外伝 Ⅶ 賢者の帰還④
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「ごほっ! ごほっ!!」
シェリム隊のリーダーは咳き込む。
挨拶した時もそうだが、随分と体調が悪そうだ。
顔色も青白く、目の隈も濃い。
「リーダー、大丈夫ですか?」
「大丈……ごほっ! ごほっ!!」
また咳き込んだ。次第に息が荒くなっていくと、足をもつれさせる。
倒れることはなかったが、やはり体調は芳しくないようだ。
ここまで来て、こういうのもなんだが、このリーダーで大丈夫だろうか?
「一旦休んだ方がいいんじゃないですか?」
「ダメよ。作戦の日時は決まってる。タイミングを合わせなければ、挟撃作戦は失敗してしまうわ」
リーダーはまだ前に進もうとする。
すると、335は別の方向から疑問を呈した。
「でもよ。主力陣営が戦っている気配が全然しないんだよなあ。オレらの他にも陽動部隊がいるんだろ。そいつらはどこへ行ったんだよ?」
実は少し前から気になっていた。
森の中では、木々が音を遮断して周りで起こっていることが聞こえなくなるものだが、それにしても静か過ぎる。物音1つしない。
リーダーが張った【遮断結界】のせいかとも考えたが、これは結界内の音を外に響かせない職業魔法である。だから、俺たちには結界外の音が聞こえているはずだ。
そして何より俺たち以外に、陽動部隊の姿のないことがおかしい。
完璧な挟撃作戦といえど、俺たちだけでは魔獣に対してまったく圧力にならない。
「一旦退いた方がいい。なんか変だ」
「今回ばかりはクソガキの言う通りだな。なんか変じゃねぇか? やっぱり」
「後退する? その方がいい。本がいいところなんだ」
「ダメよ!!」
リーダーはきっぱりと叫んだ。
「この作戦は必ず完遂する。独断であたしたちが後退すれば、それこそ多くの将兵が失うことになるわ」
「けど――――」
「くどいぞ、335番」
その時だった。
リーダーは突然吐血する。
胸を押さえて蹲った。
『リーダー!!』
ラシュアと335が叫ぶ。
やばい! 今のはまずい。
おそらくリーダーの意識が一瞬途切れたのだろう。わずかな間だったが、それによって【遮断結界】の効力がなくなってしまった。
加えて、ラシュアと335の叫び声。
もしかしたら、聞かれたかもしれない。
「【遮断結界】が……!」
「リーダー、早く貼り直せ」
「全員、声を潜めろ」
というか喋るな。
間違いなく気づかれるぞ。
リーダーは手を伸ばす。
【遮断結界】を貼り直そうとするが、うまく集中できていない。
一体、リーダーに何が起こってるんだ?
「ごふっ!」
リーダーは再び蹲る。
地面に点々と血の痕が滲んだ。
「何をやってんだよ、リーダー」
「ちょ! 静かにして」
「お前が一番うるさいんだよ!!」
いや……。もう静かにしても遅い。
すでに俺たちのことを認識されたらしい。
『ガララララララ……』
尻尾を擦って出る奇妙な音が聞こえてくる。
次第に近づいてくるのを感じると、自然と隊の空気は冷たくなっていった。
息が詰まる中、俺たちは東を見つめる。それは音が聞こえる方だ。
森の中を縫うように大きな影が蠢いている。さらに一対の怪しげな光が見えた。
毒沼にも似た緑色の体皮。
そして大きさと、尻尾の器官を擦り合わせて出る音。
間違いない。
フォレストサーペントだ。
「1匹だけかな?」
「だったら、いけるんじゃね? 先制攻撃すれば」
ラシュアと335は勝手に作戦を決めてしまう。
だが、リーダーは使い物にならない。
激しく息を吐き出すだけだ。
俺たちでやるしかないか。
偶然とはいえ、藪を突いてみたがたった1匹とはな。
そもそもこの森にフォレストサーペントがいるのか?
「くそ! ここまでか?」
リーダーは地面に手をつき、蹲る。
「リーダー、諦めないで」
「そうだぜ! 相手は1匹だ。これぐらいオレたちでも……」
「ああ。お前たちの言う通りだ。諦めるわけにはいかないね」
「リーダー?」
再びリーダーは立ち上がる。
胸を押さえ、苦しそうに顔を歪ませてだ。
そして、魔法を詠唱する。
今さら【遮断結界】を使うのかと思ったが、違った。
リーダーは隠していた腕を捲る。
現れたのはリーダーの手とは明らかに違う人間の腕だった。
「それって……! カタメさんと同じ!」
「まさか……」
【挑発】!!
リーダーは詠唱する。
それは【探索者】の魔法ではない。【学者】の魔法だ。
その効果は魔獣をおびき寄せるというもの。魔力が強ければ範囲は広く、達人ともなれば、この森一帯を魔獣を呼び寄せることもできる。
どういうことだ?
ここで魔獣を呼び寄せるなんて……。
まさか……!!
『ガララララララ!!』
再びフォレストサーペントの特異な音が聞こえた。
それも別方向からだ。
しかも、1体だけじゃない。
「おい! 東からもきたぞ」
「北も」
「西にもいるよ」
あらゆる方向から報告が上がってくる。
5、6匹? いや、もっとか。
ざっと見ても、10匹はいる。
すでに取り囲まれていた。
四面楚歌の状況の中で、俺の頭にあるシナリオが思い浮かぶ。
「ぐふっ!」
ついにリーダーは膝を突く。
俺はそのリーダーに尋ねた。
「あんた、まさか……」
すると、リーダーは口角を上げるのだった。