第九話 後の世界に。
淡い光を放ちながら、桜の花が散っていく。友羽はそんな光景を眺めながらそっと笛を口に当てる。
ピロロロロ〜
涼やかな音が空気を震わせた。かつて夜鈴がこよなく愛した音色。友羽は心を込めて音を奏でた。遥か彼方の夜鈴に届くように。未来の約束の地へ届くように。友羽は微かな微笑みを浮かべた。
人の気配に気がつき友羽が振り返ると、律亜がいた。
「あぁ、律亜殿お久しぶりです。」
友羽がにこやかに挨拶をすると、律亜は顔をしかめた。
「なぜ…なぜ、友羽殿は愛しいものを亡くして、間もないというのに笑っているのだ?」
友羽は驚いたように目を見張った。それから、明るい笑みを浮かべる。
「夜鈴が最後まで微笑んでいたというのに、どうして僕がいつまでも嘆き続けるのでしょうか?夜鈴の望みが人々の笑顔を守ることだったのなら、精一杯それを叶えたいのです。それが僕にできるお礼ですから。」
律亜は目を閉じた。
(友羽殿は強い…だが、負けてはいられない。そうだろう?夕虹…)
心の中で愛しい少女の面影に語りかける。
律亜は顔を上げると微笑んだ。
「すまない。友羽殿にあたってしまった。」
「お気になさらずに。誰だって辛いですから…」
友羽は優しい笑みを浮かべる。
夜鈴が友羽に残した手紙には、たった一文だけが書かれていた。
ー泉のほとりで言いかけたこと、今度会ったら聞かせてくださいね。
(鈴が守った世界、笑顔を、今度は僕が守る番。見ていてくれ…鈴。)
友羽は固く誓った。
(いつか必ず、あの約束を果たそう…)
夜鈴が死の間際に残した言葉。それは今も、友羽の心を支え続けている。
信じる心は時に、とてつもない力を持つのだから。




