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第五話 神示は告ぐ。

 夜鈴よすずは救いの力を持つ巫女だった。この神社に使える人々は、みんな何かしらの神の力を持っている。生まれた時から持っている力だ。

 夜鈴は舞うことで人を救う力を持っていた。この力を持つ者は珍しく、この神社に残る文献によると、900年前にこの神社をつくった最初の巫女のみが使えたという。

 夜鈴の力のことを知っているのは、神主と妹の清楓さやかだけだった。夜鈴の両親と姉はすでに他界しており、知っているのはこの二人だけとなったのだ。


 「友羽ゆうや様、おはようございます。」

夜鈴は朝の務めに行く途中で友羽とすれ違った。

「あ、あぁ。」

「?…どこか具合が悪いのですか?」

友羽の顔色が悪い。

「鈴は聞いたことがあるか?ヒダマリについて。」

「はい。それがどうかしましたか?」

「開放…されるとの予言が。」

 友羽は昨夜から今朝までの祈番を務めていた。その時に予言されたのだろう。

「本当ですか⁉︎…私は祈神示桶を確認しに行きます。友羽様は皆様を祈堂へ。」

「あぁ。」

 夜鈴は祈神示桶へ急いだ。

 桶の周りには、友羽と祈番を務めていた者たちがいた。みんな顔色が悪い。

「大丈夫ですか?」

「夜鈴様⁉︎」

「事情は友羽様にお聞きしました。神示を見せてください。」

「こちらです。」

夜鈴は桶を覗き込んだ。

 桶にはられた聖水に消えかけた神示がうつっていた。

 そこに示されていた未来。それは、ヒダマリ開放によってこの神社の守護者、救いの者が失われるというものだった。

 そして開放は間もなくだと神示は告げていた。

 夜鈴が散りばめられた星々の連から神示を読み取ると同時に、神示は水に溶けるように消えていった。


 「鈴!」

「友羽様!神主様!」

友羽と神主に続き、神社のものたちが続々と集まった。

「神示はなんと告げておった?」

神主は静かに尋ねた。

「はい。神示には、災厄到来の相、災門開放の相、守護者滅の相、時期近々の相が示されておりました。」

 神主は目を閉じて少しの間考え込んだ。

「…恐ろしい災厄がこの地に訪れる。皆心して備えよ。夜鈴、事前にあの儀式を。」

「はい、すぐに支度いたします。」

「あの!」

周りにいた者たちは首をかしげていた。

「守護者滅とはどういうことですか?」

「私どもが見た時そのような相は…」

「御神がと言うことですか?」

「そのような相を我らが見逃すはずは…」

ざわめきに包まれた祈堂に夜鈴の声が水を打った。

「御神滅消、それがあなた方の言っている相です。ですが今回は守護者滅、御神には関係ありません。見習いの時にも教わらない相です。時間がないのです。急いで備えを。」

「私たちは何をすればいいの?」

夕虹ゆうにじは夜鈴の隣に立った。

 夜鈴は小さく微笑み周りを見渡した。

「五ノ鐘が鳴る時刻に舞台へお集まりください。細かな指示を出します。神主様、初空夕虹様、春雪友羽様、心月空音そらね様、星宿今夜こよい様、清楓、私と一緒に来てください。他の方々はどうぞ、時刻まで神社をお願い致します。」

 夜鈴は舞台へと向かった。指名された者も後に続く。

「鈴っ、一体どうしたんだ?」

「友羽、黙っていなされ。」

友羽は夜鈴の行動がいつもと違ったので理由を問いたかっただけだが、神主の静かな怒りに黙り込んだ。

(夜鈴、そなたは何をする気じゃ?)

