表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

第三話 舞姫の心に。

=前世=

 シャン、シャラ、シャララ…‥

少女たちの舞と共に鈴の音が鳴る。少女たちの手の中にある鈴は、少女たちが手首を返すと同時に輝く音を奏でる。

「さすがは夜鈴よすず殿、美しいな。」

夕虹ゆうにじ殿も、よくこんな動きができるものだ。」

少女たちがどんなに激しく舞っても、手首を返さない限り鈴は鳴らない。

「あんな動きをしていても、手を動かさずにいられるとは。」

「無駄な動きがない故のことだろう。」

「他の者ではこうはなりますまい。」

舞台の周辺は、少女たちを称える声に溢れていた。少女たちには聞こえていなかったが。

シャララン、シャン。

少女たちが舞い終えた。

 祭壇に礼をし、少女たちは奥社へと入っていった。

「お姉様!」

奥社から幼い少女が駆けてきた。

夜月希よつき様?」

「お姉様、感動しましたわ。」

巫女見習いの夜月希は、教育係の夜鈴のことを、なぜかお姉様と呼ぶ。

「夜月希様もいつか私のように、いえ、それ以上に舞えるようになりますよ。」

「はいっ!今夜も見ていただけますか?」

夜月希は無邪気に笑った。

 そう、夜月希は毎日の問答が終わると、全体での練習とは別に、夜鈴に舞を教えてもらっているのだった。


 タン、タン、タタン、タン…‥

夜の神社に夜月希の足音が響く。

「ハァ、ハァ……どう、ですか?」

「朱、朝までは良いのですが、その後の動きに乱れが生じています。」

「そう、です、ね…その辺り、から、息が、上がって、しまって。」

今、夜月希が練習しているのは、この神社に古くから伝わる舞だった。朱、朝、昼、夜、宵という五つの動きを何度も繰り返すように組んである舞で、すべて通すと早くても五分以上かかる。

「区切れば大丈夫ですよね…体力の問題でしょうか?」

「体力?どうすれば良いのですか?」

「走ったりするのが簡単かと。ですが焦らなくても。夜月様はまだ五歳なのですから。」

「”まだ”ではなく”もう”なのです。お姉様は三つの時にこれを舞ったと。」

「私の家は代々巫女だったのですよ。幼い頃から母や姉の舞を見て育ったのです。」

「私も幼い頃からお姉様の舞を見て育ちました。」

夜鈴は苦笑した。

「ではとっておきの修行を教えましょう。今日はもうお休みください。」

夜月希はパッと笑顔になると部屋に戻っていった。

(明日、あの森へ連れて行ってあげましょう。)


 「ここがとっておきの場所?」

夜月希と夜鈴は大きな森の前に立っていた。

「…お姉様、私、木には登れませんよ?」

「木登りなら、わざわざここまで来ませんよ。ついて来てください。」

夜鈴に続いて夜月希も森に入っていった。


 少し行くと、開けた場所に出る。そこには泉があった。泉には様々な生き物が集っている。

「夜月希様に課題を出しましょう。」

 ピュイッ!

夜鈴が持っていた笛を鳴らすと、鹿の群れから一頭の立派な鹿が駆け出してきた。

「この鹿は、私が幼い頃に仲良くなった鹿です。乗せてくれる?」

夜鈴が尋ねると、鹿はその場に座った。

「さぁ、夜月希様、ここへ座ってください。」

夜鈴は鹿の背を示した。

「えっ…」

夜月希は怯えたように一歩後退した。

「大丈夫ですよ。」

夜鈴は夜月希の手を取り、抱き上げると鹿の背に乗せた。

「お姉様も一緒ですわよね?」

「もちろんです。さぁ、心配せずに離してください。」

 夜鈴も鹿に乗り、彼女にしては珍しく弾んだ声でいった。

「さぁ、連れて行って!あの場所へ!」

鹿は立ち上がると走り出した。

 木々の間をすり抜け、飛ぶように駆けてゆく。

 やがて鹿が足を止めた場所、そこは小さな神社だった。

「夜月希様、明日から鹿を慣らして、ここまで乗せてもらってください。鹿を慣らすのは一朝一夕にできるものではありません。努力し続けてください。そうすればいつか、鹿たちも心を開きます。夜月希様、成功したらきっと、あなただけの舞も舞えます。」

鹿を乗りこなすには、思いの外体力が必要なのだった。

「私だけの舞?」

夜月希の問いに、夜鈴は微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