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第2章 運命の歯車
死の床の妹。
傍らに落ちていた緑の黒曜石。
妹に魔女が訪った痕跡だった。
汗と排泄物の臭いに混じり、
清らかな花の匂いがしている。
いつか妹と遊んだときに摘んだ、
花弁が星に似た小さな白い花だ。
熱に汗ばんだ肌、
花に似た妹の匂い。
「お兄ちゃん、あたしが死んじゃっても、
あたしのこと忘れないでてくれるよね」
熱に浮かされた譫言のような訴え。
定まらず彷徨っていた視線が、
ふと彼を見詰めた儘で止まる。
このとき、彼の魂は妹に、
繋ぎ止められたのだろう。
兄としてのそれを越えて、
この世では許されぬほど。
だから、魔女につれて
いかれたのだ――。
魔女の執念、
少年の執着、
運命の歯車が、
噛み合ってしまった。
それが動かすのは、
いったい何か――。