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門は堅く閉ざされている

誰も出られない様にしているのか、門の前に大勢の人が詰めより口々に騒ぎ立てていた。さながら河口のボラみたいに文句を言っている。


路地裏・掲示板・家の窓・店の看板に致まで、一体いくつのリリアーゼの似顔絵を見てきた事か…。


しかし、舜デブと呼ばれた昔のままの似顔絵を張り出した連中は、スラムに放り出されたリリアーゼがやせ細るり野垂れ死ぬ事など有り得ない思ったのだろうか?

お陰で、同一人物と思われる事なく殺到する民衆に紛れ込めているのだが…納得いかん。


人混みに紛れるのにしても流石に臭いので、汚くした服は着ておらず小綺麗なチュニックを今は着ている。

毎日手入れをしていた昔は輝くような金髪だったが、灰を塗っているため少しくすんだ金髪。髪に灰を塗るのはノミやダニなどが寄り付かないようにするためで変装ではない。


同じく薄めた灰を混ぜた水で体を洗うので不潔ではないがくすんだ肌が見えているのは一般人なら当たり前だ。


(…それにしても、門番が何を言っているのかわからん。)


先ほどから、リリアーゼの似顔絵を手に何かを叫んでいる門番達だが、民衆の叫ぶような非難の声が大きくて何を言っているのか全くわからない。


リリアーゼが見つかり次第開けてやる位の事を言っているのだろうが、正直賞金くらい懸けてやれと言ってやりたい。そんな奴とっくに野垂れ死んだに決まっていると誰かが言って、それが大勢に伝播して『リリアーゼ!シンダ!』と前でシュプレヒコールが起こり始めているのが聞こえている。


中には小さな子供まで混じっている。彼らに悪意は無いのだろうが私の両目からなにやら雫が…。


どのみち門を閉ざし流通が滞るような状態が半日も保つわけがない。


(これは下手をしたら暴動が起きるな。)


警備兵やらと視線あったりするが、昔の面影が全くないから“私こそリリアーゼだ”と言った所で追い返される。いや、むしろ牢屋でイヤらしい取り調べを受けるだろう。


(あの女さえ…第一王子さえ居ればこのような事態には成らなかっただろうにな。)


魔物が活発化した二年程前、ある冒険者と共に旅立った王太子。

かわりとばかりに、母親である側妃のバックアップを受けて国政に関わりだした当時13歳の第二王子。


第二王子は何を考えてこのような行動に出たのだろうか。本人不在の為、王太子の婚約者も決まっていないというのに、第二王子が街中でこれほど大々的に婚約者の発表をする理必要性はないと思う。

それに、実家の養女になったとは言えど、王家に平民の血が混じるのだ。

貴族のプライドは決して蔑ろにして良いものではない。平民の血に頭を下げる事を嫌がる貴族は少なくない。

平民を女王に据えると公言すれば多くの貴族の心が離れていくのも確かなのだ。

それなのに、第二王子の行動を国王が諫めないのも、またおかしい。

だが、もし国王も丸め込まれているとなれば納得がいくが、それこそ有り得ないないだろう。


第一王子を手ずから鍛え、自信を持って送り出した国王が第二王子を次代の王にする事など考えにくい。


(とにかく、これからどうしたらいいものか…)


思案に耽っている間に民衆のボルテージは最高潮に達している。押すなよ?押すなよ?…の、絶対押すなよ?まで後一息と言った所か。


門が無理矢理開かれてしまったなら混乱に乗じて街を出てしまうのが一番なのだろうが…。



「…ぬおっ!」


人混みの中グイッと後ろから腕を引っ張られ女らしくない声が漏れ反射的に裏拳が…。


「何だ、イグナシオか。」


当たった事を確信し、ゆっくりと後ろに振り返って見れば、冒険者としてはありきたりな姿をした青年がわき腹を抑えうずくまっていた。


「何だ、じゃありませんよ。あんたはこんな所でなにしてるんですか。」


身長はリゼルより頭一つ高く、18の割に精悍な顔立ちをした青年が文句を言う。


「…む、話ならにしろ。私は今忙しいのだ。」


にされたら二度と会える気がしないんですけどね」


「いや、その気になれば会える…ハズ。」


困った風に彼が言うが実際そのつもりだった。


「はぁ、本人に会う気がなけりゃ会えんでしょう。

せっかく旅仲間を紹介する目途が立ったってのに、その約束をすっぽかされそうになったオレの身になって下さいよ」


私の態度で察したらしくイグナシオはガックリと肩を落とす。

イグナシオとは浅いつきあいだが、魔力を持たない貴族の三男で学園に入る前に追い出された身だから、たいした期待はしないでいたのだが見つけてくれたのか。

「どうやら私は、イグナシオの事を見損なっていたようだ」


「…そらそうなんでしょうね。」


スラムを根城にする冒険者は人身売買にも手を出す輩がいる。どこからともなく情報を仕入れては話してくれるイグナシオもドップリその道に足をつけているのかと思っていたのだ。


「兎に角、ここじゃ人目が多すぎます。連中がいる宿屋まで行きますからついて来て下さい」

「よし、わかった。」


返事はしたものの、この人混みの中、途中ではぐれても仕方なかろうと思いながら後ろを歩き出す。


やはり、人混みを逆流しているため歩きにくいこのまま立ち止まればイグナシオの背中すら直ぐに見えなくなりそうだ。


「…隣を歩いてくださいませんかね」


「…いえっサー」


振り向いた彼の顔はなんとも怖いものだった。


くわばらくわばら

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