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荒んだ心から愛を込めて  作者: わんちゃん
少女達と腋あいあいしたい次第でそうろう
13/13

サイレント デンスフォッグ

 昨日の晴天とは打って変わってどんよりとした曇り空

 今にも雨の降りそうな曇天の朝


「まさか何も手がかりが無いとは…」


「奴隷商もほとんどシロでしたね~」


「しかし門番や住民からの目撃情報が挙がっていないとなるとこの街に来ていないかまだ掘り起こしていない奴隷商があるとしか…」


 バストラ北部の宿の一室でサラ・リサ・シャーリーの三人はローチもといリリーの調査をお互い報告している最中だった

 しかし進捗は悪く丸一日聞き込みを始めとする調査をしていたが一切の情報は得られなかった

 それもその筈、現在ローチはメーム村に滞在しているため情報も何もないのだ


「やっぱりメームの方面に居るんじゃないスカね~」


「どうしますサラ?」


「もう少しこの街で調べましょう、メームへ向かうのはそれからでも遅くは無い筈です」


「「了解(で~す)」」










「え!、バストラに行くの!?」


「ああ、そうする」


 ローチは下着姿でマリーのベッドの上に胡坐をかき寝巻をバッグに詰め込んでいた


「ナムルに戻らなくて良いの、お母さん達が心配しちゃうかもよ?」


「うるせぇ」


 そう言いさりげなくマリーから借りていたお下がりの服と下着も詰め込みバッグを肩に掛ける


「一人じゃ危ないよ!」


「心配ない、俺はもう出るぞ」


「ううぅ…」


 ローチは心配そうにするマリーをあしらって部屋から出ると大人程の長さを持つ木杖を持ったマリーの母親とすれ違うと思い出したかのようにバッグを漁る


「約束の金だ」


 そう言い手にした小銀貨を指ではじくとマリーの母は振り向きざまにキャッチする


「いらんよ、こんなもん」


 しかし投げ返されてしまいししぶしぶバッグにしまう

 しまい終えるとローチは再び足を進め家を後にした


 そしてマリーの母はマリーの部屋のドアを開けるとマリーに持っていた杖を投げるとマリーはたどたどしく杖を受け止める


「ついていってやんな、火球ぐらいは使えるんでしょ」


「え、良いの…これお母さんの」


 それは母が昔使っていたと言う大切な杖


「こんな時に使わんでどうすんの!?」


「ありがとう、でもバストラに行ってもあの子…」


「あんたがついてやれば良いだろう?」


「え、まさかずっと!?」


「ロクに稼がないんだったら子供のお守りしながら商売の勉強でもしなさい!」


「う…うん」


「ほらとっとと行く!!」


「は、はい!」


 母にどやされ他の荷物も持たずに部屋から出ていき家のドアを開けると母の方へ振り返り貰った杖を大切そうに抱きしめ


「お母さん、ありがとう!」


 そう言うとマリーは遠くに居る幼い少女の元へと走っていった







(地面が湿ってるな、昨日のサンダルもパクってくるべきだったな)