 神主は薄々気がついていた。夜鈴が命を賭してここを守ろうとするだろうことを。


 舞台に着くと、夜鈴は紙に図を描いた。

「この神社が土地を守っているのは表の仕事で、本来はヒダマリを封じ、清めています。今、ヒダマリの力は皆様の守護の力によって舞台にギリギリ及んでいません。ですが、それも時間の問題です。そこで、祈祷ノ儀を持ってヒダマリの周りに結界を作ります。各祈堂、神堂に同時に力を集め、四つ同時に本殿のご神体に向けて放ちます。本殿のご神体に力を集め、ヒダマリへ放ち浄化の結界を作るのです。手伝っていただけますか?」

全員が静かに頷いた。

「神主様、あのことはどういたしますか?」

夜鈴は神主に尋ねた。

「うむ、ここにいる者には伝えておかねばなるまい。」

 夜鈴は静かに立ち上がった。そして語った。自らの力を。守護者滅の本当の意味を。

「私は始まりの巫女と同じ力を持って生まれてきました。星々を司る者として。」

神主の目には涙が光っていた。

他の人は信じられないというふうに首を振っていた。

 始まりの巫女といえば、異能を持った者たちを囲い込み、守るための神社を作った人だ。そして、災いを封じるため、ヒダマリを封じるために舞って、亡くなったのだった。

「鈴、おまえがしっ、いや守護者滅を防ぐ方法はないのか?」

「この予言は力が開放された時私が死ぬと告げています。ですが、逆に言えば力を開放しなければ良いのです。そうすればかつて波月様の時に起きた悲劇は起きないかもしれません。」

「この儀を何としても成功させるのじゃ。良いな?」

神主も立ち上がる。

「本殿には私と夜月希様、清楓。東の祈堂には友羽様と葉星夜ようせいや様。西には夕虹様と星流希様。東の神堂には空音様と卯瑠流ういな様。そして西には今夜様と美瑠亜みるあ様。よろしいですか?」

「見習いたちも出すのですか⁉︎万に一つ何かあったら。」

「あなた方が指導している方々ですから大丈夫でしょう。最も息があう相手ではありませんか?」

夜鈴は小さく微笑む。

「それに、万に一つはありません。」

夜鈴は気持ちを切り替えるように言った。

「私はかつて父と母と約束したのです。大切なものは命を賭して守ると。私には守れる力があるのだからと。私は約束を違えることはいたしません。…さて、そろそろ皆様が集まってくるでしょう。」

夜鈴はもう一度微笑んだ。

 「夜鈴、ちょっといいか?」

神主は声をひそめた。

「はい。」

夜鈴と神主は舞台から離れた。

「そなた、死ぬつもりじゃな?」

「神主様、予言は変えられない未来を示します。この儀は失敗し、私は死ぬでしょう。ヒダマリが開放され、力を利用するもの、邪悪なる力を持った者が現れたら、この世界は滅びます。私は大切なこの神社のみんなを守りたいのです。自らの命を失っても。」

「…そなたらしいな。神のご加護が舞うことを祈っておる。」

「ありがとうございます。」


 全員が舞台に集まると、夜鈴は簡単に、儀式について説明した。一人一人に細かな指示を与え、夜鈴は神主と清楓と共に舞台を出て行った。

 三人は近くの森へ入って行く。

「お姉様!死んでしまったらもう何も守れないのですよ!生きていてこそ意味があるのです。」

「清楓、夜鈴をこまらせるな…」

「神主様、構いません。清楓、これは運命なのよ。それに私はもう一度、死んでいるのだから。」

夜鈴は清楓の頭に手を置く。

「怖がらなくても大丈夫よ。あなたは素晴らしい巫女だもの。私はあなたの舞いが好き。とても美しいと思うわ。他にもあなたには良いところが沢山ある。」

ね?というように夜鈴は清楓の顔を覗き込んだ。清楓は夜鈴の衣に顔を埋めた。

「でもっ…お姉様がいなくなっちゃったら私一人になっちゃう。…やだよっ…また置いてかれるのやだよっ!お姉様までお母様達みたいにいなくなっちゃうのやだっ!」

夜鈴は優しく清楓を抱きしめた。

「私はずっといるよ。清楓の心の中でずっと生き続ける。だからね、もう泣かないで?可愛い顔が台無しになっちゃう。大丈夫だよ…大丈夫、大丈夫だから。」

夜鈴はそっと清楓の涙をぬぐった。神主はそんな姉妹を見て静かに祈った。

(どうかこの姉妹に幸福を。もう少しの間笑顔をお与えください。)


