4.回想と同行者
大洲の回想です
ヒロインが目覚めます
時は少し遡る。
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ゴブリン村から俺に気付いたゴブリン達がわらわらと現れる
俺は《旧き鍵》が作った脳内マップにこの村の全て(敵が赤、俺が青、死者が灰色、それ以外が黄色い点、そして何かしらの状態異常がある人は点の周りが赤い線で囲まれている)が表示されているためゴブリン達が事前にどういう配置になっているかを知っていた俺は一番ゴブリンが多い場所へと向かう
そして先程よりも少し力を抜いて、剣を振る。すると、剣の軌道上、3m圏内にいたゴブリン達の下半身が崩れ落ち、上半身が宙を舞い血肉の雨を降らせる
まだ駄目だ。俺はそう思いながら今の一撃に驚き硬直している別の集団に突っ込み、さらに力を抜いて剣を横薙ぎする。そして俺は今度は上手くいったと微かに笑みを浮かべた
僅かな手応えと共に剣が通った場所のみが切られ、周囲に影響が見られなかったからだ
普段使うべきの力加減が分かったので、逆に力を少し込めるとどうなのか興味が沸いたので、俺は最も密度の高い集団の中心に飛び込んだ。そしてその場で少し力を込め、腰を落として真横に一回転し薙ぎ払う
その結果、全てのゴブリンが村ごと横一文字に上下に切り裂かれた。ちなみに、村の大きさは直径400mほどだったりする
「やばい。調子乗ってやらかした」
元々、力の制御のために来ていたが早々に出来る様になったため、ウィザードやキングといった特殊個体からスキルを奪うと共にちょっとした実験をしたかったのだ。《倉庫》から元の世界のコンビニで買ったビニール傘を取り出して、上から降ってくる血肉の雨を受けながら、失敗したなーと思っていると
『離れていて魔石が無事なので問題ありません。《不等価交換》を使用しますか?Yes/No』
今度は気を付けないといけないなぁと思いながらステータスと実験のためにYesを選ぶ。すると、何か見えない物が体に流れ込む感覚と共に、左手に違和感を覚える。左手を見ると予定通り、ゴブリンのステータスと交換した薬指が無くなっていた
思ったより少なくて済んだなと思っている内に《再生》によって薬指が元に戻った。そして周りでは、ゴブリンの肉が裂ける音や骨が折れる音と共に「テケリ・リ…、テケリ・リ」というゴブリンがショゴスへと転生した事による鳴き声が聞こえてくるが、時が経つにつれ、その声は肉体が黒い水たまりと化すと共に消えていった。俺のショゴス細胞に適合せず、ゴブリンの肉体が耐えきれなかった結果だ
やがて聞こえなくなったので全滅したかと思って、傘をしまいながらマップを見ると村の外から赤点4つと黄点1つがこちらに近付いている事に気付いた
おそらく村へ帰ってきた生き残りと新たな犠牲者だろう。黄点の周りが赤線で囲まれているが、《旧き鍵》で確認した所、ゴブリンは棲み処に持ち帰って襲う様なので性的な意味で襲われた心配はない
俺は向かってくる方向にある木の一本に登り、《倉庫》を開きながら身を潜める。しばらくすると、人一人は入れるくらいの袋を4人がかりで運ぶゴブリンの姿が見えた
ゴブリン達は村に着き、仲間の気配がない事に気付くと袋を雑に降ろした。そして何もいない村の中へと駆け出していこうとして突然、背にナイフを生やして倒れる。それと同時に俺の手には4つの小指ほどの濁った薄紫色の魔石が握られていた
俺は魔石を《倉庫》にしまうと、木から降りてゴブリン達が持っていた袋へ歩みより、手が届く距離まで近付くと、生き残りがいないかマップで確認した。周りには俺と袋の中身以外に反応がないので袋を開く
