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酒場

「ここです」


イグナシオに連れてこられたのはなんとも趣のある古い酒場。

外見的には普通の酒場なのだが、立地がスラム街のド真ん中でありながら酒場の体裁を保っているのだから、怪しいことこの上ない。


「ちゃーす」


イグナシオが店に入っていくのでそれに続く。


(これはこれは…)


内装はありきたりな酒場そのものカウンターテーブルに丸い机と椅子が数組置かれている。

壁に穴が空いたのかアチコチ補修の後が見られる。


よし、わかった。これはヤヴァい店に違いない。イグナシオの肩に手を置き声をかける。


「ところで、私を売っても大した金額には…」


「しませんよ!?オレを一体何だと思ってんですか!!?」

裏社会と繋がってるんではないかと思っているのだが…


「バカ言わないでくださいよ。確かにスラムにあるのは怪しいですけどね?ここは冒険者同士の出会いの酒場っていうんで昔は有名な店だったんです」


だった、ときたか。確かに昔はこういった店が各所に有ったと聞いたことがあるが、今はギルドを通せば紹介されるから、そう言った店が廃れたとは聞いた事があるな。


「今じゃあまり人が寄り付かないんですけど、オレらやお嬢にどっちゃコッチの方が都合がいいですよね?」


確かに、裏道を歩く者には都合の良い店の様だが、不安に思っていたらイグナシオが小声で耳打ちしてくる。


「あまり大きな声じゃ言えませんけど、ここのマスターが辺り一帯を仕切ってるらしいから表からの介入がなくて逆に安全なんですよ」

なるほど、追跡されたりしてても分かるって事かいろいろ気を使って貰って済まんな。


「しかし、店主はどこだ、客はおろか店番や店主がいないのだが?」


「多分、ミサの最中なんじゃないっすかね?」


「…神父かなにかなのか。」


「本人は神父崩れっていってますけど、あんまり期待しない方がいいですよね。」


酒場を経営する期待できない神父とは一体。



「おっ!悪い、待たせちまったか?」裏木戸を開けて現れた男は、カウンターまで来ると話しかけてくる。


「気にしなくていいですよ、わかっててきたんですから。」


「ガキ共のメシの支度してたら時間食っちまったよ。」


「何時もの事ながら親父さんも大変っすね」


「はははは。こないだちっこいのが増えちまってな、赤ん坊の世話すんのも大変だぜ」


男はツルリとした頭を拭いながら笑う。

剃り上げた頭、服の上からでもハッキリとわかる隆々とした体つき、どうやら件の店主らしいのだが、野党の親玉と言われた方がまだしっくりくる容姿をしている。

しかし、見かけによらず子供好きな人のか、赤ん坊のくだりから物凄く締まりのない顔をしている…。


イグナシオは店主と親しいのだろう、そのまま二人は世間話を始める。


(出遅れてしまった。)


人気を避ける生活をしていたせいなのか口を挟むにもタイミングが読めない。


しかし、注文も取らないで話を始めるあたり商売っ気があまりないのだろうか。


(それにしても…)



ブルリと身を震わせ、キョロキョロと店内を見渡すが目的の物が見当たらない。


と言うか、入り口以外に扉なんかないないから、イグナシオに気づかれないようにそろりと腰を浮かす。


「どこ行く気ですかー?」


逃がしませんよー?と腕を掴むイグナシオなのだが私はそれどころではない。


「…聞きたいか?」


「えぇ、是非とも」


威嚇を込めて返事をしたのだが、イグナシオも答を聞くまで手を離すつもりがないらしい。


「そうか、漏れr…厠行きたい」


一瞬の沈黙の後、イグナシオは“バッ”と勢い良く手を離す。心なしか顔が赤いが、私のほうがもっと恥ずかしいんだが?


「恥ずかしいとかないんすか…」


いや、恥ずかしいより切羽詰まって来ているから構ってられんのだが…。


「…店主殿近くに厠はないか」

「ソワソワしてると思ったらそんな事か。コッチにあるからついて来な。」


「すまない」


カウンターの下の小さな扉をくぐり抜けて店主に続く。


「ここだよ」


店の裏手に小屋があってそれがそうらしいのだが扉がない。


「扉…」


「どうせ俺以外は使わねーから大分前に壊れてからそのまんまなんだわ。大丈夫だから我慢してくれ。」


「…むぅ」


店主はそのまま店の中に戻っていく。

仕方なく中に入ると床に丸く穴が空いていて、その下に勢い良く水が流れている。


どうやら、マンホール的な穴の上に小屋を建ててあるらしいのだがその穴は跨ぐにはデカすぎる。


「…きゃー」


思わず小さな悲鳴が喉から漏れる。

店主殿よ、ここは女人に勧めるにはあまりに酷と言うものではないか?

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