Ⅱ
初めは興味がある程度だった。
『ラララ~♪』
俺が木の上で寝てると、遠くから聞こえてくる歌声。いつしか君が歌ってることを知った。今日も木の上で寝てると聞こえてくる歌声。俺は誰も見てないはずなのに、わざと寝たフリをしてそれに聞き耳をたてる。
『ルルル~♪』
彼女の歌声は透明だ。汚れを知らない。だから聞いていて心地はいいが、俺は好きじゃない。まるで自分の全てを洗いざらい見られているような、そんな気分になる。俺は君と違って汚いんだ。
『~♪』
ほら、歌声が遠ざかる度に嫉妬心に駆られる。君はどこかへ行く。俺じゃない奴の所へ行く。そう思うだけでイライラするんだよ。だから俺は汚くて醜い。きっと綺麗な歌声の君はこんなこと思ったりしないんだろうな。
***
今日も彼女は俺が木の上にいるとも知らずに道を通る。もちろんいつもの歌声を響かせながら。
『ルルル~♪』
あぁ、こんな歌大嫌いだ。誰かに教わった歌なんか歌うなよ。そして今日も俺は寝たふりをして1人イライラする……
「ッ!!」
いつもの俺ならそんなことを思うだけのはずだった。けして彼女の前には姿を見せない。だが気づけば、俺は彼女の前に立っていたのだ。
「…………」
パニックで固まったままの俺に、彼女は不思議そうな顔で近づいてきた。
『こんにちは、私はアリスよ。貴方のお名前は?』
そして純粋な君は汚い俺に笑顔で話しかけた。あぁ、馬鹿な子だ。知らないのかな?白は白以外に触れると容易く別の色になることを。
『あ、あのー?』
その馬鹿な君の笑顔が俺を魅了したなんて、そんなこと本人に言えるわけない。この気持ちは睡眠を邪魔した君のせいにしようか。
「俺の睡眠を邪魔した責任……取ってよね?」
さっきの笑顔で俺はいつもの俺を取り戻せたみたいだ。意味わかってない顔。そんな君すら愛しい。俺はチェシャ猫、馬鹿な君に恋した馬鹿な猫さ。
「さぁ、何をする?」
その言葉に今度は怯えた君。その瞳に映る自分に酔いながら、俺は得意のニヤニヤ顔で笑った。