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外伝Ⅴ 視察②

☆★☆★ コミカライズ 更新 ☆★☆★

本日コミカライズが更新されました。

まだ懲りてないあの親父が、また悪さをしてるようです。

果たしてラセルはどう解決するのでしょうか?


挿絵(By みてみん)

「お前、何を言ってるんだ?」


 ふざけるな。それとも寝ぼけているのか?

 訓練中に的の前に現れたのは、お前の方だ。ご丁寧に【気配遮断】と【消身】を使ってな。


 どう考えても故意としか思えん。


 それに教官に当てたのは、俺の魔法じゃない。隣で同じ的を狙っていた女の【魔導士(ウィザード)】だ。


 怪我を負った教官(ぶた)の弁解は続いた。


「私は的を直そうとしたんだ。撃つなと忠告したのに、この172番が」


「待て! 俺はやってない!」


「ならば、お前以外に誰がいるというのだ?」


「それは――――」


 一瞬、横の女だと言いかけたが、俺は1度口を収めた。


 恐らくだが、これは俺を狙った茶番で間違いないだろう。

 横の女は巻き込まれただけに過ぎない。


 俺が狙われたのは、数々の態度に教官が業を煮やしたからだ。


 ここで女を差し出したとしても、難癖を付けて俺を犯人に仕立てあげる。たとえば、今動揺している女を強請ったりしてな。


 やれやれ……。


 相当憎まれたものだな。

 俺は真面目に訓練をしていただけなんだが。


「どうした? 何があった?」


 逡巡していると、騒然とする訓練場には似つかわしくない穏やかな声が、耳朶を打った。


 そして現れたのが、今回訓練場の視察に訪れていた総司令官閣下だったというわけだ。


「ミリアス司令官! こいつです! この者がそうです!!」


 突然、教官は俺を指差しつつ、司令官に近づいていく。その切羽詰まった表情を見て、思わず参謀や秘書官、案内役少佐ですら司令官の前に出て、守ろうとするが、それを制止したのは当の本人だった。


「ほう。では、この者が10歳の少年兵か。ははは、孫によく似ておるわ」


 ミリアスという司令官は「ははは」と笑った。

 孫って……。それは暗に俺が小さいと言いたいのか。


 じ、事実だが侮らないでもらいたいな。まだ成長期が来てないだけだ。


「はい。とても生意気な小僧でして。先ほども殺されそうになりました」


「殺され……。ほう、それは穏やかではないな」


「はい。相当なじゃじゃ馬でして」


 俺の方を振り返りながら、司令官は「ぐふふふ」とイヤらしい笑みを浮かべる。


「どうか。この172番の鼻っ柱折っていただけないでしょうか?」


「10歳の子どもと司令官を」

「馬鹿げています。訓練場のトラブルに司令官を巻き込まないでいただきたい」


 教官の頼みに、秘書官たちから異論が噴出した。


 しかし――――。


「良かろう」


『ミリアス司令官!?』


 秘書官たちは口を揃えたが、当の司令官はやる気だ。早速、白い軍服の上着を秘書官に預け、タイを取ると胸元を弛めた。


「本気ですか、司令官?」


「本気を出すかどうかは相手次第だろう。教官の話は本当であれば、彼は相当な使い手ということになる。1つ私はその力量を計るのも、仕事(しさつ)のうちというものだろう」


 本気か? と俺もまた疑ったが、どうやらよくあることのようだ。


 控えた秘書官や参謀が「こうなったらテコでも動かない」という顔をして、呆れている。


 やれやれ……。


 この時代にはまともな老人がいないのか。司令官に上り詰めたのだが、それなりに手練れであろうが、さすがに年を取りすぎだ。


 結局、この戦いは避けられず、俺と司令官は戦うことになったのだ。





 長い説明であったが、こうして今に至るというわけだ。


 完全に教官たちにはめられた。そもそもこの司令官も、今回の件が俺に対する報復だと気付いても良さそうなのに……。


 結局、司令官も馬鹿なのか、それとも知っていて茶番に乗っているのか。


 それを気取らせないぐらいには、強者のようだ。


 とはいえ、老人の冷や水でしかない。速攻で終わらせて、訓練に戻ることにしよう。


「172番君、君は【魔導士(ウィザード)】だね」


「はい」


「私が君の職業魔法を知っていて、君が私の職業魔法を知らないのは不公平だ。あらかじめ明かしておこう。私は【鍛冶師(ブラックスミス)】だ」


「そうですか。ご丁寧にどうも」


 わざわざ明かしてくれたところ悪いが、基本的に相手による職業魔法の自白は信じないことにしている。


 過去、それで騙されたことがあるからだ。


 特に【戦士(ウォーリア)】と【鍛冶師(ブラックスミス)】の職業魔法は性質上似ているものが多い。割と簡単に(かた)ることができるのだ。


 俺は司令官から目をそらす。


 先ほど黒焦げになった教官を見ると、ヤニで黄色くなった歯をこちらに見せて笑っていた。


 俺に老将の相手をさせて、何が楽しいんだ?


