女心と秋の空
調理器具に難はあったものの焼いた肉は旨かった。
「あ~、暑くてかき氷食いたくなるよね」
イスの上に足を折り畳んで座っていたシャドが足を崩しながらイグナシオに話しかける。
正座という変わった座り方をしていたのだが、それでもイグナシオより明らかに低い。
イグナシオは確かに背は高いほうだけど、シャドの身長は私よりも低いような気がする。
イスの上で胡座をかくものはたまにいるが、靴を脱いで正座できちんと座られてしまうと行儀がいいのか悪いのか判断に悩む。
―全然彼の人となりが読めない
「冬ならまだしも夏に氷はむりだろう。
雨も振ってきたしこれから少しは涼しくなるさ」
いつのまにか雨が降り始めていた、牛を解体した時の血は井戸水で洗い流しはしたが、用水路が赤くなっていた雨が降れば完全に流されていくだろう。
もうすぐ季節は秋、断罪されたのは卒業式の最中で、ヒロインらしき娘をボコボコにしてから一年半が過ぎた。そうだ実りの秋は近い。
秋には鮭の遡上が始まるから、出来たら森でしばらく暮らしたい。
野営というか路上生活の経験は豊富だから平気だ深く希望する。
木の実をとりキノコを串焼きにして取れたてで新鮮な鮭を丸ごと一匹頂きたい。
「リゼルさんも食べるの好きなんですね」
「うむ、大好きだ」
そのお陰で肉の城壁を構築出来ていたのだから悔いはない。
「オレも食べるの好きです。スモークサーモンでよかったらたべませんか?」
シャドがテーブルに置いた土嚢袋から何本もの鮭が顔を覗かせている。
「いただきます」
迷わず私は一匹の鮭に手を伸ばそうと―
「まってお嬢!だいたいシャドお前はどこの川で乱獲してきた?!」
なぜか私の手を掴んでとめるイグナシオ!鮭が熱い視線を私に向けて食べてくれと呼んでいると言うのに!
「乱獲なんて人聞きの悪い他の所で集めたもんばっかりです」
テヘペロとか言いながら舌を出すシャド。
幼い上に女顔だからか愛嬌とか可愛らしさがある。
「シャド、鮭を“丸ごと”食べたい…テヘペロ」
「遠慮なくどうぞ!」
私が鮭にかじり付いている間、シャドは鯛焼きと言う、魚の形を模したお菓子は頭から食べるか尻尾から食べるべきかを延々とイグナシオと話していた。
私は頭からバリバリ食べるタイプだろう。
しかも燻し方が巧いのか鮭は無理なく骨までサクサク食べられたら。
ちょうど鮎の串焼きみたいな感じだった。
◇
「ねぇ~、あの夜が忘れられないのぉ~」
「邪竜クリシュナだかをボテクリ回したハロウィンの夜か?」
「ぅん、硬くてスゴかった」
「ドラゴンの鱗は硬いからな」
「もう一回やりたいけど、どこにいるかなぁ」
「クリシュナは、二度と会いたくないだろうな…」
「約束したんだよ?次は仮装なんかしないで普通にやろうって」
熱に浮かされたようにイグナシオにしなだれかかるシャドはとても可愛いらしいが、それは女性が男性にやるべき行動ではなかろうか?
「シャドは酒飲ますと面白れぇな」
「マスター、シャドは酒知らないんだからやめてやってくれよな」
「害はないんだからいいじゃねぇか」
「マスターにはなくても俺にはあんの!」
「あんな感じのぶっとい角も堪らなく格好いいよねぇ」
シャドが指差した先には、角を生やした浅黒い肌をした美青年が立っていた。