 そう思いながらローチは地図を広げながらバストラがある南西へと進んでいると


「ローチちゃぁぁぁん!」


 後ろから呼ぶ声が聞こえ足を止め振り向くとマリーが杖を抱えながら走って来る姿が見える

 マリーはローチの元へ駆け寄ると息を切らしながら杖にもたれかかる


「どうかしたか?」


「ロ、ローチちゃん心配だから私も付いていく!、ローチちゃん、まだ小っちゃいし、宿が取れなかったら、前みたいに~」


 マリーが途切れ途切れに言う言葉を聞き流しながらローチは葉巻を加え火をつけ始め


「勝手にしな」


 とだけ言い葉巻をふかし再び歩き始めマリーも言葉を止めローチについていく





 厚い雲に覆われ直接太陽は見えないが昼頃

 バストラまでの3分の2の道のりを歩いくと徐々に周りの景色が草原から木々が密に立っている森に変り辺りの見通しが悪くなり、それに加え酷い雨と霧に襲われる


 道が整備されているおかげで何とか道筋は分かるものの雨によりずぶ濡れになり春先のまだ冷たい気温と風が二人に追い打ちをかける


 ローチは劣悪な環境に慣れているため無言のまま歩き続けるがマリーは体を抱え震えていた


「うぅ…寒い…おなかすいた…」


「森を抜けたらバストラが見えるはずだ、我慢しろ…」


「なんで平気なのよぉ~」


「慣れているからな」


「うぅ~寒い!、早く宿で暖かいスープ飲みたい…」





 もう少し歩けば森を抜けるという所で先頭を歩くローチが足を止めるとマリーも不思議そうな顔で足を止める、ローチは正面を向いたまま手を小さく挙げ手招きをする

 まるで耳を貸せと言わんばかりに…


 マリーは意図が分からないままローチに近づきローチに顔を寄せるとローチが小さく呟く


「後ろを見るな、後をつけられてる、走れるか?」


 その瞬間マリーの背筋にゾクリとした感覚が走り、背筋が凍る

 こんな所で後を付けてくるなんて言ったら盗賊くらいしかいない

 マリーはそう認識するとすぐに鼓動が早くなり、異常なほど大きくなる鼓動に咄嗟に後ろを見そうになるが言われた通り顔を動かさず横目で必死に背後を確認しようとする

 張り裂けそうな心臓をこらえながら小さく答える


「う…うん…走れる…」


「お前が先を行け、タイミングは任せる」


「え、危ないよ」


「取り乱すな、俺の心配をするなら自分の心配をしろ、行け」


 マリーはローチの言葉に納得いかない顔をするが言われた通りローチの先を歩きローチもその後を歩く


 徐々に霧が濃くなり数メートル先を見るのもままならない中マリーは懸命に耳を澄ませると雨や風で揺れる草の音に混じり草や枝を踏みしめる音が微かだが聞こえる

 後ろから迫る恐怖に対して自然と歩みが早くなる


 音に集中すればするほど音は大きくなっていき…



 パチン


 枝が割れる音がした



 とうとう恐怖に耐えきれずマリーは走り出すと同時に後ろから同じように走る音が聞こえる

 明らかに一人ではない


「追え!ガキから捕まえろ!」


 その言葉に思わず後ろを振り向きローチの名前を叫ぶと


「良いから走れ!!」


 荒々しいその言葉を聞くとマリーは再び足元の道だけを頼りに走り続ける、足の痛みや胸の痛みなど眼中になくただ必死に…



 やがて足音がしない事に気が付きマリーは立ち止まる

 走ってる内に森を抜け辺りは草と霧に包まれる

 マリーはどうしようもない不安に駆られローチの名前を叫びそうになるが喉元まで言葉が出かかり、そこで考えてしまった



 ローチは既に捕まっており、まだ自分を追っているのでは無いか?

 もしここで大声を出せば…自分を先に行かせたのは…捕まった後どうなるか…


 昼だと言うのに周りは薄暗く霧で辺り一面何も見えない、走ろうにも何故か足が動かない

 考えれば考える程、動こうと思う程呼吸が荒くなりしまいには過呼吸を起こしその場に座り込んでしまう

 呼吸の音を聞かれないように片手で口を押さえながら杖を残し道の外まで這いずっていく



 道から外れて少しの所、背の高い茂みに身を隠すと収まらない呼吸を這いずった手も加えて必死に抑えていると雨と風が止み残った濃い霧の中マリーの呼吸は一層目立ち始める



 茂みの中で暫く呼吸を正そうとするが未だに収まらない過呼吸に苦戦していると道の方から水の音が混じった足音が聞こえマリーの心臓は再び暴れ出し口を押える手に力が入る


 ピシャリ、ピシャリとゆっくり通っていく足音にマリーはそのまま通り過ぎるよう願う


(お願い!そのまま行って!)


