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外伝Ⅵ カタメの男⑤

☆★☆★ 本日発売日 ☆★☆★


無事、単行本1巻の発売日を迎えることができました。

是非ともお買い上げいただき、『劣等職の最強賢者』を広めていただけたら幸いです。

猫猫猫先生のオマケ漫画「いせかいてんせーらせるくん」も、是非楽しんでね。


挿絵(By みてみん)

◆◇◆◇ カタメ 視点 ◆◇◆◇



 ネルワルト元軍曹こと通称『カタメ』はすでにパーティー会場に潜入していた。


 衛兵に姿をやつすのは、最初から決めていた。賓客として潜入すれば、長身のカタメはどうしても目立ってしまうし、給仕や料理人は互いの顔を知っているからすぐにバレる。

 その点衛兵は、兜で顔を隠すことができるし、さらに言えば武装を持ち込むことも可能だ。


 屋敷の裏から侵入して、裏口を守っていた衛兵を無力化。そのまま遺体をロッカーに隠して、衛兵として潜入する。


(ここまでは完璧だ)


 後は極秘会議が行われる会議場を探すだけだ。

 すでに軍部最高司令官ミリアスの姿は、パーティー会場にはなかった。

 おそらく会議はすでに行われていると考えていいだろう。


 ただし屋敷は広い。

 どこで会議が行われるかは情報を得ることができなかった。


(だが、虱潰しに探している時間はないな)


 カタメは魔法を使う。


 【超感覚】


 一定時間、五感が鋭くなるという【戦士(ウォーリア)】の魔法だ。

 カタメは魔力を鼻の方に集中させて、嗅覚を強化する。

 屋敷に残る真新しい臭いを辿り、屋敷の奥へと進んでいく。途中何度か給仕とすれ違ったが、衛兵の鎧を着ているからか、疑う者はいなかった。

 死体は少々乱暴にロッカーの中に押し込んできたが、騒ぎになっていないということは、発見されていないのだろう。


 それでも不測の事態を想定しつつ、匂いを辿っていく。

 少なからず給仕がまだ出入りしているため、匂いの分別に時間はかかったが、問題なく痕を辿ることができた。


(ここか……)


 それらしい部屋の前に立つ。

 耳をそばだててみたが、人の気配はしない。


(【結界】に【遮音】を付与しているのか)


 極秘会議ならさもありなん。

 だが、その時会議場と思われる部屋で物音のようなものを聞いた。

 警戒心がマックスにまで引き上がる。撤退も考えたが、ここまで来てなんの成果も上げられないのでは、絶対に後悔すると考えた。


 意を決する。


 カタメは勢いよく部屋の中に飛び込む。

 だが、部屋の中は真っ暗だ。

 司令官はおろか人の姿すらいない。


(もしや罠か?)


 慎重な『殺人鬼(ザ・リッパー)』の脳裏に可能性がよぎる。

 踵を返そうとしたその時、奥で何かが蠢いたのが見えた。


「誰だ!」


 持っていた槍を構える。

 部屋の中にあったソファを見つめる。


「ご、ごめんなさい!」


 ソファの裏から出てきたのは、男の子だった。

 綺麗な子ども用のタキシードに、髪油で整えられた金髪。

 如何にも貴族の子息といった風情だが、それにしても随分と小さい。


(10歳? いや、もっと下か?)


 背丈の具合で歳を計る。

 その子どもの目には涙が滲んでいるようにも見える。


「ごめんなさい。友達とかくれんぼしてて。このお部屋の鍵が開いてたから」


「かくれんぼ……」


 カタメは「チッ!」と小さく舌を鳴らす。どうやら自分が追っていた匂いは、子どものものだったらしい。


 料理や洗濯の洗剤の匂いがする給仕の匂いが省いたら、子どもが出てきたというわけだ。

 自分の短絡的な行動に、少々嫌気が差したが、カタメは構えていた槍をおろした。


「ここは子どもが入っちゃダメだ。早くパーティー会場に戻りなさい」


「え~。でも、戻り方がわからないや。衛兵さん、パーティー会場まで送ってよ」


「衛兵さんは忙しいんだ。悪いが、ボク。君1人で戻ってくれないか?」


「じゃあ、ボクと遊んでよ。お兄さん」


 そう言うと、男の子はカタメの身体にタッチする。


「おじさんが鬼ね!」


 わーい、とはしゃぎながら部屋の奥へと走って行く。


「あ。こら!!」


(くそ! 付き合ってられるか!!)


 と言っても、放置しておくのもまずい。このまま騒がれるのも。

 カタメは一旦子どもを落ち着かせることにする。

 鬼ごっこに付き合いながら、子どもを捕まえようと近づく。


 だが、警戒心の強いカタメは、はたと気づいた。


(待て! ここに来るまで、どんな匂いがあった? オレは確かもっと複数の匂いを辿って――――)


 そこでカタメは気づく。

 自分が罠にはまったことを!


 バンッ!


