予定は未定
とりあえず、落ち着いた所で挨拶を済ませカウンター越しに話を進める。
話によると、イグナシオも何度か組んだこともあり信頼できる冒険者らしいね。
イグナシオより一個下、つまり私より一個上17歳。
ダシルさんから見ても成長株でこれからに期待が出来る冒険者だそうですが、若い故に心配な事もあるそうです。
冒険者ならパーティーを組むのに相性みたいのがあるのでしょうが、イグナシオが『この際それは考えないでも構わないんじゃないか?』とのこと。
私は冒険者ではないです。あくまで旅仲間として紹介したいんだそうだけど、現在ご本人はお出掛け中らしい。
「女にも金にもガツガツするタイプじゃないから二人だけでも問題ないだろ。なに悪い奴じゃないぞ?」
そして、意外な事実。
件の冒険者は店主殿に泊まり賃を渡してたりしながら、この酒場の一角にほぼ住み着いているそうです。
フラッと出掛けては日銭を稼いで戻る生活をしているというのだ。
「今時珍しいぜ?昔なつかしい冒険者をするのが趣味らしいからな」
ダシルはそう言いながらおもむろにコップに酒を注ぎ始めた。
「メッタに客なんか来ないからコレくらいしか置いてねえけど飲んでくれ」
「いただきます」
そうか、注文表とかがないとは思っていたけど、コレしか置いてないのか。
その酒も、家庭で水の代わりに料理に使うようなアルコールの低い酒。正直旨くなんかないし、たくさん飲みたいとは思わないヤツだ。
酒場ならまず除外するような飲み物にあたるのではないかと思われる。
(酸っぱい)
口にしたリゼルは、なんとも言い難い独特の風味に押し黙る。まるで水で微妙に薄めたお酢を飲まされた様な気分だった。
「…どうかしましたか?」
リゼルのその様子を見たイグナシオが怪訝そうに聞いてくる。
「…私の舌がおかしいのかもしれないが酸っぱいような気がする」
「お酒がですか?あ、本当に酸っぱいですね。」
イグナシオは口に含んだだけで飲み込まず、そのままコップに戻す不作法をしてみせる。
「なに?そんなバカな話が…」
店主はコップに口を付け『………こいつは驚いた』と言ってそのまま無言でコップを回収し黙り込む。
「おやっさん…」
「なんだ、その、ちょっと古くなってたみてえだな…。」
渋面のイグナシオに詰め寄られ、苦笑いで誤魔化そうとする店主殿。
多少飲んだ位じゃ食中りになることはないだろうとの事だ。
「…はぁ、表通りまで行ってなんか買って来ますから、お嬢さんはここで待ってて下さい」
「それは構わないが、持ち込みなどしていいのですか?」
堂々と買い出しに出ようとするイグナシオに対し私はちらりと店主殿に
「ウチは常に開店休業だからな。混ぜてくれるなら持ち込み大歓迎だぜ」
「そうゆう事だそうです」
酒を飲みに訪れる酒場でなのに、店主が酒をたかりに来る酒場とは此如何に。