外伝Ⅵ カタメの男⑥
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『劣等職の最強賢者』単行本1巻、お買い上げいただきありがとうございます。
裏表紙は確認していただけましたか?
めっちゃかわいい妹が拝めるので、まだの方は是非!
◆◇◆◇ ラシュア ◆◇◆◇◆
「ラセルくーん! どこー?」
他称ラセルこと172番がカタメと交戦している一方、ラシュアは貴族の屋敷に残っていた。
更衣室で死体を見つけた後、ラセルは風を纏ったかのように飛び出していき、それっきり連絡が取れなくなってしまったのである。
その後、どうやらカタメが現れたらしくパーティーどころではなくなっていた。
出席者は安全が確保されるまで大ホールで留め置かれているが、ラシュアだけこっそり抜けだし、ラセルを探している。
「どうしよう……。ラセルくんいなくなっちゃった。もう屋敷にいないかなあ。ミリアス司令官に聞きたいけど、お忙しそうだし」
先ほど作戦の舞台となったと思われる応接室に行ったが、ラセルの姿はなかった。
ミリアス司令官も上級武官に囲まれながら、どこか行ってしまった。
ラシュアはとにかく貴族の屋敷を探し回ることにしたが、気配はない。
「もう! なんで私って【魔導士】なんだろう。この職業魔法って、戦闘以外に役に立たないのよね。【探索者】だったらすぐにラセルくんを探せるのに。あっ! そうか。【探索者】の人に、ラセルくんを捜してもらえばいいんだ!」
才能がありながら、生来から能天気なラシュアは「私、あったまいい!」と自画自賛しながら、大手を振って屋敷の廊下を歩き始める。
「何!! 見失った!?」
角を曲がろうとした時、怒鳴り声が聞こえてきて、ラシュアは思わず身を震わせる。
反射的に角の壁に貼り付き、そっと除くと、白髪の老人が怒鳴っていた。
周りには誰もいない。一見、独り言に見えるが、どうやら【探索者】の魔法である【移声】を受けて、遠くにいる人間と喋っているようだ。
「はっ? 子どもが邪魔した?? 寝ぼけている暇があったら、とっとと16番を捜し出せ!」
(子ども? もしかしてラセルくんのことかな? 誰かは知らないけど、怪しい人だよね)
ここで悪いヤツをやっつければ、ラセルが見直してくれるかもしれない。
そんな安っぽく甘い考えがラシュアの脳裏によぎる。
1度心を落ち着けた少女は、タイミングを見計らって飛び出すことにした。
「何をしておるんだ、お前さん」
気付いた時には、老人は神経質な顔をラシュアに向けていた。
その瞳は青く光っている。
「まさか……! 【未来視】!!」
名前の通り、未来に起こる現象を視ることができる【学者】の魔法である。
「くっ!!」
ラシュアは手を掲げる。
訓練の賜物か。虚を突かれても、身体が勝手に動く。
【初炎】!!
炎が逆巻く。
だが、老人は炎に巻かれてピンピンしていた。
「うそ! 効かない?」
「ほう……。貴重な【魔導士】かこれは良い掘り出し物だ。娘、国のため人類のため、その力を役立たせてもらうぞ」
「なに……を…………」
【洗脳】
瞬間、ラシュアを襲ったのは漣のように襲いかかってきた音の波だった。音は彼女の聴覚を刺激し、大量の情報を脳に流す。
ラシュアはたちまち頭が割れるような痛みに押され、悶え苦しむ。
(ラセル…………くん……)
意識が途切れる一瞬、彼女の脳裏に軍服を着た10歳の少年が映った。
◆◇◆◇◆
「はっ!」
カタメはカッと瞼を広げる。
しばらく視線を泳がせた後、向かいに立っていた俺の姿を認めた。
場所は昼間、ラシュアとお茶した喫茶店の倉庫だ。珈琲の豆や紅茶の茶葉が入った袋があり、良い香りが漂っている。
魔導具を使って、部屋の温度を一定に保っているのだろう。ひんやりとして涼しかった。
比較的狭い倉庫の中で、俺はカタメを椅子に括り付け、さらに魔法が使えないようになる特殊な枷をはめて拘束していた。
しばらく身じろぎしていたが、俺の隙のない拘束方法を確かめると、観念したように項垂れた。
