外伝Ⅵ カタメの男⑧
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
本日コミカライズが更新されました。
ついにイッカクタイガーとの対戦です。
手に汗握るラセルの狩りをお楽しみ下さい。
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こちらもよしなに。
「【竜皇大火】はいいとして、研究室まで吹き飛んでないだろうな」
カタメは半ば呆れながら、首を振った。
しかし、その心配はなさそうだ。
「見ろ、カタメ」
鬱蒼とした森は焼き払われ、濃い瘴気も消失した。おかげで辺りの視界はクリアになる。
そして現れたのは、如何にも政府の建物らしい四角ばった研究所だった。その周りには、かなりレベルの高い【聖職者】が貼ったと思われる結界が張られている。
「俺の【竜皇大火】を耐えきるとはな。なかなかの【結界】だ」
「そのようだな」
「さて、侵入方法はあるのだろうな。そのためにお前を連れてきたのだぞ」
「そうだったのか。ならば、【竜皇大火】を撃つ前に相談してくれ。オレはもっと静かに入る予定だったのだ」
「王都であれだけ派手に暴れておいて、今さら隠密もクソもない気がするがな。それで話は戻るが、どうやって入る?」
「問題ない。向こうが招いてくれるようだぞ」
すると、研究所の周りに貼られていた結界が消えて行く。
「なるほど。歓迎してくれているわけか」
「元実験体と、上級魔法の【竜皇大火】を撃つ子どもとあらば、目の色を変えて当然だろう。ゲルドがこれを見ているなら、興味を持って当然だ」
図らずとも、俺の行動が向こうの興味を誘ったわけか。
如何にも【学者】の職人らしい反応だ。
「行くぞ」
俺とカタメは歩き出した。
◆◇◆◇◆
「ひょひょひょ……」
ゲルドは研究室で笑った。
その目は薄らと輝きを帯び、さらに眼球には侵入者の姿が映し出されていた。
【学者】の魔法【念視】である。
物体を透過し、遠くを見られる魔法によって、外の様子をずっと窺っていたのだ。
「まさか向こうからやって来てくれるとはな。飛んで火に入る夏の虫というヤツか!」
そう言って、ゲルドはまた笑った。
彼の研究室には今、様々なキメラが補完されている。人ならざるものもあれば、四肢を移植された人間の素体も存在する。
すべて保存液が入った巨大なビーカーの中で揺られている。何本も並んだビーカーの姿は、実に壮観だ。
「笑ってられるのも今のうちよ、おじさん!」
異形の生物がゲルドの研究室に並ぶ中、1人普通に意識あるものがいた。
ラシュアである。
両腕を縛られた状態で、天井からつり下げられていたが、比較的元気だった。
「ラセルくんは小さいけど、めちゃくちゃ強いんだから。あのミリアス司令官も認めているんだからね」
「ほう……。あのミリアスが……。それはそれで楽しみよな」
「あなたのひどい行いも、いつか白日の下にさらされるわ。『ごめんなさい』をするなら今のうちだよ――――」
「そろそろ黙れ、小娘」
ゲルドはラシュアの方を掴む。
「特別に教えておいてやろう。この研究室にはわしの他に研究員はいない。それは何故かわかるか?」
「…………まさか」
「そうだ! 全員、わしの実験体となった。ネルワルトのように魔法を移植された者もおるが、人ならざる存在になった者もある。それを魔物と勘違いして、死んだヤツもいるがの」
「もしかして……ここにいるのって……」
元は人間……?
ラシュアは息を飲む。
その横でゲルドは注射器に怪しげな溶液を吸わせる。適量になるように調整すると、再びラシュアを見て笑った。
「さて、お前はどんな化け物に変身するかな」
「い、いやああああああああ!!」
「悲鳴を上げたところで無駄だ。さっきも言ったが、ここに人間はいない。あの2人に期待しても無駄だぞ。ここの実験体は強い。たとえ、上級魔法を使えようが…………」
「いや! イヤ!! ラセルくん!!」
助けて!!
ドォォオオオオンンンンンン!!
突如、研究室に爆発音が鳴り響く。
驚いたゲルドは、持っていた注射器を落としてしまった。硬い音を立てて、砕け散ると、溶液が広がった。
濛々と広がる煙を見て、腰を抜かしたゲルドは叫ぶ。
「な、な、なんじゃぁぁぁああ!!」
老研究者の前に現れたのは、1人の大柄の男と、それに正対するように小さな少年であった。
◆◇◆◇◆
「な! 貴様ら! どうやって? 研究室には、実験体が……。この部屋だって、分厚い壁に囲まれていて、入口を見つけるのも難しいのに!!」
俺が1187研究室と思われる場所に侵入すると、ゲルドは喚き散らした。
中は如何にも狂学者といった光景が広がっている。
やや既視感があるのは、俺も前世でこういう研究をしていたからだろう。といっても、俺が研究していたのは、専ら魔獣の方だったがな。
誓って言うが、人間を素体としたのは、俺以外にいない。
「実験体? 分厚い壁? なんのことだ? 俺はお前の部屋に行くため、全部の部屋をぶちこわして、最短距離でやってきただけだが」
俺は後ろを指し示し、穴の空いた壁を見せる。
それが入口まで続いていた。
「まさか一直線で行くとは……」
カタメも横で呆れていた。
なんだ? 別に悪いことではないだろう。
「な、な、なんばしよっっっとかああああああああああああ!!」
ついにゲルドは絶叫する。
そんなに口を開けて、顎が外れないのだろうか。ともかくうるさかった。
「き、き、貴様! わしの研究所を……」
「怒るなよ。招いたのはそちらの方だろう」
「壁に穴を開けていいとは言ってない!」
「養護院育ちでな。院長にもマナーのことでよく叱られた」
「どこまでも虚仮にしおって! こうなったら……」
その時だった。
研究室の魔法灯が強く輝く。
俺の顔がはっきり映し出されると、突如、ゲルドは固まった。
「あ、あなた様は…………」