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外伝 Ⅶ 賢者の帰還③

☆★☆★ 単行本2巻 発売!! ☆★☆★


1月19日には単行本2巻が発売されます。

猫猫猫先生の書き下ろしおまけ漫画に加えて、色々おまけがついているので、

是非お買い上げください。


挿絵(By みてみん)

 次の作戦は北の森に巣くったフォレストサーペントの掃討作戦である。


 現在、人類は大きく分けて2つの部隊に分かれていた。


 1つは俺たちが配属された野営地、もう1つは北の森のさらに北に陣を敷く主力陣営である。


 元々俺たちが今いる野営地は、主力陣営の後方部隊。つまり食糧、武器、薬などを届ける補給部隊だった。

 各地に細やかに補給部隊の野営地を設置することによって、魔族と戦う主力陣営を支えてきたのだ。


 それ自体は悪いことではない。

 軍において兵站は何よりの生命線。

 それを厚く、線路を確保することは非常に望ましい。

 当然の戦略だと思う。


 だが、優秀ゆえに魔族たちに付け狙われたといっても過言ではない。


 魔族は主力と補給部隊の間に、大量の魔獣を放ち、主力と補給部隊の分断を放ったのだ。


 これも定石だ。しかも、魔獣ならば魔族の戦力として痛くない。補給部隊を手厚くした人類の作戦も見事ではあるが、魔族が打った手も絶妙と言わざるを得ないだろう。


 その後、魔族は主力陣営と会敵。

 今のところ、どのような戦況になっているかはわからないが、主力陣営は後退し、補給部隊と合流する動きがないことからも、すでに全滅したか、後方に配置されたフォレストサーペントを掃討する暇もないかのどちらかだと思われる。


 現状、補給部隊がやることは2つだ。


 主力陣営を見捨てて後退するか。

 主力と比べて圧倒的に戦力の足りない補給部隊で、フォレストサーペントの群れに突っ込むか。


 そして、補給部隊というよりは後方の大本営は後者を選んだらしい。

 人員を送ると約束したそうだが、送られてきたのは新米(ひよっこ)だというわけだ。

 補給部隊の部隊長の落胆ぶりは相当なものだったろう。


 しかし、このまま手をこまねいて見ているわけにはいかない。すでにトップはGOを出している。主力陣営が全滅する前に、フォレストサーペントを駆逐しなければならない。


 そこで作戦司令部が出してきた作戦はこうだ。


 補給部隊の中にいる【戦士(ウォーリア)】、【鍛冶師(ブラックスミス)】、【魔導士(ウィザード)】をいるだけ全部掻き集めて、掃討部隊を新たに作る。これが主力だ。


 そして【探索者(シーカー)】、【鍛冶師(ブラックスミス)】は、陽動部隊だ。陽動といっても、こちらが作戦の中でももっとも重要――つまり大役である。


 作戦はこうだ。


 主力がフォレストサーペントのいる森の南側から接敵し、交戦。魔獣を南側に引きつけている間に、陽動部隊が森の側面からアプローチをして、魔獣の裏側を付く。

 主力と挟撃し、一気にフォレストサーペントを駆除するというわけだ。


 すでに俺たちシェリム隊は森の西側を通り、フォレストサーペントの背後につこうとしていた。

 主力が引きつけてくれているからか、フォレストサーペントの姿は少ない。


 俺としてはもっと魔獣がいてほしいものだがな。フォレストサーペントといえば、Bランクの魔獣である。さほどおいしい相手ではないが、大量にいるとなると話は別だ。


 それにおまけもついてくるだろうからな。


「いきなり大役って聞いたから、どうなることかと思ったけど、案外魔獣と遭わないと、結構楽かも」


 ラシュアは相変わらず遠足気分だ。

 278番はともかく、335番はかなり落ち着かない様子。リーダーにしても、随分と顔が硬かった。

 部隊の空気は重い。それは仕方ないし、緩んでいるよりはいい。そういう意味ではラシュアのあっけらかんとしたメンタルは、なかなか貴重といえる。


「ぶは……! 楽って……。お前、戦場のど真ん中でよくそんなことが言えるな」


 335は息を切らしながら、ラシュアを睨んだ。

 通常装備に加えて、335は台車を引いている。そこには火薬が詰まった樽が載せられていた。

 この火薬を使って森を燃やし、炎の壁を使って、フォレストサーペントを追い込むつもりなのだ。


「ほら。頑張って! オー・エス! オー・エス!」


「馬鹿! 騒ぐな!! 仮にもオレたちは陽動部隊なんだぞ!!」


 335は怒鳴り散らす。

 お前が一番うるさい。


 ちなみに何故335が台車を引く係になったかというと、【鍛冶師(ブラックスミス)】には【軽量化】という職業魔法があるからだ。


 名前の通り、物体の重量を軽くする魔法である。


 335はその魔法によって、馬なら2頭。大人8~10人ぐらいの重量を引いている。


 といっても、重さがすべてなくなるわけではない。

 熟練度や魔力の込め方によって、その重量は変わるのだ。


「悪いわね、335番」


 唯一慮ったのは、意外にもシェリム隊のリーダーだった。あくまでイメージだが、軍人の上官というのは厳しいのが当たり前だ。今のように私語をしていれば、叱ってしかるべきだろう。