「殺せ……」
「そうはいかない。お前からまだ二系統の職業魔法を使う方法を聞いていないからな。……と言っても、だいたいのことはわかったがな」
「なんだと?」
「お前の両腕……。それぞれ肌の色が微妙に違う。そして肩口の縫合痕。それ、お前の腕ではないな」
カタメは俺の質問に答えない。
目をそらし、黙り込む。
「隠したところで状況は変わらんぞ」
俺はおもむろにナイフを出す。
拘束していた縄を切り始める。最後に枷を外した。
俺の行動に、カタメは驚く。
「何のつもりだ?」
「相手が態度を硬化したままでは、聞いてもらいたい話も聞いてくれないと思っただけだ」
「聞いてもらいたい話だと?」
「まずお前の腕だが、他の軍人のものだな。おそらく【鍛冶師】の魔法を起動したままの人間の腕を生きながらに切り裂き、お前に移植した。そうだな」
「何故、それを知っている!?」
「やっぱりな」
2系統の魔法が使う【戦士】だと聞いて、色めき立ってしまった俺が馬鹿だった。
一定の職業魔法だけを使うなら、実は2系統の魔法を使うことができる。
それが先ほど俺が言った方法だ。
起動状態にある肉体の一部を、他の職業魔法者に移植するもの。起動状態にある魔法しか使えないが、一応他の魔法を使える。実にアナログなやり方だが、確実だ。
――で、なんで俺がこんなことを知っているかというと、若気の至りというか【聖職者】の時に、1度試したことがあったのだ。
今振り返っても、あの時の俺はどうかしていた。極めるといっても、回復や補助しか能力がない【聖職者】が高ランクの魔獣を倒すのが難しい。戦力ほしさに試した狗肉の策だったわけだが、結局我に返って止めることにした。
2度とすまいと、簡単な暗示をかけて記憶を封印していたのだが、同じことをする愚か者を見て、ついに自ら記憶を呼び起こしてしまったらしい。
今考えても恥ずかしい限りだ。
だが、俺の他にも馬鹿なことを考えるヤツがいるとはな。
「貴様……。まさか1187研究室の職員か?」
「子どもの俺なんかを雇うと思うか。むしろ被害者側だろ?」
実際、人体実験にされそうになったことが過去にあったしな。
俺の指摘は憤るカタメを冷静にさせたらしい。俺はそのまま話を続けた。
「1187研究室は、お前をそんな身体にした軍の実験施設か何かか? その室長が、あの白髪の老人……確かゲルドと言ったか」
「ああ。そうだ」
ついにカタメは開き直る。
「それで、小僧……。オレからそれを聞いてどうするつもりだ?」
カタメの隻眼が俺を射貫くと、俺は拳を握った。
「どうする? 簡単なことだ。叩き潰す」
俺の言葉にカタメは、半ば口を開き驚いていた。
「職業魔法を探求することは決して悪いことではない。だが、他人の命を持て遊ぶようなことは決してあってはならない。そういう人間ほど、こと自分の命となると守りに入る。せめて人を傷付けるなら、まず自分の命を傷付ける覚悟を見せてからにしろといいたい」
「お、お前……」
「なんだ?」
「本当は何歳だ?」
「それを知ってどうする、カタメ。いや、ネルワルト元軍曹。……まあ、そういうわけで俺はその1187研究室に行く」
「軍の秘密施設だぞ! 1人で行くつもりか?」
「生憎と相棒がいたのだが、実に間抜けなヤツでな。その関係者に捕まってしまったようだが、ついでに助けに行く」
「相棒? 女か?」
「そのゲスな質問は聞かなかったことにしてやろう」
俺がカタメを睨む。
すると、俺より遥かに背丈のある大柄な男は、広い肩幅を震わせて笑った。
「くくく……。あはははは! いいだろう。1187研究室の場所を教えてやろう。ただし、オレも一緒に行く」
「いいだろう。ひよっこの相棒よりは役に立ちそうだ」
俺もまた口角を上げるのだった。
新作『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』を投稿しました。ですが、序盤のざまぁを終えました。読みやすいところまで来ておりますので、こちらも是非よろしくお願いします(下記にリンク)