第10章 偽りの接吻
魔女の試練、それは三つの謎かけ。
三つの問いに正解することでした。
1
失敗するわけにはいかない。
けど、不可能な試練だった。
あのとき、魔女は告げたのだ。
「この試練、そなたでは無理だ。
だから、誰の力を借りてもよい。
ただし、それを助けたる者は、
死をもって罰されるであろう」
自分の命を犠牲にしてまで、
手を貸してくれる者なんて、
誰もいたりはしないだろう。
いままでに、僕は自分だけで、
何かをなしとげたことなんて、
何ひとつとしてありはしない。
僕は、いまのこの自分が、
美しいことを知っている。
だから男娼のように、
厭々ながら媚を売り、
利用して捨てて来た。
その付けを払わされるのだ。
2
助けてくれそうなのは、
下女の人形しかいない。
しかし、それは彼女を欺き、
生贄としてさしだすことだ。
どうしてもそれができなかった。
そんな躊躇いすら覚えるほどに、
彼女は僕の心に入り込んでいた。
3
けれど、下女の少女は、
泣き笑いの表情をした。
「どうかお願いです。
私を騙してください。
騙してくださるなら、
私はその咎をうけて、
壊されてかまわない」
彼女の手が触れて、
僕はびくりとした。
「私は魂のない人形、
死なんてありません。
ただ、壊れるだけ――」
その唇にはあえかな笑み。
「あなたに愛されているとか、
そんな虫のいい幻想を抱いて、
壊されていくことが出来ます」
その瞳には憧憬の色、
夢見るかのような色。
石と氷だけの寂しい館で、
彼女はずっと一人ぼっち、
恋を夢みて来たのだろう。
「君の名前は?」
自己嫌悪で吐き気がし、
罪悪感が僕を押し潰す。
「できそこないの私に、
ついた名はないです。
なので、こっそりと
自分でつけました」
大切な内緒話を彼女は語る。
「おしえてくれる?」
僕は、そっと訊ねる。
「レ、レノアです。
自分が美しい貴婦人だったらって、
想像してつけたんで、
全然、似合いませんけど」
恥ずかしげな小さい声だった。
「かわいいレノア、君が好きだ。
お願いだから、助けてほしい」
僕はふるえる人形を抱きしめ、
そっと口づけて唇をふさいだ。
今度は、妹への罪悪感を
覚えながら――。