 突如、背後の扉が閉まる。

 薄暗かった部屋に、魔法灯の明かりが灯り、カタメは一瞬目が眩んだ。

 焦点が合わない隻眼で見たのは、武装した衛士たちだった。


 次々と部屋を囲むように現れる。


「くそっ! 【探索者(シーカー)】の【消身】と【気配遮断】を使っていたのか!!」


 目が眩んでいたのは、1、2拍のことだ。

 だが、それだけの時間があれば、向こうには十分だった。

 あっという間に、カタメは取り囲まれる。

 屈強な衛兵たちに周りを固められる中で、カタメの前に司令官ミリアスが登場する。


「カタメ……。いや、ネルワルト元軍曹。チェックメイトだ」


 漂ってくる覇気。

 重厚な威厳を感じる声。

 犯罪者を前にしても、微塵も恐れていない度量。


 間違いない。


 軍司令部最高責任者ミリアス・フィン・マグナリヤで間違いなかった。


 しかし、彼だけではない。

 屈強な衛兵と、武闘派として名の知られているミリアスという陣容の中で一際異彩を放つ男がいた。

 その男は、カタメの殺意を浴びて「ひっ!」と悲鳴を上げておののいている。


 その顔を見た瞬間、動揺したカタメの心に火が灯った


「ゲルドォォォォオオオオオオ!!」


 カタメが叫んだと同時だった。

 衛兵たちの槍が一斉に動く。

 だが、槍は弾かれた。あるいは柄の部分からボッキリ折られる。

 カタメも無傷というわけではない。

 しかし、すべてに置いてかすり傷。

 まるで身体が鋼鉄化したかのようだった。


「ふむ。【身体鋼化】か」


 身体を鋼化する【戦士(ウォーリア)】の魔法である。


「まさか魔法銀の槍ですら、ほぼ傷付けることができないとは……。【鍛冶師(ブラックスミス)】の【硬度上昇】か。なるほど。報告にあった二系統の職業魔法を使うというのは、本当のことのようだな」


 横でカタメがゲルドと呼んだ男が怯えているのに対して、ミリアスは実に冷静に分析する。

 この態度に、カタメの表情がさらに硬化し、憤る。


「のんびり分析している暇などないぞ!!」


 カタメは持っていた槍にすかさず【硬度上昇】をかける。さらに槍の切っ先に【鋭化】を付与すると、ゆらりと槍を回した。


 勿論、その身体には【戦士(ウォーリア)】の【筋量強化】が付与されている。


 【鍛冶師(ブラックスミス)】の2つの魔法。さらに【戦士(ウォーリア)】の魔法。


 同時2系統に展開された魔法は、いとも簡単に囲んだ衛兵の鎧を切り裂き、胴を断つ。

 衛兵たちが崩れ、囲みが破られると、カタメは床を蹴った。


 【敏捷性上昇】


 さらに付け加える。

 向かった先はゲルドという老人であったが、立ちはだかったのはミリアスだ。


「なかなか見せてくれる。2系統の魔法の同時起動に加えて、四重起動とはな。敵でなければ、今すぐにでも英雄になれただろうに」


「どけ! ミリアス!!」


 カタメは槍を突き出す。

 ミリアスに触れる一瞬前、その槍は野菜を切るが如く乱切りにされていた。


「なっ!」


 それにはカタメも驚く。

 何故ならミリアスは剣を抜いていない。いや、剣がどこにあるかさえわからなかった。

 しかし、カタメには見えたのだ。

 ほんの一瞬、剣閃のようなものが見えたことを。

 あれは間違いなく剣の軌道だった。


(化け物か!!)


 カタメの身体に冷たい怖気が走る。

 それは幸運でもあった。

 頭に血が上った彼を冷静にさせたからだ。


 間違いなくミリアスとゲルドを倒すチャンスではある。だが、敵中にあって両方を殺すのは難しい。

 すでに自分が罠にはまっていることからも、最悪どちらも討ち果たせずに終わる公算もある。

 現実的に見て、退却なのだが、果たして今目の前の化け物が逃がしてくれるかどうかわからない。


(ん?)


 不意に火薬の臭いがした。

 直後、部屋の中に爆弾のような丸い玉が、目の前で弾む。

 導火線にはすでに火がついていた。


「しまった!」


 ポンッ! と軽い音がした瞬間、周りが真っ白になる。

 爆弾じゃない。煙幕だ。

 それに気づいた瞬間、ミリアスやゲルドを討つよりも、この場から撤退することを選ぶ。


 薄い煙が立ちこめる中で、窓を見つけると、カタメは迷わず飛び込んだ。

 場所は屋敷の三階である。

 下手をすれば、足を骨折しかねない。

 しかし、幸いにカタメの目に映ったのは、噴水だった。


 そこに飛び込み、落下の衝撃を和らげる。

 すぐに水中から顔を出すと、再びカタメは屋敷の塀を跳び越えて、王都の夜に紛れる。

 ミリアスもこういう事態を想定していたらしい。

 すぐに追っ手がかかると、あちこちで指示の声が響いた。


 一旦家の屋根伝いを走り、王都の南へと駆けて行く。


 誰も彼に追いつけない。

 本人もそう思っていた。


「おじさん、みっけ!」


 聞き覚えのある声に、カタメは反応する。

 息苦しい兜を脱ぎ、その凄絶な右目の傷をさらしながら、残った左目で目の前に立ちはだかった存在を睨んだ。


「子ども……」


 というと、訓練生172番は口角を上げるのだった。


コミカライズは末永いシリーズにしたいので、

買い支えていただけたら嬉しいです!

よろしくお願いします。


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