 夕虹は清楓と神主が森から出てくるのと入れ違いに森に入り、夜鈴に話しかけた。

 「私は夜鈴様の真の姿を知っております。守護者の力、限度。そして夜鈴様が一度命を落とし、御神体との結で生かされていることも。」

夜鈴は驚いたように振り返った。でも、すぐに優しげな微笑みを浮かべる。

「そうだったのね…ではお願いです。みんなを守ってください。何としても。」

「儀式は必ず成功させます。だからどうか、そのようなことは言わないでください。」

「そうね…」

 夜鈴はいつでも微笑んでいる。どんなに辛いことがあっても。彼女の笑顔は、周りの人の不安を和らげてくれる。

「ごめんなさい。心配させてしまったわね。」

 夜鈴は夕虹を抱きしめた。夕虹は、夜鈴の腕の中でしばらく震えていた。

 やがて夕虹は顔を上げ、夜鈴の瞳を見た。

「夜鈴様、私が絶対に儀式を成功させてみせます。」

「はい。さぁ、もう行って下さい。あなたにもやるべきことがあります。」

 夕虹は予言の真の仕組みが、変えられない運命であることを知らない。そして、夜鈴の悲しく潤んだ瞳にも気がつくことはなかった。


 友羽は夜鈴を探していた。

(さっきから様子が変だったし…)

 夜鈴は泉のほとりに立っていた。

「鈴?」

どうやら聞こえていないようだった。

…タン、タッ、タタン、タッ…

夜鈴は突然舞い始めた。見たことのない舞だった。

(…綺麗だ…)

 友羽が思わず一歩踏み出すと、足元にあった木の枝が折れた。

バキッ

ハッと夜鈴が振り返る。

「友、羽様?」

「邪魔してごめん。」

「いぇ、ただ驚いただけです。どうしてここに?」

「様子が変だったから…何かあった?」

「災門開放の相は滅びを示します。」

「?」

「なんでもありません。余計なことを申しました。お忘れください。」

本当はこの相が現れたのがこの神社だということは、ここが最初に犠牲になると伝えたかったのだが。

いや、本当はもっと別のことを言いたかったのかもしれない。

 二人の間を冷風が吹き抜けていく。

 「……あのさ、」

「はい…?」

「いや、なんでもない。」

「そうですか。」

 ふと、夜鈴は泉の中に入っていった。

「鈴?ちょっ、なにしてんの?」

「儀式の道具を取りに行きます。」

この泉の深いところは夜鈴の身長よりある。一歩間違えれば溺れてしまうだろう。友羽はハラハラしながら見守っていたが、当の夜鈴は平然としている。夜鈴には、足を置いても大丈夫なところがわかっていたからだ。

 夜鈴の母も巫女を束ねる立場にあった。かつて母に教わった道を辿りながら夜鈴は思った。

 (いずれ同じことが起こるのならば、またこんな思いをする人がいないように…星文を使えば…)

夜鈴は手を空にかざすと、星に印をつけた。

 それから、泉の真ん中にある小さな島の祠に手を入れ、儀式の道具を取り出し、友羽の元へ戻った。


 どんよりと曇った日に儀式は行われた。

 それから三日、夕虹に成功の知らせは来なかった。

(大丈夫、夜鈴様なら成功しているはず。だって夜鈴様は、本当にすごいお方だもの。)

夕虹は自分に言い聞かせ、震える手を握りしめた。

「夕虹殿?大丈夫ですか?」

律亜りつあ様…はい、大丈夫です。」

「少しいいですか?」

 律亜は夕虹を南の森へと連れ出した。ヒダマリのすぐ近くだが、今はとても綺麗に清められている。

 夕虹は静かに口ずさんだ。母に教わった、幸せを願う歌を。

「天地に今もたらされる不幸とは、なんとも悲しいことでしょう。希う気持ちは届かない。私はそれでも、希望をひたすらに祈ります。あなたと君が、ずっとずっと想い合って笑える日々を、私は願います。」

 夕虹は律亜を見上げた。

「夜鈴様は大丈夫でしょうか?あれから一度も姿を見ていないのです。」

律亜が夕虹の手を取る。

「大丈夫です。…私はあなたの笑う顔が好きです。だからどうか、笑ってください。」

夕虹は、今できる精一杯の笑顔を律亜に向けた。

(夜鈴様はどうしているのでしょうか。)

夕虹は律亜と共に、泉に映る星をぼんやりと眺めていた。

(ただひたすらに祈ることしかできない…夜鈴様…)


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