四十二.相談相手は慎重に
徐州にて。
陳大夫の息子である陳登は徐州の城にて車冑の手助けを行っていた。
そして、とある日のこと。
陳登はいつものように城へと登城して車冑の元へと参上した。
「おお、よく来た。」
一言であるが、勘の鋭い陳登は車冑の様子がいつもと違うことに感づいた。
そして彼は、自身のその予感が当たっていることを、車冑の次の行動で確信した。
人払いである。
人が次々と退出して行き、部屋は二人を除いて、がらんどうとなった。
『男同士、密室、人払い。何も起きないはずがなく・・・』
ゴクリと喉が鳴る。
(よほど重大な案件だな。)
呂布を騙して以降なかった、久方ぶりの緊張感である。
張りつめた空気の中、車冑は曹操から受けた命令を陳登に話し始めた。
「実は曹丞相より劉備を殺せと密書を受けた。やり損じたら一大事だ。何か良い策はないか?」
おっとっと!
これは想像の遥か上を行く、後の歴史を動かしかねない超極秘で超重大な案件であった。
しかし、陳登は内心では驚いていたが、素知らぬ顔をして、
「良い策も何もありますまい。劉備を殺すなど、這っている芋虫を手で摘まむが如く容易なことです。」
「城門に伏兵を置き、彼を招いて、それらにて暗殺する。」
「私が指揮すれば、今の流れで確実に劉備を昇天させることができます。どうかご安心を。」
頼れる相棒の自信満々の言を聞いて車冑は喜び、
「しからば、早速準備を始めよう。」
と、疑いの心を一切持たずに、彼は兵の手配にかかり始めたのであった。
一方、相談された陳登はというと・・・
「父上!大変です!劉備様が危のうございます!!」
彼は家に帰ると、すぐに父である陳珪に事の次第を打ち明けた。
陳親子は劉備と深く誼を結んでおり、常日頃より、彼に何かあれば助けんと考えていたのであった。
「我々親子は曹操殿より恩禄を受けておるが、劉備殿はすぐれた人物じゃ。殺すのは忍びない。」
「私もそう思います。」
「うむ。・・・では、劉備殿にそっと知らせてやるのじゃ。くれぐれも車冑一派に気付かれるでないぞ。」
「わかっております。」
そして、陳登はその夜、馬に乗って宵闇の道を駆け進んだのであった。




