同じ隊の同僚なの。殺すとか、戦うとかいうなら、わたしも黙ってみてないよ」
冷ややかな声を響く。
ラシュアってこんな風に怒ることもできるんだな。
頭の隅から隅までお花畑が広がっていると思っていたが……。
今のを見て、認識を改めなければならない。
ラシュアの行動を見て、さらに俺の前に立つ奴が現れる。
「ラシュアの言う通りだ。確かにオレもラセルにムカつく時はある。だが、こいつはガキはガキでも、使えるガキだ。そもそもオレはよ。上官とか先輩とか、そういうので見下す奴が嫌いなんだ。もし、それ以上やるっていうなら、やってやるぜ」
さらに、そこにシェリムが加わった。
「言葉があれだが、概ね同意だ。ラセルはうちのエースだ。信じられないのは無理ないかもしれないがな……。それにな、レナ。意外とこいつらはやるぞ。うまく使えば、今の状況をひっくり返すポテンシャルを持っていると思う」
「さすが、隊長! わかってる!!」
褒められて嬉しかったのか。
ラシュアがシェリムの脇腹を突く。
「おい。レンもなんとか言えよ」
「ボクはいいよ。争うぐらいなら本を読んでる方がいいし。一応【聖職者】だしね」
レンは相変わらずマイペースだ。
はあ……。俺をかばってくれるのはいいのだが、お前らいい加減騒ぎ過ぎだ。
ついに見つかってしまったじゃないか。
不意に闇夜の中で風切り音が聞こえる。
見えたのは、血のように赤い瞳。
そして響いたのは、下品な笑い声だった。
『イタ! イタ! にんげんダ! にんげんイタヨ』
『ヤッパリもりニカクレテタ!』
『にんげん、ミッケ! にんげん、ミッケ!!』
四肢と頭の形は人間でも、その体色は人間のそれではない。禿頭に、歪んだ耳。舌は長く、ダラダラと涎を垂らしていた。
何より息を飲むのが、蝙蝠のような禍々しい大きな翼だ。
闇に染めたような黒の翼を動かしながら、空で静止し、俺たちを見下ろすというよりは、見下していた。
「が、ガーゴイル!!」
「くそ! こんなところにまで!!」
「戦闘態勢!!」
動揺する隊士たちを落ち着かせると、レナは先ほどまで俺に突きつけていた魔法銃をガーゴイルたちに向ける。
間髪容れずに、その銃把を引いた。
炎の弾が高速で撃ち出されると、1体のガーゴイルを貫く。さらに炎に巻かれると、一瞬にして消滅した。
「さすが、副長!」
「副長に続け!!」
1体倒したことによって、隊士たちの士気が上がる。
ガーゴイルは魔族の一種だが、その中でも下級の魔族だ。とはいえ、魔獣のランクに照らすなら、BランクからAランクの間ぐらいの力は持っている。
それを1発でやるとは、勇者の副官だけだったことはある。
「けれど……、魔法銃はいただけないな」
魔法銃は威力こそ高いが、弾丸を発射する音がかなりでかい。
今ので森に人間がいることが伝わっただろう。
『にんげん、イタ!』
『イタ! イタ!』
『にんげん、ヨワイ』
『コロス! コロス!』
ガーゴイルが集まってくる。
魔族軍の中でもガーゴイルというのは、索敵に特化している。特に耳がよく、かなり遠く離れた銃声でも正確な場所を聞き分けることが可能だ。
俺たちはあっという間に囲まれてしまった。
「くそっ! シェリム、我々が退路を……」
レナが何か言いかけた時、すでにデグナンが飛び出していた。
デグナンは得意の金鎚を握る。
【伸縮】
【巨大化】
いつも通り、金鎚を振り回すと、裂帛の気合いが闇夜の森に響き渡る。
「おらああああああああああ!!」
暴風のように振り回される金鎚の嵐。
ガーゴイルは吸い込まれると、ついに1体目が木の幹に打ち据えられる。
莫大なダメージを与えられたガーゴイルは悲鳴を上げることなく、消滅してしまった。
回転を緩め、デグナンは金鎚の柄で地面を叩き、ガーゴイルを威嚇する。
「なんだ……。魔族っていうから、とんでもなく強いと思っていたけど、大したことねぇなあ」
ガーゴイルたちの不運は続く。
デグナンの攻撃を見たカーゴイルたちは震え上がり、動きが止まる。
そこにすかさず魔法を打ち込んだのは、ラシュアだった。
【豪炎球】
巨大な炎の球がガーゴイルを捕らえると、瞬時に炭にする。
さらにデグナンとラシュアの攻撃は続き、ついにはカーゴイル部隊を全滅させてしまった。
残ったのは、焼きごてを押し付けられたようなガーゴイルの影だけだ。
「すごい……」
気が付けばレナは呟いていた。
「シェリム……。あいつら、本当に新人か?」
「ビックリしたろ? だが、あいつらは絶対に人類の秘密兵器になる。いや……」
もしかしたら、今回の戦争の英雄になれるかもしれないな。