外伝 Ⅷ 勇者暴走②
「ラセルくん、何を作るの?」
今日の食事係である俺は、隊から離れ、獲物を探した。
日持ちのする食料はすでに切れている。そのためシェリム隊はここまでずっと食事係を順番に回しながら、野生の獣や魚を取って、飢えを凌いでいた。
だが、森全体がフォレストサーペントの巣になっていたのは大きい。大概の大型の生物が逃げ出し、小動物も穴蔵からなかなか出てこようとしない。
だから、ここのところ食草や小さな川魚ばかりだ。俺としても体力が付く食事がしたいところだった。
栄養価が足りないと、成長にも響いてくるしな。栄養価たっぷりの食事が成長に必要なのは、ラフィナを見ればわかるだろう。
「なんか言った、ラセルくん?」
「何も……。それより何故ついてくるんだ? お前は食事係じゃないだろ?」
「わたしはラセルくんの保護者係だから当然でしょ?」
保護者係ってなんだよ。誰もそんなこと頼んでいないのだが……。あと、その首を傾げて「何を言ってるの?」って顔をやめろ。普通に腹が立つ。
「それで何を作るの? 鹿かなあ、猪かなあ。でも、うさぎさんはやめてほしいなあ。悲しくなるから」
「フォレストサーペントの巣だった森に、普通の野生動物がいるはずないだろ?」
「そうなのよねぇ。なら、うさぎさんも仕方ないか。あれでおいしいし」
ラフィナはガックリと肩を落とす。
ツッコみどころは色々あるが、いちいち反応してたら、身が持たない。そもそもラフィナとまともに会話したら、疲れるだけだ。
「だから、俺が狙うのはあれだ」
「あれって」
ラフィナは俺が指を向ける先を見つめる。
そこには大きな巨木があった。
陽は沈みきり、薄暮の空が広がっている。
森の中はすでに真っ暗になっていて、視界が悪くなっていた。
だが、目の前の巨木の枝葉に目をこらすと、宝石を2つ並べたような瞳がこちらを見ていることに気づく。
「ひっ! フォレストサーペント!!」
次の瞬間、フォレストサーペントを大きく口を開けて威嚇する。
シー、という音を立てて、遅いかかってきた。
悲鳴を上げるラフィナを、俺は担ぎ上げ、フォレストサーペントの初撃を躱す。
「ここが魔獣の巣だということを忘れるなよ、ラフィナ」
「う、うん。ありがとう、ラセルくん」
ラフィナは素直に頷く。
そのラフィナを立たせると、改めてフォレストサーペントを見上げる。
キングサーペントほどではないが、なかなか大きい個体だ。
「大きい……。まだこんなフォレストサーペントが残っていたなんて」
「なかなかいい獲物だな」
「へ? 獲物??」
横のラフィナの頭に「?」マークが浮かぶ。
それよりも先に俺は飛び出していた。反応したのはフォレスサーペントだ。牙を剥きだし、向かってきた人間の子どもへと蛇頭を伸ばしてくる。
俺は攻撃をかいくぐり、振り向きざまに魔法を放った。
【落雷】!!
青い閃光がフォレストサーペントを貫く。
雷撃を諸に浴びた魔物は青白く光る。何か身が焼けたような臭いが漂ってくると、俺は魔法を解いた。
巨体はそのまま地面に倒れる。
ピクピクと痙攣していた。
「まだ生きてる?」
「半死半生といったところだな。だが、雷撃を受けては動けまい」
「殺さないの?」
「殺す? そんなわけないだろ。大事な獲物なのに」
「獲物って……。もしかして、ラセルくん……、魔獣を食べるつもり!?」
ラフィナが叫ぶ。
こいつ、俺がさっき言ったことを忘れているな。
魔獣の住処だと言ってるだろ。やれやれ……。
「その通りだが」
「え? え? 魔獣を食べられるの?」
「ん? 普通に食べることができるぞ。知らないのか?」
「知らないよ。むしろ知りたくもなかったよ! そもそも魔獣って、完全停止すると消えちゃうのに」
「ああ。だが、完全停止するまで時間があるだろ。その間に牙や角なんかを素材として取るじゃないか。それと同じだ」
「同じだって……。鱗とかならわかるけど、魔獣のお肉を食べるってことでしょ?」
「そうだが……。心配するな。解体は俺がやる」
今日は俺が食事係だからな。
◆◇◆◇◆
「フォレストサーペントだと!!」
シェリム隊の夜営地に戻り、俺が報告すると、デグナンが報告を聞いて叫んだ。
まったく……。
ラフィナにしても、デグナンにしても。どうしてシェリム隊には声のでかい奴が2人もいるんだ。
ここが魔獣の住処だということを何度も言わせるんだよ。
俺が肩を竦めようとすると、呆れたのは向こうも同じのようだ。
「かーっ! これだからお子様は……。魔獣なんて食べられるわけないだろ! ラフィナ! お前がついていながら何やってんだ」
「だって、ラセルくんが……」
ラフィナは口を尖らせる。
「別に嫌なら食べてくれなくても構わない。一応、食草も取ってきたしな」
「ああ。そうさせてもらうぜ」
「ただ……、俺が解体した魔獣を見てからにするんだな」
俺は【収納】から、解体したフォレストサーペントの肉を取り出した。
「なっ……」
「へぇ……」
「これは」
ラフィナと俺を除くシェリム隊の一同が息を呑む。
大きな葉にくるまれていたのは、綺麗な霜降り肉だ。
それも隊の誰も見たことがないほど分厚い。
赤身はルビーのように綺麗で、脂肪分は雲のようにフワフワして見える。
見るからにおいしそうだった。
「これが魔獣の肉なのかよ」
「ああ。信じられないな」
「隊長も食べたことないんですか?」
ラフィナの質問に、シェリムは首を振った。
「いや……。試みたものがいるようだが、あまりおいしくなかった、と。だが、これは……!」
肉は肉でも、動物によって美味かそうでないかは出てくるように、魔獣にもそういうのはある。
「フォレスサーペントはその中でもうまい方だぞ」
「お前、魔獣なんてどこで食べてきたんだよ」
「デグナンくん、それは言っちゃダメ。魔獣を食べなければ生きていけなかったぐらい、ラセルくんは辛い人生を送ってきたってことだよ」
ラフィナが勝手に泣き出す。
もういいか。
そろそろ飯を作りたいんだが……。
作るといっても、大したことはしない。
すでに魔法で血抜きを終え、軽く塩を振って馴染ませた後、手頃なサイズに切った肉を平鍋に並べていく。
そこにハーブと大蒜を入れて香り付けする。すると、いい香りが漂ってきた。
「いい匂い……」
さっきまでごちゃごちゃ言っていたラフィナがナイフとフォークを握りしめて、声を唸らせる。
ちなみに食器一式は俺の【収納】の中に入っていたものだ。
【魔導士】の【収納】はかなり便利な代物で、人数分ぐらいの食料や装備を入れることができる。
魔力量によっては、さらに巨大なものを収納することも可能だ。
【魔導士】はこうした隊の中での最強の攻撃力を持つと同時に、隊の補給を支える重要なポジションを担っているのである。
さて料理の方に話を戻そう。
「いい感じで焼き目がついてきたな」
隊長のシェリムもまた息を呑んだ。
本狂いのレンも珍しく読んでいた本から顔を上げて、こちらを見ていた。
「最後に魚醤をかけて……」
フォレストサーペントのステーキの出来上がりだ。









