第4章 忘れ森の梟
1
少年は忘れ森で記憶を失い迷うが、
梟の賢女の助言を貰い森を抜ける。
2
「忘れてはならないことのはずなのに、
忘れていけない人がいたはずなのに、
どうして思い出せないんだろう。
僕はどうしちゃったんだろう」
少年は大きな木の幹に、
縋るように寄りかかりながら、
ぼんやりとしていました。
「ここは帰らじの森、忘れ森。
入った者はすべてを忘れる。
つらいことや悲しいことは、
何一つここにありはしない」
頭巾のついた衣を纏う背の高い女が立っていました。
その女の眼は梟のように大きくて光っています。
「ここは美しい森だ。
だが、一人は寂しい。
いっしょにくらさないか。
魔のように美しい少年よ」
女は少年を自分の住む小屋へとつれていき、
裸の彼に衣服と食べ物を与えてくれました。
「僕はいく。いかなきゃ」
女は自分の部屋で、
鏡に映る森の様子を眺めながら、
長い髪を梳き編み上げようとしていましたが、
少年が入ってきて背後から言葉をかけました。
「忘れたのでしょう。
思い出せないのでしょう。
なのにどうして」
女は振り向き、彼に縋りました。
「魂が千切れそうに、痛いんだ」
少年が呟きます。
「しかたがない、出口をおしえる。
あたしについてくるといいよ」
「あたしはまた一人になる。
つらいのに寂しいのに」
女は溜息をつきました。
「君は自分で出ようと
しないのかい」
少年が尋ねます。
「……そんなこと
考えてもみなかったわ」
女の胸に迷いが生まれました。
3
賢女が森の外へ出ると、
その体は老いさらばえ、
朽ち果てて塵になった。
彼は少しだけ泣いた。
墓標を立て歩き出すと、
一度も振り返らなかった。