すると中から15歳くらいの癖毛のある長い銀髪の美少女が現れた。動かないが《旧き鍵》で調べても異常がみられなかったので気絶しているだけだろう。服装は麻と思われる、質がいいとは思えない貫頭衣だった。首には鎖の付いた飾り気のない無骨な鉄の首輪が付いている
そして、人間にはない狼の耳と尻尾を持っていた
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「どうすりゃいいんだよ。これ」
そんな事を呟きながら俺は、この世界の人種ってどうなっているんだ?と脳内で問う。すると『この世界には人間、魔族、亜人(獣人種、魚人種、精霊種等)がいます。魔族は魔法、亜人は身体能力に特化しています。人間は魔族とは敵対し、亜人を獣や半端者として見下し、奴隷にしています』と答えが返ってきた
「ん…んぅ?あれ?」
「起きたか」
なるほどと思っていると少女が目を覚ました。そして、俺を見ると勝気な金眼に怯えを浮かべ、「に、人間っ」と言いながら後ずさる
俺はその言葉に頭を掻きながら「体は大丈夫か?」と問う
その言葉に少女は「えっ」という声を出し、訝し気な表情を浮かべる。それを見た俺は「ゴブリンに運ばれていただろ。何があった?」と尋ねる
すると少女は「奴隷として運ばれていたら、この森で盗賊に襲われたのよ。その隙に逃げ出した後、後ろから殴られたの」と答えた
俺は「そうか」というとブレザーのポケットから中級回復薬を取り出し、少女の前に置く。少女が警戒したような顔をしたので「それは中級回復薬だ。一応飲んどけ」と言うと少女は怪訝な表情を浮かべた
「どうした」
「なんで私にそんな物をくれるの」
その言葉に俺は軽く笑い「ただの気まぐれだよ」と答えた
少女は俺の言葉に警戒しながら回復薬を飲む。それを見た俺は少女に「名前は?」と問うと少女は少し間をおいて「フェン」と答えた
俺はフェンに二つ質問する
「【フェルグリア王国】以外の国を知っているか?」
「知らない」
「人間が怖いか?」
「…怖い」
「そうか」
俺はそう言うと「これからどうする?」とフェンに問う
「どうするって?」
「ここは俺が殲滅したとはいえゴブリンの棲み処だった場所だ。それにおそらく盗賊もうろついているだろう。俺はここを離れるがお前はどうする?」
「・・・」
その時、俺はマップにゴブリンでない二つの赤点が何かを探す様な動きをしながら近付いてきている事に気付いた。俺はフェンを抱えて、先程潜んでいた木に戻る
「何をす―」
「静かにしてろ。多分、近くに盗賊がいる」
「っ!」
(さてどうするか)
そんな事を考えながら音を拾うために《万生の記憶》で適当な耳を作る
「貴方、獣人だったの!?」
フェンがそんな事をいうので「いや、人間だよ。人間だったというべきかな」と答えた
やがて薄汚い服装をした体格のいい若い二人組の男が見えてくる。それと共に声が聞こえてくる
「本当にこっちにいるのかよ」
「嘘じゃねーよ。奴隷商の馬車から上玉の狼人族の女が逃げたのをこの目で見たんだよ」
「嘘だったらただじゃおかねーぞ」
「本当だって。さっさと見つけて二人で楽しもーぜ」
「なぁ、俺も話に混ぜてくれよ」
俺の声に男達が振り返る――事は出来ずに首から血を流してそのまま倒れる。俺は頭に手を置き、盗賊から奪った知識からアジトの場所を見つける。背後から聞こえた音に振り返ると後ろに樹から降りたフェンが立っていた
「さて、俺は盗賊のアジトに行くけどどうする?行きたい所があるなら送っていくぞ?」
「行くあてなんかないからついていく」
「危険だぞ」
「貴方が守ってくれるでしょ?」
「根拠は?」
「回復薬くれたし、ゴブリンや盗賊から助けてくれた事かな」
「俺を信じられるのか?」
「他の人間よりはね」
「そうか。じゃあ、これからよろしく」
「よろしく」
俺がそう言いながら差し出した手をフェンはそっと握り返した
盗賊と戦います