 足音は一度止まると再びピシャリと水を踏む音が聞こえてくる


 しかしマリーの願い叶わず水を踏む音から草を踏むに変わり音も次第に近づいてくる


 マリーは思わず後ろに体を引きずり身を隠している茂みに入って来た人物を見上げる


「こんな所に居たか、街まで行ってるかと思ったぞ」


 一瞬思考が停止したマリーだったがローチの姿を見て力が抜ける


 ローチの姿は先ほどと変わり皮のベストを頭から被り右手には腐食している剣を持ち左手に持っているマリーの杖で茂みをよけていた


 過呼吸に陥ってるマリーを暫く眺めローチはマリーに近づきしゃがむと被っていたベストを脱ぎの端を無理やり口に押し当てマリーの肩を抱く


「浅く吸って…止めて…吐いて…吸って…吐いて…」


 ローチの言葉に従いマリーは勝手が聞かないながらも意識して呼吸をする


 暫く繰り返すと痙攣じみた感覚や眩暈はなくなり自然に呼吸ができるようになるとローチは手を放した


「もう大丈夫か?」


「あ…うん」


「先を急ぐぞ、お前の杖だ」


 投げられた杖をマリーは腹で受け取ると杖を使い弱々しく立ち上がる


「大分走ったからもう少しで着く筈だ」


 そう言うとローチは元いた道の方へ歩き始めマリーもローチの後を追った





 マリーは放心状態の中暫く歩いていると遠くで門の明かりが見えてきた


「着いたか」


 二人は門に近づくと驚いた門番に声をかけられる


「こんな天気なのに良く来たなぁ…」


「まあな」


 対してローチは軽く答えると門番は笑いながら力強くローチの頭を撫でる


「ハハハ、元気だな嬢ちゃん」


 二人のそんなやり取りを無視してマリーは門番にしがみつき訴え始める


「盗賊に襲われたんです!、森の出口で!」


 突然の行動に門番は驚き反射的にマリーを引きはがそうとする


「うわ!、ちょっ落ち着いて!、わかったから落ち着いて下さい!」


「落ち着いてられますかこんな状況で!、死にそうな目にあったんですよ!」


 やっとのことで門番がマリーを引きはがすとマリーは恐怖からか安心からか泣き崩れてしまう

 項垂れて泣いているマリーに門番は座り込み優しく声をかける


「バルトハール領の方から来たんでしょう?とりあえず身分を証明できる物は持ってるかい?」


 質問を無視して泣いているマリーに門番は困り果てていると横にいたローチがマリーの首根っこから何かを取り門番に渡す


「確かこれがギルドの身分証だろう」


「ああ…ありがとう」


 門番が金属が付いたネックレスを受け取ると金属部分を確認しローチに返すと門番は立ち上がる


「これで通して貰えるか?」


「ああ、もう通れるよ」


「静かな安宿に泊まりたいんだが」


「真っすぐ進むと大きな十字路にでてそこを左にいって4番目の右側の路地に友人の叔母がやってる宿がある、安いが質は良いぞ」


「現金な奴だな」


「まあな、早くお姉ちゃんを休ましてやりな」


「うるせぇ」


「後、街中では剣をそうやって持たない」


「ああわかったよ、後さっきの盗賊だが大した奴じゃなかったぞ」


「?」


 やり取りを終えると剣を被っていたベストに包んで左手に抱えて右手でマリーの手強引に引くと案外あっさり歩き始め街中へと入って行った


 バストラの街はナムルより凹凸がありゴツゴツとした石造りの建物や街道の作りが目立ち雄々しい印象の街並みだった


 そんな中ローチはマリーの手を引き先ほど教えられた宿を目指す


「大通りの十字路を左」


 かなり大きな街だが先ほどの雨のせいか道には人がほとんど見えない


「四番目の右側路地」


 薄暗くなっている路地を進むとランタンの明かりと看板がある建物を見つけローチは迷うことなく入口の細い階段を上がり建物に入る


「あら、いらっしゃい」


 室内は壁が黄土色の土で作られ様々な模様の布や飾りがかけられている、床は木で作られランタンの明かりと合い薄暗くも温かい雰囲気となっていた

 入口の扉の横の壁際にカウンターがありその奥にロッキングチェアに座っていた老婆がいた


 まだ幼い体のローチでは老婆の顔の半分しか見えないが老婆は下を向き何かを見ているようだ