 リーダーの行為はラシュアにとっても意外だったらしい。


「なんか優しそうなリーダーさんで良かったね、ラセルくん」


「別に……。リーダーの性格なんてどうでもいい。的確な判断ができれば、俺は問題ないと思ってる」


「相変わらず人には興味ないんだから」


「お前が興味がありすぎるんだよ、ラシュア」


 そのラシュアはさらに声を潜めて、俺に尋ねた。


「ところで、どう? ラセルくん的には今回の作戦はうまく行くと思う?」


「机上においては問題ない。挟撃作戦も利に叶っている」


 というのも、フォレストサーペントは非常に大きな蛇だが、その動きは非常にゆっくりだ。

 特に森の中で回頭することが下手な魔獣で、有り体にいえば背後から攻撃されれば対応できない。


 主力がフォレストサーペントの頭を南に向けていれば、北からアプローチする俺たちは楽々その喉元に近づけるという寸法である。


 だから、机上においてはこの作戦に穴はない。ただ実戦と机上は違う。何かイレギュラーが起これば、この作戦は一気に瓦解してしまう。


 安心はできないのだ。


「それにしても、主力は本当に戦ってるのかよ? 全然何も聞こえないぞ」


 再び335はがなる。


「いきなり魔獣が出てきたりしないよね」


 さっきまで「楽」とか言っていたラシュアが縮み上がる。


「大丈夫だ。我々は見つからないよ。さっきから【遮断結界】を使っているからね」


 リーダーが隊を諫める。


 【探索者(シーカー)】の上級魔法だ。【気配遮断】は自分にしか効果はないが、【遮断結界】はある一定の範囲の物音や気配を消すことができる。

 俺たちが魔獣のひしめく森のど真ん中で喚いていられるのも、その恩恵というわけだ。


「痛っ!」


 ラシュアは何かに躓いて倒れる。

 盛大に頭からいったらしい。

 思いっきりおでこを切って、顔中が血だらけになっていた。

 意識はあるようだが、代わりに蝉のようにうるさい喚き声が聞こえてくる。


「うぇええええんん! 痛いよぉ。血がいっぱい出てるよぉ。ラセルくん、なんとかしてぇ」


「何とかして、と言われてもなあ……」


 俺は【聖職者(クレリック)】でも何でもないんだが……。

 というか、軍人がその程度の傷でビービー泣くな。

 子どもじゃあるまいし。お前、俺より年上だろうが。


「278番。悪いけど、回復してあげて」


 困ったリーダーは、作戦を開始後、1度も喋っていない278番に声をかける。

 存在感が薄すぎて忘れていた。

 それにしても、任務中だというのにまだ本を読んでいる。

 よっぽどの愛好家なのだな。


「278番。聞いてる?」


「聞いてますよ。もう治しましたから、話しかけないでください。本がいいところなので」


「え? あれ? 血が止まってる。傷も塞がってる。……いつの間に?」


 ラシュアは質問するが、278番は答えない。本に夢中になっている。


 もしかして、今のって詠唱破棄か? 【聖職者(クレリック)】の?

 他人が使っているのを初めて見た。


 【詠唱破棄】は【聖職者(クレリック)】の上級魔法だ。


 魔法といっても、それをスキルポイントと交換するだけで常時効果がある魔法で、詠唱しなくても魔法が使えるというものだ。


 だが、効果は微妙だ。

 確かに詠唱によってどんな魔法が放たれるかわからないのと、詠唱時間がなくなるというメリットは大きい。

 しかし、相手との駆け引きが物を言う【戦士(ウォーリア)】などの前衛タイプならいざ知らず、【聖職者(クレリック)】は後衛の職業魔法、加えて詠唱時間が長い魔法はさほど多いわけではない。


 上級魔法ということもあり、ポイントを大量消費することから、倦厭する【聖職者(クレリック)】がほとんどなのだ。


 そんな理由から習得する【聖職者(クレリック)】の使い手は稀で、この俺自身でさえ習得した人間を見るのが初めてなぐらいだ。


 しかも、かなりのスキルポイントが必要な上級魔法を、比較的若い段階で取るとは。278番って意外とただ者ではなかったりするのだろうか。


 いや、それよりも【詠唱破棄】を何故習得しようとしたか、その理由が知りたかった。

 もしかして、俺も知らない有用な使い方があるのかもしれない。


「なんで【詠唱破棄】なんて習得したんですか?」


 278番は俺の方を見ずに、パラッと本を捲ったあと、こう言った。


「あんまり喋りたくないから……」


 意外な理由に俺は固まる。


 もしかして、この隊の中でこいつが1番おかしな奴かもしれない。


1月10日に拙作原作『ゼロスキルの料理番5』も発売されます。

そちらも是非お買い上げください。


挿絵(By みてみん)

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