「では、始めようかね」


 司令官は深く腰を下ろす。

 片手を突き出し、弓弦を引くようにもう片方の手を絞る。


 ゾクッ……。


 怖気が走る。

 急に身体が震え出した。

 同時に俺は自分が明らかに失敗したことに気付く。


(この司令官、今の今まで覇者の気配を隠していたのか?)


 クソッ!!


 なんてことだ。

 今の今まで気付かなかった。

 ただの老将(ろうがい)だと決めつけていた。


 違う!


 この男は違う。

 老齢という年齢にさしかかろうというにもかかわらず、きちんと牙を研いでるタイプだ。


 そして、その牙を隠せるタイプ。


 飛んだ隠し球が出てきたな。

 確かにこれは最高のトラップだ。


「ほう……」


 ミリアス司令官は俺の方を見て声を上げる。


 唯一残った隻眼に映った俺の顔は、悪魔のように笑っていた。


 面白い……。


 まさかこんな寂れた訓練場に、こんなに美味しそうな訓練相手(ごちそう)が現れるとはな。


「驚いたな。君、本当に10歳かね」


「驚いたのはこっちの方ですよ、司令官。牙を、いや爪を隠していましたね」


「ははは……。能ある鷹はなんとやらだ」


 軽く自分の頭を叩く。


 一瞬戯けるミリアス司令官だったが、もう次には一部の隙もなかった。


 はっきり言って、勝敗はわからなくなった。


 だが、強者との戦闘とはこういうものだ。


 俺もまた構える。


「はじめ!!」


 開始の合図が響く。

 突如、勃発した司令官vs俺。

 新進気鋭の10歳の新兵と司令官との戦いは、否が応でも盛り上がる。


 教官たちも額に筋を浮かべて熱狂していた。

 最初反対していた秘書官たちも息を呑んでいる。


「行くぞ、172番君」


 司令官の構えからして、武器は拳打か。

 それはメインウェポンかどうかはわからないが、いずにしろ接近戦に持ち込まれれば、こっちが不利になるのはかもしれない。


 相手の出方がわからない以上、こっちは【魔導士(ウィザード)】が得意な中長距離からの狙撃に――――。


「随分、君の思考はごちゃごちゃしてるようだね。考えるよりも、まず動いた方が良い。特に私のような曲者相手にはね」


「なっ!!」


 気が付いた時には、構えたままの司令官が目の前にいた。


 ほとんど動いていない。

 俺の距離感が狂った?

 何かの魔法か?

 一切身体を動かさず、俺に近づくなんて魔法――【鍛冶師(ブラックスミス)】には……。


「この距離にあっても、ごちゃごちゃと考えているな。どれ、頭を空っぽにしてあげよう」


 ついに司令官の拳が動く。


 蛇のように動くと、俺のこめかみを狙う。


 俺はなんとか身体を倒した。


 体幹は鍛えてきた。これぐらいなら上体の動きだけで逃げられる。


「ほう! 鍛えているな!!」


「あまり侮らないでもらおうか!!」


 俺も応戦する。


 手には【初炎】の塊が握られていた。


 【魔導士(ウィザード)】が近距離に弱いと思ったら大間違いだ。特に俺と戦う時はな。


 だが――――。


 スッ――――!


 司令官はほとんど態勢を変えることなく、後ろに下がる。


 あっさりと俺の【初炎】を躱した。


(今の動き……!)


 俺はあることに気付く。


「ほう。もう気付いたのか」


 ミリアス司令官は微笑む。


 俺はこの間に距離を取った。


「なるほど。司令官になれるわけだ。司令官、あなたは――――」



 職人ですね……。



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『劣等職の最強賢者』が好きな読者の方は、気に入っていただけるのではないかと思われます。

読んでいただければ幸いです。

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