「北の門番の紹介で来た、暫く泊めて欲しい」


「あら、あの子ったらわざわざ良いのに…可愛いお客さんなこと、霧の中大変だったでしょう?」


「まあな…」


 視線を変える事無く老婆はゆっくりと椅子に揺られ話す


「お姉ちゃんは泣きべそかいて…しっかりしてる妹だねぇ」


「まぁいい、まずは10日程泊めて欲しい」


「ええ分かった…二人部屋の10日だと…え~と」


 老婆は顔を上げて考え始める


「一人部屋で良い」


「あらそう?、一人部屋が一日大銅貨3枚の小銅貨5枚だから…え~と」


 ローチが訂正すると覗き込むようにカウンターから見つめてくるが計算しだすとまた顔を上げ後ろに椅子を倒し考え始める、その光景に痺れを切らしたローチは老婆より早く計算し答えを言う


「円銅貨3の大銅貨5」


「そうそう…ウチは先に払って貰うんだけど良いかしら?」


「ああ、おい昨日の金は持ってるか?」


 未だに泣きべそかいてるマリーが首を横に振りローチはため息を吐く


「20日に変更だ、円銅貨7枚になるが生憎小銀貨しか持っていない、釣りは出せるか?」


「大丈夫だよ」


 そう言うと老婆はカウンターから円銅貨3枚を出しカウンターに置く、ローチのバッグから小銀貨を取り出すと自身の背より高いカウンターによじ登り支払いをする


「まぁ可愛いこと…部屋はそこの階段上がって一番奥の手前右側よ」


 老婆はカウンターとは反対方向にある階段を指さす、階段の近くには広い空間がありベンチと暖炉が設置されている、上階段の直線状には恐らく地下に続く階段もみられる


「ああ」


 そう端的に返事をするとマリーの手を引き階段へと向かう


「あ、先に地下のお風呂に入りなさい」


 上り階段に足をかけるのを止め後ろの下階段へと向かう


「ああ…」


「あ、その前に暖炉で服乾かしておきなさい」


「…ああ」


 地下への階段を下ろうとするのを辞め階段脇の暖炉スペースに向かい下着姿になり濡れた服を暖炉から一番近いベンチに置く


「あ、その前に洗濯しなくちゃ…お風呂に洗い場があるからつかいなさーい」


「…」


 ローチは無言で置いた服を剣と一緒に抱えるとマリーの手を引いたまま風呂へ向かった…




 階段を降り女湯の方へ進むと部屋の隅に洗い場のある広めの脱衣所に入る、洗い場は床に設置されている大きめの石桶に向かって壁から水が常時出ており常に水を張っているものでありながら桶の床に穴が空いており排水もあるものだった


 リリーはそのまま脱衣所の棚にバッグと剣を置き着ているものを脱ぎ始める


「洗うからお前も脱げ」


 いつの間にか愚図りが収まったマリーもリリーと共に衣服を脱ぎ洗い場で雨水や泥を落しに行く


 マリーと共に同じ桶で服を洗っているとマリーはまだ落ち込んだ様な声で口を開きリリーも適当に返事していく


「リリーちゃん、大丈夫?」


「お前に言われたくない」


何言ってんだコイツと内心リリーは思いつつ会話を続ける


「酷いことされなかった?」


「あぁ、何もなかった」


「そう…これからどうするの?」


「お前の仕事に同行して金を稼いで…まぁ後はしらん」


「そうじゃなくて…」


「?」


「洗った後…どこに置いとくの?」


「あー、ここに置いといて風呂上がってから絞って暖炉に置いとけば良いだろ?」


「私…着替え持ってきてない」


そう、マリーは実家から杖だけ持って出てきた為着替えなぞ持っているはずもなく唯一の着替えを洗濯すればビジョビジョのまま着るか全裸で乾かすかの二択になる


「別に裸でいいだろ…」


野蛮人ならこのような選択が可能だが普通の娘には全裸で宿泊施設を歩き回るのは耐えられないだろう


「女の子なんだからダメよ!…いや女の子じゃなくてもダメ!」


「めんどクセェ、もう俺は行くぞ」


そう言うとリリーは桶に服を残したまま浴場へ向かって行った


「ちょっと待ってよ~」


マリーもその後を追って行った


結局服は宿から借りるハメになった…

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